第55話「孤独の先にある光」
夢の中。ランプの光が揺れる書斎。紙の束と錬金器具、数式が並ぶ黒板。
その中央で、ひとりの男が黙々と薬品を混ぜていた。
――孤独だった。
家族も友も去り、残ったのは得体の知れない“発見”だけ。
「人々のために研究した……つもりだったのに……なぜ、誰も……。」
指が震え、フラスコが割れた。
破片の中に映ったのは、自嘲するような科学者の顔だった。
「加瀬先輩って、文系ですよね?」
放課後、理科準備室で声をかけてきたのは、1年生の天才肌・比良坂 遼。
いつも静かで目立たないが、化学の分野では学年随一。
にもかかわらず、常にどこか怯えたような目をしていた。
「先生に“研究室推薦出してみないか”って言われて……。でも、僕が行っても、邪魔になるだけな気がして……。」
「なんでそう思うの?」
「知識をひけらかすって思われたくないし……。昔から、“なんか偉そう”って言われてばかりで。」
その言葉に、昨日の夢が胸をかすめた。
――あの科学者は、ただ真剣だっただけだ。
それなのに、“理解されなかった”だけで孤独になった。
夜、夢が続いた。
研究室の扉を誰かがノックした。だが、科学者はそれに気づかず、顔を上げもしなかった。
訪れた者は肩を落とし、扉を閉めて去っていく。
「……また、独りだ……。」
その呟きが、静かに空気を震わせた。
翌日、比良坂を校舎裏で見かけた。
彼は一人、ノートに化学式を書き殴っていた。
肩がこわばっていた。
「比良坂くん、俺さ。思うんだけど。」
「……なんですか?」
「前の時代なら、君みたいな人は、きっと理解されなかった。でも、今は違う。」
「違う……?」
「君の知識は、誰かの未来にちゃんとつながる。それを使う場所が、ちゃんと用意されてるんだ。」
「でも……僕がそこに行くことで、また一人になるのが怖いんです。研究に没頭すればするほど、人が離れてく気がして。」
「なら、離れない人を見つければいい。孤独じゃなくて、同じ熱を持った仲間を。」
その言葉に、比良坂は初めて、はにかむように笑った。
「……推薦、受けてみようかな。」
数週間後、彼は校内推薦を通過し、近隣大学の研究プログラムに参加が決まった。
「加瀬先輩。僕、行ってきます。」
「うん。たぶん、その先には、君の言葉を理解してくれる人がいるよ。」
比良坂は小さく、でも確かにうなずいた。
加瀬透、高校生。
今日は、孤独の中で報われなかった科学者の未練を、
今を生きる若き探究者の手で、未来へとつなぐことができた日だった。
知識は、今この時代では――孤独ではない。
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