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樹冠祈願  作者: レニペン
第1章〜カグヤの命〜
29/39

兄妹

第29話。




「よぉ、ラク。立てるか?」


 体が瓦礫に半分埋まっているラクにミクが声を掛ける。


「...っ!痛っ!マジで!本当に痛い!あばら骨何本かやったかも。」


 ラクが目を薄っすらと開けながら言う。


「ツバキ先輩が来てる。呼んでこようか?」


「いや、僕は自己回復持ちだから自分で回復できる。他の人にあててくれ。」


「アンタより重症はいないよ。今回はカグヤもほとんど能力を使ってないからダウンしてないし、他のメンバーでまともに攻撃を喰らったやつはいない。」


「...僕がふっとばされてから何分くらいたった?」


「2時間。」


「できれば状況も説明してほしい。僕が飛ばされたときより屋敷も随分ボロボロだけど。あのあとどうなったか僕は何も知らないし。」


「簡単に説明するとセルジュ...だったけ?」


「あってるよ。」


「そいつが死んで、そのかわりに死に際に魔獣を放ってアチラコチラに魔獣が逃げていった。」


「...は?」


「あたしたちだけじゃ抑えられなくて、神環にもすぐ連絡して応援に来てもらったけど時すでに遅しって感じ。」


「...マジかよ。」


 ラクはゆっくりと立ち上がる。あたりを見渡す神環の職員立ちが忙しそうに走り回ってるのが見えた。


「...リリアさんはどこに?」


「自分の部屋にこもっている。」


「わかった。ありがとう。」





「魔獣についてこちらから言えることは以上です。」


 カグヤは神環の職員に一礼する。セルジュの件、魔獣の件について神環に説明していたのだ。


「カグヤせんぱーい、終わりました?」


「あぁ、終わった。」


 カグヤはアラタの方に歩きながら話した。


「リリアさんの様子は?」


「すごくショック受けてた。今はそっとしてあげたほうが良いと思います。」


「無理もないよな。たった一人の肉親を殺したんだもんな。」


「あっ、あとセルジュをリリアさんが殺した件だけど、正当防衛扱いになって罪には問われないらしいです!」


「他のメンバーは?」


「魔獣狩りに街の方へ行きました。ツバキも来て、街の人で怪我した人がいないか探してるって。」


「ツバキが知っているってことは留守番中のメンバーにも連絡はいったってことか?」


「はい!」


「よし、じゃぁ俺達も魔獣狩り、行くか。」


 カグヤがそう言うとアラタは地面を蹴り、風のように街の方へ消えていった。カグヤは鎌を片手に森の方へ走って行った。





 夕方、真剣組メンバーの6人は再び早乙女邸に集まった。リリアから大事な話があるそうだ。別館の被害は恐ろしいものだったが、本館のほうはほぼ無傷だった。一階の最初にみんなで集まった部屋にカグヤは入っていった。中にはリリア、ラク、ミクの3人がいた。


「おっ、カグヤくんが一番最初に帰ってきたね。」


「ラクとミクのどっちかが一番最初に帰ってきたんじゃないんですか?」


 カグヤの質問にはリリアではなくラクが答えた。


「僕とミクは魔獣狩りに行ってない。別のことをしていた。」


「別のこと?」


「うん。これから話すのはそれについての話。」




 その後、ソウヤ、タカマ、アラタが帰ってきた


「よし、じゃぁ話をしよう。」


「その前にリリアさんはもう大丈夫なんですか?」


「あぁ。朝のように高いテンションを出すことは流石に無理だが、だいぶマシにはなった。」


 リリアは立ち上がり、ぐるりと全員の顔を見渡した。


「まずは謝罪をさせてもらおう。今回は君たちを巻き込んでしまって、本当にすまなかった。」


 リリアは深く頭を下げた。


「お詫びと言ったら何だが、なにか情報を与えようと思って。お兄ちゃんの研究してきたものをラクくんに探りに行ってもらったんだ。本当は私が行くべきだったんだろうが、少々精神的にキツくてね。少しでも君たちの役に立てばいいんだが...」


