第28話「千年越しのきょうだい」
夢の中、朱に染まる庭園の中で、若い男女が向かい合っていた。
少女は華やかな十二単に身を包み、少年は簡素な直衣を纏っていた。
「姉上……俺は、あなたを……。」
言葉の続きを、彼は口にできなかった。
「言わなくていいの。私たちは、きょうだいだから。」
そう言って微笑む姉の目に、確かに涙が浮かんでいた。
それが、前世の最後の記憶だった。
目が覚めたとき、俺はなぜか胸が苦しかった。
きょうだいという関係に縛られ、想いを伝えられなかったあの夢。
俺自身のことではないはずなのに、心のどこかがざわついた。
「……また他人の夢か」
最近、そういう夢が続いている。
まるで、自分の意志とは関係なく“誰か”の記憶を覗いているような感覚だ。
たぶん――いや、確実に俺は“普通”じゃない。
でも、その理由は分からない。いや、分かりたくもないのかもしれない。
「透先輩、おはようございますっ!」
元気よく声をかけてきたのは、1年生の三浦こよみ。
茶道部所属で、ほんのり古風な雰囲気をまとった女の子だ。
その瞬間、俺は夢の中の“姉”の面影を感じてしまった。
「先輩、最近変な夢とか……見ませんか?」
「どうして?」
「私、夢の中で誰かを待ってたんです。きっと弟だった。でも、何も言わずに離れてしまって……それが、すごく悲しくて。」
彼女もまた、未練を抱えた転生者だ。
俺はこよみを茶道部の和室に訪ねた。
「夢の中の“弟”は、どんな人だった?」
「優しくて、でも、私を姉として遠ざけていた。……たぶん、本当は何か言いたかったのに。」
「今なら、言えるかもしれない。君たちは、もう“きょうだい”じゃない。」
「……そうですね。今の私は、私ですから。」
彼女は静かに茶を点ててくれた。その所作には、夢の中の記憶と、今の自分を繋ぐ決意が感じられた。
「では先輩……お茶、どうぞ。」
差し出された茶碗を受け取ると、どこかで聞いた声が、耳の奥で囁いた気がした。
――『これが、あなたの“願い”だったのでしょう?』
ふと、自分の指先を見た。
“他人の夢”をこんなに鮮明に見て、導くように関わってしまう俺。
もしかしたら、俺自身にも“人間の未練”があるんじゃないか。
そんなはずない、と思う。
でも、心の奥の奥――誰も知らない場所に、誰かの声が、確かに眠っている気がして。
加瀬透、高校二年。
“前世の記憶”に導かれるように、俺は今日も他人の未練を除き見る。
それが誰かの再生につながるなら、それでいい。
……たとえ、俺自身が“誰かの意志”でここにいる存在だったとしても。
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