第59話「再戦、勝ちにいこうぜ」
夢の中。戦場を見下ろす高台。
白髪の男が、地図の上に指を這わせていた。
「……間に合わない。援軍も、補給も……。」
部下が叫ぶ。「殿、御決断を!」
だが、男は目を伏せたまま、指を止めた。
「……この戦は、既に負けていたのかもしれん。」
その時、矢が飛び、火が上がった。
最後まで采配を下せなかった男は、戦場に崩れ落ちた。
「なあ透、オレ、お前の上に乗るとかプレッシャーしかねぇんだけど。」
運動会当日の朝、そう言ったのは騎馬戦で“上”を担当する同級生、松坂 匠だった。
成績優秀、戦略ゲームで全国大会出場。
でも肝心なところで指示が出せない。何か、ブレーキがかかるらしい。
「お前さえ前に出てくれれば、あとはなんとかする!」
俺の言葉に、彼は半笑いで答えた。
「……透、マジで信じるからな?」
紅白のハチマキが揺れる中、騎馬戦が始まった。
四方八方から飛び出す騎馬。視界の中、赤と白が入り乱れる。
「松坂、どうする?」
「……考える……いや、やっぱ無理、透、好きに突っ込め!」
「おう!」
俺はただひたすら前に出た。ど真ん中。
迷いなく、一直線。相手騎馬の中心に突撃。
「右!帽子!」
松坂の指示が飛ぶ。
その瞬間、彼の腕が伸び、帽子が風を切った。
「白組!松坂・加瀬騎馬、一本獲得!」
歓声が上がる。
「うおおおおおお!やったー!」
松坂は俺の肩をバシバシ叩きながら叫んだ。
「透!お前、マジ最高!」
「お前もよ、指示、完璧だった。」
試合後、松坂は肩を回しながらぽつりと言った。
「なんかさ……今回、ちょっと踏み出せた気がするんだよね。」
「采配、ちゃんとやれたっていうか。」
「命がかかってないって、すげー自由。」
俺は笑って答えた。
「前世じゃ死ぬ場面だったかもしれないけど、今はただの運動会だしな。」
「……この世に“遊び”って概念あってよかった。」
彼はそう言って空を仰いだ。
加瀬透、高校生。
今日は、“決断を怖れた軍師”に、
もう一度“采配をふるう”楽しさを思い出してもらった日だった。
今は戦じゃない。命もかからない。
だからこそ、本気で遊んで、勝ちを掴む価値がある。
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