 ラクがペコリと礼をして立ち上がる。


「じゃぁ、僕がセルジュの研究室で知った情報をみんなに共有するね。たくさんあるよ。覚悟はいい?」


「そうもったいぶらずに早く言えよ。話す内容は多いんだからさ。」


 ミクがラクに向かって言う。ミクの反応からしてミクはラクの話の内容を知っているようだ。ミクはラクと一緒に研究資料を漁っていたのだろう。


「1つ目。5大魔獣について。」


「「「5大魔獣?」」」


「あぁ。セルジュはここ以外でも魔獣を作っていて隠していた。正直弱いやつはなんとかなるが、問題は強い奴らだ。5つの大きな魔獣をセルジュは作って早乙女邸以外の場所に隠していたらしい。」


「5大魔獣ってどんなヤツがいるんだ?」


 ソウヤがラクに問う。


「先輩、一体はすでに見たことがあるんじゃないですか?」


「見たことがある...あっ!マリオネットの時の!」


 ソウヤは大きな狼のような怪物を思い出した。


「そうです。一体目はアレ。僕とソウヤ先輩で戦ったアレです。ミクとハルキも見たと思う。アレはすでに死んでいて、おそらくマリオネットの能力で動いていた。闇の軍が何処かのタイミングでアレを討伐して、その遺体を操っていたのでしょう。じゃぁ、アレについてのセルジュの研究室から出てきた資料を簡潔に伝えます。『大魔獣1号。ついに成功した。7体の試作品での反省を活かし、狼に新しい薬品を入れ、巨大化させることに成功。私が作った石で能力を搭載、操ることも可能。全長約40メートル。』とのことです。一緒に写真が入ってました。どうぞ。」


「確かに俺等が見た怪物で間違いなさそうだな。」


「ラク、2体目以降は?」


「もちろん伝えるよ。他の魔獣は簡潔に説明するから、後で気になったら資料を読んで。だけどまぁ、いつかこのように誰かに読まれることを恐れたからか能力とかは端折られてるけどね。」


「早く。」


「そう急かさなくても。2体目、陸上で空を飛ぶ馬鹿みたいにデカいクラゲ。写真はこれ。3体目、デカい骸骨。多分人間を魔獣にしたタイプのやつ。写真。4体目、ウミヘビ。首がたくさんある。中二心がくすぐられそうなヘビ。写真これ。5体目、これも人間なのかな?巨人だ。写真コレ。」


「...説明適当だな...」


 カグヤが少し呆れたように言う。


「だってこんな情報、厄介事が増えるだけで僕らにメリットないじゃん!」


「まぁそうだけど...」


「はい!次行くよ!次の情報はセルジュの日記だ!日記があって読んでみたら興味深いことが書いてあった。」


「どんなの?」


 タカマが聞くと、ラクではなくミクが答えた。


「それはあたしが説明しよう。たくさんの事柄が書いてあってね。1つ目は名前について。」


「名前?」


 タカマの声を聞いてミクは少し嬉しそうに話を続ける。


「あぁ。セルジュ曰く、この世界の日本人の名前はおかしいらしい。苗字は漢字のくせに下の名前はカタカナ。それがセルジュにとってはおかしいことらしい。」


「って言われても、俺達は生まれたときからこの名前だしな...というか、下の名前がカタカナなのってそんなにおかしいか?」


 カグヤはセルジュが何に違和感を感じたか理解できなかった。


「2つ目、この日記に書いてあったことの大半はノルトハーヴェンについてだった。」


「ノルトハーヴェンって...どこだっけ?」


「島だよ。ヨーロッパの。16年前に突如として現れ、戦争をして他のどのヨーロッパの国にも属さずに自治区として存在することに成功した場所だ。今は平和になっていて、たしか大西洋の灯台って呼ばれるくらい貿易が盛んで...」


