第48話「ステップ・オン・マイ・ハート」
「俺に未練なんか、あるわけないじゃん?」
昼休みの屋上で、ドヤ顔を決めていたのは3年の大久保晴臣先輩。
生徒会の元会計で、面倒見も良く、おしゃべり好きの愛されキャラだ。
「加瀬くんの噂、聞いたよ。未練がどうとか、前世がどうとか。でも俺、ほんとに何もないからね?」
「そうですか……。」
「強いて言えば、過去の恋愛も悔いなし! 振られたこと? まあ……多少はあるけど、よくある青春の1ページってやつだよ!」
何かを隠してる感、満載である。
その夜、俺は夢を見た。
ヨーロッパ調の豪華な舞踏会。照明が揺らめく中、タキシードの紳士とドレスの淑女がペアで踊っている。
そして、音楽の盛り上がりに合わせて――
「うわっ! ご、ごめん! また踏んだ! 待って、まだステップ覚えてなくて!」
「あなたとは、もう踊れません!」
バキッと鳴るハートの音。
舞台袖で膝から崩れる男の顔は……どう見ても大久保先輩である。
翌朝。俺はたまらず話しかけた。
「先輩、文化祭のクラス出し物、もう決まりました?」
「いや、まだだけど……なんかあるの?」
「“社交ダンス喫茶”ってどうでしょう?」
「は?」
「タキシード着て、踊りながら接客する。テーマは“前世舞踏会”。」
「おまっ……俺の過去、見たな?」
「いえ、前世です。しかも未練が爆発してました。」
「うわあああああああっ!」
結果、大久保先輩のクラスはダンス喫茶をやることに。
当初は乗り気じゃなかった彼も、リハーサル中にふと呟いた。
「……昔の俺、ステップ覚えられなくて、ずっと相手に迷惑かけてたんだ。でもさ、もし今もう一回、ちゃんと踊れたら……ちょっとカッコいいよな。」
本番当日。先輩は完璧なステップでパートナーをエスコートしていた。
拍手が起きる中、俺の前に戻ってきてぼそっと呟く。
「なあ加瀬。これで、未練、ちょっとは昇華できたか?」
「だいぶ、ですね。」
「……なら、まあ。踊った甲斐あったわ。」
加瀬透、高校生。
今日は、踏み外したステップの記憶を、ひとつ笑いに変えた日だった。
そしてその一歩は、確かに過去の自分を追い越すダンスになっていた。
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