第45話「信じるに足る声」
夢の中、石畳の広場に人々のざわめきが渦巻いていた。
男は縛られ、台の上に立たされている。
「俺は、やっていない。」
叫んでも誰も耳を貸さない。女だけが群衆の後ろで泣き叫ぶ。
「この人は無実よ! 信じて……信じてあげて!」
男の目は彼女を見ていた。
ただひとつ、その視線だけが彼の心をつないでいた。
処刑の鐘が鳴る――
「はあ!? 鷹野が万引きぃ!?」
騒然とした声が購買前に響いた。
3年の鷹野悠真が、コンビニで万引きをしたと通報され、教師に連れて行かれるところだった。
短気で目つきが悪く、何かと誤解されやすい。
でも、彼の幼馴染である2年の柏木澪は違った。
「そんなわけないじゃん! 鷹野がそんなことするわけないって、私知ってる!」
「でも目撃情報があって……。」
教師も困惑している。
俺は、その場にたまたま居合わせた。
そして、あの夢の情景がフラッシュバックする。
――誰も聞かず、処刑される男と、信じるしかなかった女。
俺はひとこと呟いた。
「監視カメラ、見ればいいんじゃね?」
教頭が来て、慌ただしく確認作業が進む。
しばらくして、購買の裏口から別の男子生徒が出てきた記録が映っていた。
しかも、ポケットから取り出したのは……未精算の栄養バー。
「……あれ、鷹野のじゃない。」
澪が静かに言う。
真犯人はすぐに見つかった。鷹野は“目つきが悪いから”という理由で、誤解されたのだった。
解放されたあと、鷹野はひとことだけ呟いた。
「……ありがとな、澪。」
「バカ。あんたが何したかぐらい、わかるでしょ。」
ふたりはそれきり言葉を交わさなかったが、距離がほんの少し近くなった気がした。
放課後、俺は夢の続きを見た。
処刑台の男は、最後の瞬間、女を見て口を動かす。
「信じてくれて、ありがとう。」
それだけが、彼の“無実の証”になった。
加瀬透、高校生。
今日は、過去で覆らなかった誤解を、現代の手段でほどいた日だった。
そしてその真実は、確かに誰かの信頼に届いていた。
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