第27話「愛のかたち、許されぬ願い」
「――俺は、全員を幸せにしたかっただけなんだ。」
夢の中で、男がそう呟いた。
彼の周りには三人の女性。
ひとりは病弱な貴族の娘。
ひとりは剣士として仕える護衛。
そしてもうひとりは、幼なじみで庶民の娘。
三人は、誰も彼を責めていなかった。
けれど、誰の手も、最後まで彼の元には届かなかった。
朝、俺はその夢の余韻を引きずったまま、教室に入った。
そこにいたのは、風紀委員の三条陸。
いつもきっちりと制服を整え、面倒見の良さで知られる優等生。
だが、その表情はどこか眠そうで、目の下にはクマができていた。
「三条くん、最近ちゃんと眠れてる?」
声をかけると、彼は少し驚いたようにこっちを見た。
「……加瀬くんか。ああ、大丈夫。ただ、ちょっと夢見が悪くて。」
「どんな夢?」
「昔の時代の夢。女の人たちが、俺のことを取り合ってる……でも、誰ひとり笑ってなくてさ。」
――間違いない。彼も、転生者だ。
放課後、屋上。
「俺さ、たぶん前世で……結婚してたんだと思う。三人の女性と。」
「……三人?」
「うん。でも、どの子にも“最後まで幸せを渡せなかった”気がする。」
風が強く吹き、彼の前髪が揺れる。
「今の時代じゃ、そんなの許されないって分かってる。だからこそ、俺……どうしたらいいのか分からなくて。」
その言葉に、夢の中の男の顔が重なる。
“愛し方”が歪んでいたわけじゃない。
ただ、“全員を想っていた”がゆえに、誰も選べなかった。
それが、彼の未練だった。
「誰かひとりを選ばなきゃ、全員を失う。分かってたはずなのに……」
彼は、ポケットから一枚の紙を取り出した。
「これは?」
「夢の中で貰った手紙。最後に、護衛の子が渡してくれた。」
紙は風に揺れながら、俺の手に収まった。
“あなたが誰を選んでも、私はあなたを恨まない。ただ、あなたが誰も選ばなかったなら……それだけは、私が許せない”
俺は深く息を吸い込んだ。
「三条くん。君は、今なら選べる。過去と違って、今は“ひとり”を選ぶのが当たり前の時代なんだから。」
「……そうだな。誰かを傷つけない方法ばかり探してた。でも、それじゃ結局、誰の手も取れない。」
「ちゃんと、今の自分の気持ちに向き合えばいい。前世じゃなく、今の君がどうしたいかだよ。」
彼は、少しだけ笑った。
「ありがとう。加瀬くん、君と話して少し整理がついた。」
その笑みは、ようやく未練の霧が晴れた男の顔だった。
数日後、三条は同じクラスのある女子と、静かに話していた。
その様子を見ていた他の女子ふたりが、少し遠くから彼を見守るように笑っていた。
俺はそっと屋上を見上げる。
もう、風は穏やかに吹いている。
加瀬透、高校生。
今回の未練は、“全員を愛そうとした男”の優しさと不器用さ。
でも今の彼は、“たったひとり”に手を伸ばせた。
それで、十分だったんだと思う。
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