第29話「再会の鼓動」
夢の続きだった。
紅葉の舞う庭園で、直衣を纏った少年がひとり、姉の姿を探している。
「姉上……どこに……。」
その声には切実な想いと、言いそびれた言葉の重さが滲んでいた。
その朝、俺は胸の奥に引っかかる感情を抱えて目を覚ました。
“姉上”――こよみの前世の彼女に、想いを伝えられなかった少年。
彼の夢を見たのは、きっと偶然じゃない。
「透くん。」
教室に入ると、同じクラスの蒼井 蓮が声をかけてきた。
彼は人懐こい笑顔を浮かべていたが、目の奥に、何か重いものを隠している気がした。
「……なあ、最近変な夢とか、見たりしない?」
俺は静かに頷いた。
「昔の時代で、“姉”を探してる夢……じゃないか?」
蓮の目が見開かれた。
「どうして、それを……っ。」
やはり、彼だった。
放課後、俺たちは中庭のベンチに腰を下ろしていた。
「……ずっと忘れようとしてた。でも、夢の中で、あの人の背中ばかり追いかけてて。」
「それは、きっと未練だよ。」
「分かってる。今の俺には、“あの人”はもう姉じゃない。それでも……好きだった気持ちは、まだ残ってる。」
蓮の声は、どこまでもまっすぐだった。
「伝えたいんだ。前世では言えなかった言葉を、今度こそ。」
俺は頷いた。
「だったら、届けにいこう。その想いを。」
茶道部室。
こよみは静かに湯を注ぎ、茶筅を回していた。
その姿に気づいた蓮は、一歩だけ前に出て言った。
「……君を、ずっと探してた。」
こよみの手が止まり、振り返る。
「蓮……くん?」
「夢の中で、言えなかったことがある。俺は、姉上だった君を……好きだった。」
こよみは少し驚いたように目を見開き、それからふっと笑った。
「私も、弟であるあなたを愛してた。だから、言えなかった。でも、今の私たちは――他人。」
「だったら、今こそ言わせてほしい。」
蓮は深く息を吸い、ゆっくりと頭を下げた。
「俺は、三浦こよみという人が好きだ。過去のことも、今のことも含めて、全部。」
しばしの沈黙。
こよみは、茶碗を差し出しながら微笑んだ。
「ではまず、一服どうぞ。……話はそれからです。」
二人の間に、静かに温かい空気が流れた。
俺はその様子を、茶室の外から静かに見守っていた。
“姉と弟”だった前世の因縁。
それを超えて、今を生きるふたりの姿に、どこか胸が温かくなる。
加瀬透、高校生。
今日もまた、他人の想いが未来へと繋がる瞬間を見届けた。
――俺自身の感情は、どこか遠く、静かに眠ったままだ。
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