第41話「幕の降りる場所」
夢の中、羽ペンがカリカリと走っていた。
燭台の明かりに照らされる机、紙に刻まれていくセリフ。
――「私は、自分の運命を――。」
そこまで書いたところで、ペンが止まった。
「……こんな終わりで、君を死なせてしまった。」
部屋の隅には、女優の衣装が掛けられている。
主を失ったまま、永遠に“舞台”へ上がることのない衣装。
「君の最期を、俺が決めてしまったんだ」
「透くん、ちょっと手伝ってくれない?」
放課後の図書室、演劇部の2年・長峰悠斗が、資料の山を前に困っていた。
優しくも几帳面な脚本家肌で、璃子の相方として脚本を担当している。
「新しい台本、ラストが決まらなくてさ……なんか、筆が止まるっていうか。」
「どんな話?」
「ある女優が、自分の運命に抗って、最後に舞台の上で自由を叫ぶ……っていう話。あ、璃子が主役で。」
俺の心に、あの夢が蘇った。
未完の脚本。演じきれなかった女優。
「もしかして、昔書いた記憶があるとか?」
「え? ……なんで分かるの?」
「前にも、どこかでこの物語を書いたことがある気がするんだ。ラストまで行けなかったんだけど、今回は……やりきりたい。」
その目に、かすかな震えと決意が混じっていた。
夢が続いた。
舞台裏の暗がり。女優が衣装を着て立っていた。
「この結末、私の“死”なんですね?」
舞台作家は沈黙し、ペンを握ったまま、顔を伏せる。
「君が“死ぬことで完成する物語”しか、俺には書けなかった。」
「でも、私は……生きたかったんです。」
彼女の言葉が、作家の胸に突き刺さる。
――その後、幕は降りた。
演劇部の最終リハーサル。
璃子が最後のセリフを言い切った後、悠斗は黙って座っていた。
「……やっぱり、これでいいのかな。」
「彼女はもう死なないよ。」
俺は静かに言った。
「君が“結末を選ばせた”ってことが、たぶん前とは違うんだ。」
悠斗はしばらく黙っていたが、やがてゆっくり頷いた。
「……じゃあ、今回は彼女に拍手を贈ろう。」
本番の日、観客の前で幕が上がる。
璃子のセリフが響いた。
「私は、自分の運命を――自分で選ぶ!」
そして、拍手。
その光景を袖で見つめる悠斗の目が、少しだけ潤んでいた。
加瀬透、高校生。
今日は、舞台の上で終わってしまった物語に、再び“選択”という結末を届けた。
そしてその選択は、今を生きるふたりに拍手の音を残していた。
感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!




