第47話「その背中を超えた日」
夢の中、血の匂いが混じる荒野。甲冑に身を包んだ若き武士が、槍を手に立っていた。
その背に、弟がいた。
「兄さん、俺も戦います!」
「いいや、お前は家を守れ。まだお前は、前に立つには早い。」
「でも!」
「……お前には、“託せる”ものがある。だからこそ、ここで生きろ。」
男は、弟に背を向けたまま、最後まで戦場に立った。
その姿が、弟の胸に焼きついていた。
現世。校舎裏のベンチで、2年生徒会副会長・御影悠人が、ノートを広げながらため息をついていた。
「透くん、ちょっとだけ、相談いい?」
「なにかあった?」
「最近さ、“御影なら大丈夫”って言われることが多くてさ。それって信頼なんだろうけど、なんか……俺、本当に“兄さんの代わり”になれてるのかなって。」
「代わり?」
「兄がいたんだ。すごく優秀で、部活も成績も生徒会も完璧で……でも高校入る前に亡くなった。俺が家を継いで、周りも“二代目”って空気で。でも、俺自身はずっと……兄には敵わないと思ってる。」
俺の中に、あの夢の情景が蘇る。
――“前に出るな”と言われて、それでも戦うことを望んでいた弟。
そして今、誰かの信頼に怯えている悠人の姿と、重なって見えた。
数日後。文化祭の会場設営中にトラブルが起きた。
模擬店の配置を巡って、1年生と3年生の間で揉め事が発生。
動線も塞がれ、準備が完全に滞ってしまった。
「どうするんだよこれ、明日までに直せんのかよ」
「でも3年の伝統だし、今さら動線変えるなんて――」
ピリピリとした空気の中で、悠人が静かに手を挙げた。
「一度、全部“失敗”として見直そう。先輩たちには申し訳ないけど、今年は“動線逆転”でいく」
「前例を壊すってこと?」
「そう。でもこのまま続けるより、今年の全体を守る方が優先だ。兄さんなら、前例を守ったかもしれない。でも俺は、“今”を守る方を選ぶ。」
迷いはなかった。
その言葉で空気が変わり、やがて皆が動き出した。
放課後、俺は悠人に声をかけた。
「今日の判断、君にしかできなかったと思う。」
「兄さんなら……俺のやり方、どう思ったかな。」
「きっと、“悠人らしい”って言うよ。兄の背中を目標にするのもいい。でも、越えるってのは“違う場所に立つこと”でもある。」
悠人は静かに笑った。
「……そうか。やっと分かった気がするよ。“任された”って、こういうことだったんだな。」
加瀬透、高校生。
今日は、兄という影の中で揺れていた誰かの背中が、“信頼”という名の光に変わるのを見届けた。
そしてその背中はもう、誰かの“代わり”じゃなく、誰かを“導く”存在になっていた。
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