第44話「祈りより先に届くもの」
夢の中、窓の外に雪が降っていた。
重たい布団に横たわる女性、その手を握る男の姿。
「君の病を癒やす方法が、どこかにあるはずなんだ。」
けれど、彼の声は震えていた。願いは届かないと、どこかで悟っていた。
「間に合わなくてもいい。せめて、君に“希望”を伝えたい。」
彼女は小さく微笑んで、静かに目を閉じた。
――それが、最後の記憶。
「透くん、お願いがあるの。」
保健室前で声をかけてきたのは、同級生の高梨紗英。
穏やかで、笑顔を絶やさない。けれど今日は、目の奥が揺れていた。
「私、来週、手術を受けるんだ。ちょっと大きいやつ。成功率もそこそこ。でも、やっぱり不安で。」
「そうなんだ……。」
「だから、お願い。内緒で……祈ってくれない?」
俺は頷いた。けれど、それだけじゃ足りない気がしていた。
数時間後、今度は別の男子が廊下の端で立ち尽くしていた。
彼の名は藤井亮太。紗英の幼なじみで、ちょっと無愛想だけど、優しい心の持ち主だ。
「手術、怖いんだ。……いや、紗英じゃなくて、俺の方が。もし目覚めなかったらって、思うと。」
その時、夢の記憶が蘇った。
雪の夜。病床の女性と、何もできずに手を握る男。
きっと彼らは――前世で別れを迎えた恋人たちだった。
放課後、俺はふたりを呼び出した。
「祈るって、大事。でも今回は、それだけじゃなくていいんだ。」
「え……?」
「前世では、きっと手遅れだった。でも今は違う。君たちは、“現代”に生きてる。」
「透……?」
「最先端の医療がある。データも、チームも、設備も揃ってる。だから、君の祈りは“叶う可能性”に届く。」
俺の言葉に、亮太は小さく頷いた。
「……そっか。あの時みたいに、ただ見てるしかないわけじゃないんだな。」
手術当日、病院のロビーで亮太はそっと紗英の手を握った。
「今度は、ちゃんと伝えるよ。……俺、君に生きててほしい。ずっとそばにいたい。」
「うん、私も……また、笑って会いたい。」
それは前世で果たせなかった約束の、再挑戦だった。
加瀬透、高校生。
今回は、過去では叶わなかった祈りを、“今”の技術で支える物語だった。
そしてその祈りは、過去の悲しみを、静かに追い越していた。
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