第50話「夢見る少女と、祈る少年」
「また、振られたんだって。」
昼休み、教室の隅で真白がぽつりと呟いた。
視線の先にいたのは、3年生の園田優花先輩。明るくて優しくて、笑顔の絶えない人。
けれど、彼女にはもうひとつの顔がある。
――告白しては振られ続ける、伝説の“失恋率100%”女子。
噂では、過去5回連続で全滅中だという。
「そろそろ、恋愛やめた方がいいのかなぁ……」と笑う彼女の笑顔は、どこか“慣れた痛み”のようだった。
その夜、俺は夢を見た。
小さな食卓に、並ぶ三人分の皿。父と母、そして少女。
笑い声、温かい鍋の匂い、こたつの中で絡まる足。
少女は、それを見ながら微笑んでいる――いや、それだけだった。微笑んでいるだけ。
「……また、夢か。」
夢の中の彼女は、ずっと“その中に入れなかった”。
まるで、絵に描いた理想のように、“家庭”を眺め続けるだけの存在だった。
「園田先輩って、どうしてそんなに振られるんだろうね?」
真白が呟いたそのとき、ふと廊下ですれ違った男子生徒の背に、なぜか“縁の糸”のようなものを見た。
無表情で無愛想、目立たない眼鏡男子――
「……あれ、誰だっけ?」
「え、ああ、同じ3年の相川くん?たしか文化部の地味メンだよ。」
だけど、その瞬間俺は、はっきりと“見た”。
夢の中、泣きじゃくる少女のそばに、傘を差し出すひとりの青年の姿を。
「君の夢が叶うまで、俺は待ってるよ。」
――あれは、相川くんだ。
放課後、俺は先輩に話しかけた。
「園田先輩って、恋愛占い、信じます?」
「え? なに急に。……うーん、まあ、外れ続けてるけど、ちょっとは気にしてるよ。」
「じゃあ今日の恋愛運、教えてあげます。“運命の人は、すぐそばにいます”。“でも、気づかなければ通り過ぎます”。」
「えっ……どういうこと?」
「先輩が理想の家庭を求めるのは、きっと誰かに“見守られていた記憶”があるからです。だから今度は、先輩自身が“その人のもとへ歩いていく”番です。」
彼女はしばらく黙って、それからぽつりと呟いた。
「……なんか、ちょっとだけ、思い当たる人がいるかも。」
「じゃあ、占いの通りに、行動してみてください。運命、変えられるかもしれませんよ。」
数日後、噂が広まった。
園田先輩が、相川くんに告白して、OKをもらった――と。
教室の窓から見たふたりは、まだ不器用な距離感のまま、でも確かに並んで歩いていた。
加瀬透、高校生。
今日は、“叶わなかった夢”に、“叶える意思”を添える手伝いをした日だった。
夢の中で泣いていた少女が、今度は笑って歩き出す姿を、俺は静かに見送った。
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