第20話「最後の嘘」
「オレがあいつを殴った。だから停学、文句あるか?」
放課後の生徒指導室、机を挟んでふんぞり返るのは二年生の先輩――堂本晴人。
ピアスに不良ムーブ、教師への態度は最悪。
でも、クラスでは意外と慕われていて、後輩からも人気があるらしい。
だけど、その日彼が庇った“あいつ”は、どう見ても先に手を出していたのは別の生徒だった。
「堂本先輩、あの……本当は、手なんか出してないですよね?」
俺は問いかけた。
「お前、誰?」
「加瀬透、です。」
堂本先輩は一瞬、目を細めた。まるで何かを思い出すように――
「お前……変な夢とか、見たりするか?」
その夜、俺は夢を見た。
前方に燃え上がる砦、あたりは混乱し、矢が飛び交い、兵たちの叫びが響いていた。
「隊長、もう持ちません! 誰かが囮にならなきゃ――!」
「だったら、俺が行く。」
そう名乗りを上げたのは、一人の青年だった。軍服は擦れて汚れ、腕には仲間の血がこびりついている。
「ダメです! あなたがいなくなったら隊は……!」
「これ以上、誰も死なせたくない。俺が行けば、時間は稼げる。」
仲間たちが口々に止める中、彼は笑って言った。
「俺が命令した。だから全部俺の責任だ。」
そうして彼は剣を抜き、一人で敵陣に走り出した。
その背中に、誰かが叫ぶ。
「隊長ッ! 嘘ですよね!? あれは僕の指示だったじゃないですか!」
だが青年は振り返らず、ただ呟いた。
「嘘ついたまま、死ぬのって……ずりぃな……。」
その言葉と共に、夢は終わった。
顔ははっきり見えない。
でもその声、その目線の強さ――間違いない、堂本先輩の前世だ。
翌朝、登校すると彼は校門前に立っていた。
「おい加瀬、ちょっと来い。」
「……夢の話ですか?」
「お前、本当に視えるのか。……あの、火の中のこと。」
俺は頷いた。
「俺さ、前世で隊の仲間に無茶言って、代わりに死んだんだよ。『俺が行く』ってウソついて。」
「それが、今も残ってるんですね。」
「今だって同じ。後輩がやらかした喧嘩、俺が庇った。アイツ、推薦かかっててな。」
「また、嘘をついたんですね。」
「……だって、しょうがねえじゃん。」
彼の声は、どこか震えていた。
昼休み、校舎裏でひとり煙草を咥えたふりしていた堂本先輩に、俺は手紙を渡した。
「これは?」
「昨日、庇った後輩からです。感謝してるって。」
彼は黙って封を開けた。
そこには、乱れた文字でこう書かれていた。
『あんたの嘘は、誰よりカッコよかった。俺、いつかちゃんと返す。』
「……はは。なにそれ。」
彼は笑った。でも、目の端には涙が滲んでいた。
「俺の嘘も、少しはマシだったか?」
「たぶん、前世よりずっと。」
加瀬透、高校生。
未練の中には、言えなかった本音もある。
今日の俺の仕事は、それをそっと届けることだった。
“最後の嘘”が、少しだけ報われた気がした。
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