第31話「咲かぬ花に、想いを乗せて」
春を待たずに咲いた花を、俺は夢の中で見た。
古びた神社の裏手、誰も通らぬ山道。
その片隅に、小さな白い花が、ひとつだけ咲いていた。
傍らに、少女が静かに佇んでいた。
「……また、咲いてないんだ。」
彼女は微笑んでいたけれど、どこか寂しそうだった。
その隣、姿はぼんやりしていたが、少年らしき影がそっと花を見下ろしていた。
「透先輩って、植物詳しいですか?」
放課後、1年生の星川 明が声をかけてきた。
薄茶の髪を編み込みにした、小柄で大人しい少女。
「昔、祖母に聞いた花があるんです。『白緋桜』って言って、昔は山の奥に咲いてたって。でも今はもう絶滅してるらしくて……見たくて、探してるんです。」
その花の名前に、胸がざわめいた。
夢の中で見た白い花、それが“白緋桜”だった。
「……夢で見たよ。その花を。」
明の目が丸くなった。
「えっ……!? 本当に!?」
「咲かないはずの花が、咲いていた。神社の裏手、山道の奥で。」
明の目に、じんわりと光が灯った。
「そこ、行ってみたい……!」
俺は頷いた。何かが、今、起きようとしている。
週末、明とふたりで夢に見た神社へ向かった。
山道は枯葉に埋もれ、踏みしめるたびに音が鳴る。
そして、夢で見た場所にたどり着いた瞬間――
風が吹いた。
咲いていないはずの場所に、ふわりと白い花弁が舞った。
明が立ち止まる。
「……あれ……。」
彼女の視線の先に、誰かが立っていた。
制服姿の男子高校生。柔らかい目をしたその少年は、ゆっくりと明に歩み寄った。
「……やっと、会えた。」
「あなたは……。」
「俺は、ずっとこの花を、君に届けたかった。」
風が再び吹き、花びらがふたりを包んだ。
幻覚――いや、これは“現実”だ。
俺の中で何かが確かに“起動”した。
咲かぬはずの花に、想いが宿った瞬間。
明が震える手で、そっと花に触れる。
「こんな……きれいな花……ほんとうにあったんだ。」
「君が忘れずにいてくれたから、咲いたんだと思う。」
少年の言葉とともに、光が舞うように花が揺れた。
俺は少し離れた場所で、その光景を見届けていた。
“届けたい”という願いが、本当に“届いた”瞬間。
これが、俺の“力”なのかもしれない。
「ありがとう、加瀬先輩。」
帰り道、明が微笑む。
「私、ずっと探してたものが見つかった気がします。」
「それは、花のこと?」
「ううん。想いのこと。……きっとあの人も、同じ気持ちでいてくれたんだって。」
彼女の横顔は、春を待たずに咲いた花のように、静かに輝いていた。
加瀬透、高校生。
今日は、咲かぬはずの花を“咲かせる”仕事だった。
それは、偶然じゃない。
――俺は今日も、“人間の未練”を届けている。
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