第7話「三角関係は転生してもややこしい」
夢の中、男と女が向き合っていた。
そして、その間に、もう一人の女の子。
一人は、彼を愛していた。
もう一人も、彼を愛していた。
でも、彼が選んだのは――
「……って、あーもうまためんどくさいやつ来たな!」
ベッドの中で俺、加瀬透は、頭を抱えてうめいた。
前世の恋愛トラブル。通称「夢の昼ドラ回」。
いやマジで頼むから、前世くらい平和に恋愛しててくれ。
「加瀬くん、ちょっと相談いい?」
放課後、そんな俺に声をかけてきたのは演劇部の井上真白。
柔らかい口調と、猫のような目元。どこか気品のある子だ。
「最近、同じ夢ばっかり見るの。白い街、噴水のある庭園、そして――。」
「恋人にプロポーズされた、とか?」
「……違うの。私、その人の隣にいたけど、選ばれなかったの。」
びっくりした。完全一致。
真白が言うには、夢の中の彼は“幼馴染で騎士見習い”。
でも彼が好きだったのは、もう一人の女の子――“歌姫”。
その歌姫こそ、なんと真白の同級生であり親友、二階堂千紗だった。
「うそでしょ……千紗が、あの“選ばれた子”だったの?」
「でもね、千紗本人は“そんな夢見たことない”って言うの。」
その瞬間、ピンと来た。
つまり――
千紗=“選ばれた側の記憶”を持っていない。
真白=“失恋の記憶”を持って転生してきた。
つまりこの三角関係、今世では“一人だけが覚えてる片想い”という最悪な構図になってる。
翌日、俺は千紗にも会って話を聞いた。
すると、彼女がこんなことを口にした。
「最近、すごく気になる人がいるの。演劇部の男子で、セリフが下手くそなんだけど、真面目で優しいの。」
……まさか。
それ、“世で君を選ばなかった騎士”の転生者じゃない?
名前は三好慧。
地味で不器用で、でもいつも真白を舞台袖で助けてる。
現代では、彼が“選ぶ”側じゃなく“見守る”側になってるのかもしれない。
そして、その日の放課後。
俺は真白を中庭に呼び出した。
「ねぇ加瀬くん。夢ってさ……消せないのかな。」
「消せない。でも、上書きはできるよ。」
俺はポケットから紙を取り出した。三好慧が書き残したセリフメモだった。
「彼、言ってたよ。『舞台の上の君は、本当に綺麗だった』って。」
真白はその紙を手にとって、そっと微笑んだ。
「……そっか。今度は、私が選ばれる番なんだね。」
その日、演劇部の練習場で。
真白は舞台の上から、まっすぐ三好慧を見つめて言った。
「あなたに、最初から……気づいてほしかった。」
千紗はそれを見て、ぽつりと呟いた。
「なんか、前世で私が取っちゃったもの、返してもらった気分。」
加瀬透、高校二年。今日も恋の“調停役”。
でも今世は、ちゃんと報われる物語もあるって、信じたくなる日だった。
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