第60話「ただの冗談、それでも」
夢の中。
金の装飾に囲まれた王座の間。
「私を、愛してはくれないの?」
王女の問いに、跪いた黒髪の青年は、顔を上げなかった。
「……お答えできません。私は、ただの従者ですから。」
「それでも――私は、あなたを……!」
王女の声は、届かなかった。扉の外、決して越えられない身分の壁が、音もなく落ちていった。
「おはよう、陛下。今日の予定は?」
「まずは昼寝よ、その次はおやつ。その後は……そうね、そなたに甘やかされるわ!」
「仰せのままに。」
教室の隅、ひときわ目立つ“王政ごっこ”をしているのは、3年の如月 雫と、同じく3年の高瀬 総士。
美人で我が儘、女王様キャラの雫と、忠実で静かな従者役の総士。
だけど誰が見ても分かる。二人の関係は、どこか本物めいていた。
「透くん、知ってる? あのふたり、幼なじみなんだって。」
真白がこっそり耳打ちしてくる。
「でも、付き合ってるわけじゃないんだよねー。なんか、変に距離があるっていうか。」
「……うん、知ってる。」
俺の中ではもう確信があった。昨晩見た夢――
王女と従者。あの想いが成就することなく終わった恋。
言えなかった気持ち、報われなかった想い。
でも今、同じふたりが“冗談”という形で、そばにいる。
放課後。
二人は誰もいない屋上でまた“儀式”をしていた。
「そなた、今日は機嫌がいいから褒美をあげよう。ほら、頭を撫でていいわよ?」
「恐れ多くも、謹んで」
総士は微笑んで、雫の頭にそっと手を置いた。
まるで宝物に触れるように、優しく。
その時、雫がふと真面目な声で言った。
「本当は、前から言いたかったの。昔も、今も……ずっと、好きよ。」
総士の手が止まった。
「それって、前世も……?」
雫は笑った。
「さあ、何のことかしら?」
「でも、身分も何もない今なら、ただの“好き”でいいでしょ?」
総士は小さく頷いた。
「……今度こそ、声に出します。私も、あなたを――。」
風が吹き、屋上の柵にぶつかってカタンと音を立てた。
それでも二人の笑い声は、風の中で続いていた。
加瀬透、高校生。
今日は、“届かなかった想い”が、ひとつの言葉になった日だった。
冗談みたいな関係のなかで、ようやく素直になれる場所を見つけたふたりは、
身分も義務もない世界で、今度こそ手を取り合えたのだ。
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