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第4話「お姫様は恋を知らない」

「加瀬くんって、他人の恋愛に首突っ込むの好きなの?」


放課後の図書室、星野レイナはいつになくまっすぐな視線でそう言ってきた。


静かな空気の中で、その言葉だけが浮いて見えた。


「……好きじゃないよ。どっちかっていうと、無理やり巻き込まれてる。」


「ふーん。でも、楽しそうに見える。」


レイナは本を閉じて、俺の方に向き直る。


「前世の恋を見て、今の人を結びつけて……そんなこと、誰にでもできるわけじゃないでしょ?」


「誰にでもできないけど、誰にでも“必要”なことかは微妙じゃないか?」


俺は机に頬をつけながら言った。


「俺が見てる夢って、どれも“未練”とか“後悔”ばっかりだ。ちゃんと幸せになった前世の人なんて、見たことない。」


「――そう。じゃあ、私の夢は?」


「……お前の?」


レイナは静かにうなずいた。


「私も最近、夢を見るの。白い城、波の音、薄い月……私はいつも塔の上で一人だった。」


「……誰か、いたのか? その夢の中に。」


「いない。誰も来なかった。私が愛された記憶も、誰かを想った記憶もない。」


そう言って、彼女は自嘲気味に笑う。


「つまり、私の前世は“誰にも愛されなかった姫”だったらしいの。」


その言葉に、胸が少し痛んだ。


「それって……つらくないか?」


「別に。愛ってよくわからないし。」


それは本心か、強がりか、俺にはまだ分からなかった。


でも、彼女が“誰かのために泣く夢”を見ていないということだけは、強く伝わった。


レイナは言った。


「でもね、加瀬くん。そういう夢を見て、誰かの心残りを解決してあげるっていうのは、すごく素敵なことだと思う。」


「……ありがとう。」


「ただ」


そこで、レイナは少しだけ声を落とす。


「自分のことも、ちゃんと見てあげてね。誰かの“前世”ばっかり見てたら、自分の“今”を失くしちゃうよ。」


その言葉に、俺は少し黙った。


……図星だった。


俺は、他人の夢ばっかり見て、自分の気持ちに向き合うのを後回しにしてた。


「……たぶん、俺の“今”って、誰かの過去の残響にしか聞こえてなかったのかもな。」


「じゃあ、少しずつ思い出せばいいんじゃない? 自分のこと。」


そう言って、レイナはそっと立ち上がる。


「また話そうね、占い師さん。」


彼女が去ったあと、俺は夢の中の“レオナ姫”を思い出していた。


いつも孤独だったあの瞳。


「……今度こそ、お前をひとりにはしないからな。」


心の中で、小さくそう呟いた。


加瀬透、高校二年。前世の声を拾う少年。

――たぶん、今の俺の一番の未練は、あの姫を“ちゃんと笑わせること”だ。

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