第46話「黒い花と変わらぬ想い」
夢の中、秋風に揺れる野原に、少年が立っていた。
小さな指輪。それは、コスモスの花で編まれていた。
「これ、君に……。」
でもその声は、少女に届かなかった。彼女はもう、そこにはいなかった。
「間に合わなかったんだ……。」
指輪を握る手が、小さく震えていた。
放課後、校舎裏の花壇で1年の佐倉一真が黙々とコスモスの手入れをしていた。
隣には、同じ1年の如月美羽。
やわらかな雰囲気の子で、一真とは幼なじみらしい。
「……なかなか、言わないね。」
「何が?」
「告白。あんた、コスモスが満開になったら言うって……。」
「……まだ、準備中なんだよ。」
一真は少しだけ頬を赤らめながら、指先で花を摘んでいく。
そして数日後、彼はついにそれを渡した。
「これ……全部、お前のために育てた。」
美羽はコスモスの花束を受け取り、小さな声で呟いた。
「……ありがとう。」
けれど、花の中に混じっていた一輪の“黒いコスモス”を見て、彼女の顔が曇った。
「これ、知ってる……“恋の終わり”って花言葉だよね……。」
そして、涙が零れ落ちた。
「どうしてそんなの……嫌いになったってこと……?」
一真は何も言えなかった。
ただ、茫然と立ち尽くすだけ。
その場にいた俺は、そっと口を開いた。
「その花、もう一つ、花言葉があるんだ。」
「……え?」
「“移り変わらぬ気持ち”。誰かをずっと想い続ける、って意味もあるんだよ。」
美羽は顔を上げた。
「ほんとに……?」
俺は頷いた。
「たぶん、彼はその意味で贈ったんだと思う。“好きだよ”って、ずっと前から。」
一真が小さく呟いた。
「前に夢で見たんだ。指輪、コスモスで作ったんだけど……渡せなかった。だから、今度こそって。」
美羽の瞳が、ふわりと笑った。
「だったら、答えも……ずっと前から決まってるよ。」
加瀬透、高校生。
今日は、一輪の花に託されたふたりの未練を、言葉でほどいた日だった。
そしてその花は、誤解を越えて、想いの本当の色を咲かせていた。
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