第52話「四人で笑える未来」
夢の中――そこは、かつての王国の城内。騎士の訓練場と厨房の間、微かに香るハーブの匂い。
「なあ、今日も来てくれる?」
若い料理番の少年が、照れくさそうに笑う。
彼に呼ばれたのは、小柄な女騎士。
整った鎧姿に似合わない、緊張した面持ちでうなずく。
その光景を、遠巻きに見るふたりの視線があった。
ひとりは、上品な制服を纏う貴族の少年。
もうひとりは、その婚約者とされていた少女。
「……料理番なんかに、夢中になりおって。」
「でも、貴方は何も言わない。なぜ?」
「だって、僕は……彼の作る料理が、あんなに嬉しそうに食べられるなら、それでいいんだ。」
少女は黙って、彼の横顔を見つめていた。
現世、昼休みの図書室。
俺はふと、向かいのテーブルに集まった4人組に目を止めた。
男子2人、女子2人。学年は俺より上。けれど、やけに仲がいい。
ボケとツッコミ、からかいとフォロー、まるでずっと昔から一緒にいたような空気。
だが、その中のひとり――黒髪ポニーテールの少女が、ふと目を伏せた瞬間、胸の奥に引っかかるものを感じた。
――あの夢だ。
彼女が「騎士」であり、もうひとりの少年が「料理番」だった過去。
そして、その2人を見つめていた残りの2人――
俺の視界が、その“未練”に重なるようにして、鮮やかな記憶を映した。
「ねえ、加瀬くんって、占い得意なんだっけ?」
声をかけてきたのは、料理好きの男子・高良 翔。
その笑顔の裏に、微かに見える迷い。
「最近、誰かの気持ちって、分からなくなることない? 仲が良すぎるとさ。」
「うん、あるよ。“近すぎて見えない”ってやつ。」
「……俺、もしかして気づいてないふりしてるのかな。」
「でも、気づいてるよ。きっと、みんなそう。」
「そっか……それでいいんだよな。もう、あの頃とは違うんだし。」
“あの頃”という言葉が自然に出た。
それだけで、もう確信に近かった。
その週末、4人が文化祭の模擬店でカレーを作ることになった。
ポニーテールの女子・葉月、料理番だった翔、静かな貴族の少年・礼央、そしてその元婚約者だった美咲。
4人は、厨房で笑いながら、同じ鍋を囲んでいた。
誰が誰を好きだったか、今となっては、もうどうでもよかったのかもしれない。
ひとつの鍋をかき混ぜ、同じエプロンで笑い合う。
“報われなかった恋”が、“報われた友情”に変わる瞬間を、俺は目の当たりにしていた。
「透くん、あの子たちって、なんか絆が深いよね。」
「うん、たぶん――前世で届かなかった思いを、今で繋ぎ直してるんだと思う。」
「へぇ、そういうの、ちょっと素敵だね。」
真白の言葉に、俺も小さくうなずいた。
加瀬透、高校生。
今日は、“四角関係の未練”が、“四人の絆”としてほどけた日だった。
報われなかった想いも、笑い合える今があれば、たしかに報われている――そう思えた。
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