第53話「つぎはぎの夢と、叶った布地」
「ねぇ、加瀬くんってさ。……前世って、信じる?」
放課後の図書室。黒と赤のゴスロリドレスに身を包んだ少女――白羽 詩音が、突然話しかけてきた。
クラスでも有名な“異彩”。
毎日違うドレスを着てくるし、制服は着てこない。
けれど、誰よりも姿勢は正しく、言葉遣いも丁寧で、目立つけど決してふざけてはいない。
「信じるけど……なんで俺に?」
「最近、自分の中の“執着”が怖くなったの。なんでこんなにドレスが好きなのか。なんでこんなに……“着ていないと落ち着かない”のか。」
彼女の声は、ふだんの華やかさとは対照的に、震えていた。
その夜、俺は夢を見た。
貧しい村の外れ、小さな仕立て屋の店先。
少女が針を持ち、つぎはぎの布で自分用のワンピースを縫っている。
窓の外を、村の貴族の子女がカラフルなドレスを纏って歩いていく。
「いつか、私も……ああいうの、着てみたいな」
そう呟いた少女の声は、あまりにも静かだった。
何日もかけて縫い上げた、形だけは真似たドレス。それを纏って、彼女は小さくくるりと回る。
しかし、それは“夢”の姿だった。現実では、そのドレスすら、完成しなかった。
翌日、再び図書室で白羽さんと向き合う。
「……夢、見たよ。君の前世。仕立て屋だった。ドレスが、すごく着たかったんだ。」
彼女は驚いたように目を見開いた。
「……やっぱり、そうなんだ。夢なのか、記憶なのか分からないけど、たまに縫ってるの。“布地がある”だけで嬉しくて。」
「それ、異常じゃないよ。“夢が叶わなかった人”の自然な反動なんだと思う。」
彼女はしばらく黙って、それから小さく笑った。
「……あのね。私ね、小さい頃から思ってた。“なんでみんな、ドレスを特別視するんだろう”って。でも今は、私にとっては、“毎日が特別”である証なんだと思う。」
「そっか。なら、毎日が叶え直しだね。」
「叶え直し?」
「前世で着られなかった夢を、今日またひとつ叶えてるんだよ。君がドレスを着るたびに。」
その言葉に、彼女の瞳がじんわりと潤んだ。
帰り際、白羽さんはドレスの裾を摘んで、丁寧に一礼した。
「ありがとう、加瀬くん。……今日のドレス、なんだかすごく軽い気がする。」
俺も軽く会釈を返した。
加瀬透、高校生。
今日は、“着られなかった夢”に、“着られる今”を重ねた日だった。
つぎはぎでも、縫い直しでも、夢は確かに“今”に繋がっている。
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