「タカマナイス!そのノルトハーヴェンについて恨みの文がずらりと書いてあったんだ。流石に恐怖を感じるレベルで。」


 黙って会話を聞いていたリリアは少し顔を曇らせる。


「この日記によると早乙女家の先代はノルトハーヴェンでの戦争のために兵器を作る研究者のおえらいさんだったらしい。それで...」


 そこまで話してミクは話すのをやめた。リリアの少し切ないようなあの顔を見て話を続けられるほど無神経ではない。しばらく沈黙が続いた。ラクが口をやっと開き、沈黙を終わらせた。


「日記に書いてあったこと3つ目。8人の魔法使いについて。」


「8人の魔法使い?」


「あぁ。ただの童話だ。たいした情報ではない。まったく、これだけ派手にやっておいて収穫は5大魔獣くらい。名前だのノルトハーヴェンだの魔法使いだの、日記は役に立たなかったな。」


 ラクはすこし残念そうに言った。


「すまない、大した情報がなくて。もしからなにか見つけたら支給連絡するよ。」


 リリアが少し申し訳なさそうに言う。


「いえ、大丈夫です。5大魔獣の情報だけでも美味しいです、リリアさん。ですが、こちらも一つの組織です。ここまでしたのですから、もう少しメリットが欲しいです。」


 カグヤは丁寧にリリアに話し掛ける。


「...メリット?」


「はい。今後、俺達に協力してくれませんか?なにか困ったことがあったり新しい武器やサポートアイテムを作ってもらったり...」


 カグヤの言葉を聞き、さっきまで曇っていたリリアの表情がパァっと明るくなる。


「喜んで!!」





 リリアは真剣組が帰るのを見送って、一人自分の部屋に戻った。ユウリに連絡したら至急帰ると連絡が来たから、明日の朝には帰ってくるはずだ。だから、明日からはこの広い屋敷に一人ということは無いはずだ。そう、一日だけ。だけど、リリアはさみしく感じていた。発明室にこもってなにか作って時間を潰そうかとも思ったが、どうも今日はそんな気力がわかない。リリアは自分の部屋の本棚から一冊の絵本を取り出した。昔、両親がよく読みきかせしてくれた8人の魔法使いの童話だ。リリアはそれをギュッと抱きしめる。母が絵本を開いて、兄と共にその前に座り、二人でキラキラした目で本を見る。その様子を父は微笑みながら見ていた。その情景がリリアの頭の中にぼんやりと出てくる。あの時は家族全員幸せだった。涙が出てくる。セルジュがまだまともだった頃を思い出す。14年前、両親が死んだ時、彼は『俺がいる。もう一人じゃない。』と言ってくれた。その言葉は嘘だったのだろうか。兄は自分のことを見捨てて、怒りや絶望で精神を壊し、あんな事に...


 そこまで思ったところでリリアはそれは違うのではないか、と思った。兄は自分のことを見捨てた。だけど、自分は兄を見捨てなかったのだろうか。兄は孤独だったはずだ。たった一人の肉親である妹にすら見捨てられていたのだから。だから兄を止める者はだれもいなかった。なんなら自分は最後の歯止めを自分ではなく真剣組に押し付けようとした。自分は兄を見捨てていないと思っていたが、それはどうなのだろうか。自分がはじめから拒絶されても兄に寄り添っていたら...リリアは後悔で涙が溢れてきた。


『もう3年もたったら30になるのに、そんなふうに泣くなんて、まだまだリリアは子供だな。』


 一瞬優しかった頃の兄の声が聞こえた気がした。しかし、リリアが顔を上げても誰もいなかった。







「世界に魔獣が解き放たれたか。さて、これから世界はどう変わるんだろう。楽しみだなぁ。」


 光り輝く葉っぱを見ながら、中性的な容姿の少年は微笑んだ。




早乙女邸編完結しました!次回から第一章ラストスパートです!


この世界の名前、やっぱり変なんですね。苗字は漢字で下の名前がカタカナ、、、現実世界でもそういった方はおられますが、この世界では全員が全員そうですからね。

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