表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/60

第6話「パン屋と海賊と、最後の宝」

「見つけたかもしれない。」


その日の昼休み、俺は高宮ほのかにそう告げた。


「……宝を?」


「うん、たぶん。夢で見たんだ。嵐の中、お前――いや、“前世のお前”が船にしがみつきながら叫んでた。」


ほのかは、ゆっくり頷く。


「俺の宝は……金じゃねぇ。地図でもねぇ……。」


加瀬透は目を閉じて、夢で聞いたその声を思い出す。


「――“俺が一番欲しかったのは、お前たちと過ごした時間だった”って。」


嵐の中、沈みゆく船の中で、海賊だった彼は最後の最後にそれを叫んだのだ。


「仲間と、船と、空と、塩と風と、笑いと喧嘩と、酒の味と……その全部が、俺の宝だったんだってさ。」


ほのかは黙って話を聞いていた。


そして、ぽつりと呟く。


「……確かに、最近分かる気がしてた。バイトして、パン焼いて、お客さんに“おいしい”って言われるたびに……なんでか、泣きたくなるんだ。」


「きっとそれだよ。“誰かと分け合うもの”――それが、お前にとっての宝だったんだろ。」


ほのかは、口元に小さく笑みを浮かべた。


「加瀬くんってさ……本当に変な人だよね。私の夢の中の宝を、私より先に気づくなんて。」


「まぁ、変な体質なんで。」


「……ありがと。」


その一言は、焼きたてパンのようにあたたかくて、少し甘かった。




放課後。パン屋の裏手で、ほのかは焼きあがったばかりの“宝箱パン”を取り出した。


ふわっと香るシナモンとナッツ、ほんのり塩気のきいた生地に、金色に照り返すグレーズ。


「見て、これが私の“お宝”。新作よ。」


「食べていい?」


「当然でしょ。仲間に食わせるのが、あの海賊の流儀だったから。」


そのパンは、まるで夢の続きを食べてるみたいだった。


「……うまいな。」


「でしょ?」


そう言って笑う彼女の笑顔は、前よりずっと軽くなっていた。


「夢の中の“あの人”に、これ食べさせてあげたかったな。」


「――夢の中の“お前”は、絶対そう思ってたよ。」


今、彼女は“自分で見つけた宝”を誰かと分かち合っている。


それが、夢の成仏なのか、それとも再出発なのかは分からない。


でも俺には分かる。


あの沈んだ帆船の中で、宝を見つけられなかった男は、今――パン屋の少女として、宝を手にしたんだって。


加瀬透、前世の遺言代行業、本日も無事終了です。


次の夢は、どんな物語だろうか。

感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