第43話「届かなかった星の手紙」
夢の中、星が散らばる空の下、一人の占星官が机に向かっていた。
重たい書物、墨で書かれた星の配置。
「この配置は……明日、王宮に危機が訪れる。」
震える手で書き上げた書簡を封じるが、その封は開かれることなく、火に焼かれた。
「誰にも、届かなかった。」
夢の最後、男は炎の中でただひとつだけ呟いた。
「たった一つ、伝えたかっただけなのに……。」
「透先輩って、占いとか信じる方ですか?」
そんな声をかけてきたのは、1年の男子・村上蓮。
無口で理屈っぽく、いつも教室の隅で読書をしているタイプ。
けれど今日はなぜか、少し突っかかるような言い方だった。
「占いって、正直“当たらない”って分かってるのに、どうして人は信じるんでしょうね。」
「なんかあった?」
「……小さい頃、親が“この子は成功する星だ”って言われて、なんでも押しつけられて。何かに選ばれてると思ってた。でも、何も変わらなかった。努力しても届かなかった。」
「だから占いが嫌い?」
「信じて傷ついた人を、何度も見たんです。」
その言葉に、俺の中の何かがざわついた。
――俺も、ずっと思ってた。
「占いなんて、結局信じた方がバカを見る」って。
夜、夢が続いた。
占星官が見上げていたのは、星ではなく“届けられなかった予言書”。
「もしあのとき、声を張り上げてでも伝えていれば……。」
「誰かの未来を“導けた”かもしれないのに。」
翌日、俺は蓮に言った。
「占いってさ、“絶対”じゃない。でも、“かもしれない”って伝える力はある。」
「ただ、届かなかったら意味がない。」
「じゃあ、“届ける側の責任”はどう思います?」
「きっとそれは、使い方の問題だよ。」
俺はポケットから古い占い本を取り出した。
「これ、うちの親が使ってた。昔は嫌いだった。でも今は、ちょっと思うんだ。“こういうのが、誰かを救う瞬間もある”って。」
蓮はそれを受け取り、数秒だけ黙っていた。
「……この本、文字が……優しいですね。」
「そう。占いって、未来を変えるんじゃなくて、“気づかせる手紙”みたいなもんかも。」
蓮の目が、ほんの少しだけ揺れた。
加瀬透、高校生。
今日は、届かなかった占いの書簡を、ひとつだけ手渡すことができた。
そしてその手紙は、確かに今を照らす小さな光になっていた。
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