第2話「俺の夢で勝手に失恋すんな」
「なぁ、加瀬ってさ、なんか最近ボーッとしてね?」
「いや前からああいう顔だよ。前髪で表情がわかんないけどな。」
いつものように教室の隅っこで静かにしていたつもりだったのに、何気ない会話が耳に入ってくると、ちょっと傷つく。
……まぁ、確かに最近ボーッとしてるのは事実だ。理由は簡単。
「俺が見てるのは……誰かの恋の結末なんだよなぁ……。」
夢の中。
白い霧の中で、男と女が手を取り合っていた。
二人の名前は――レオンとエステル。
異国の騎士と、修道院の娘。出会って、恋に落ちて、でも叶わなかった。
修道院の鐘が鳴るたび、女は背を向けて泣き、男は剣を携え遠くへ去っていく。
「また夢オチかよ……!」
ベッドから跳ね起きて、天井を見上げて思う。
俺が見るのは、“俺の前世”じゃない。“誰か”のものだ。
占い師の両親いわく、「前世干渉体質」ってやつらしい。
「運命の縁が強い者同士の魂を、無意識に追いかける体質なのよ〜。」
と、母は言う。アバウトすぎる。
要は、“この現代に生きてる誰か”の過去の恋愛模様を、勝手に覗いてるわけだ。
……うん、迷惑この上ない。
けど、昨日の夢の終わり際。女の子――エステルが言った。
「たとえ生まれ変わっても……貴方に、もう一度出会いたいの……。」
その声が、あまりに必死で切なくて。
「……わかったよ。俺が、その“もう一度”を探してやる。」
俺は今日、昼休みに“彼女”を探す決意を固めた。
と言っても、手がかりは少ない。夢で見たのは:
・エステルは小柄で、髪はゆるいウェーブの黒。
・右耳の裏に、小さな火傷跡。
・声が、妙に現実感あった。
「……つまり、耳の裏をさりげなく確認すればいいってことだな。……変態か?」
校内をさまよっていると、廊下の先で誰かが派手に転んだ。
「いたっ……あっ、ノート……!」
紙をばらまいてしゃがみこむ女の子。
ウェーブの黒髪、小柄、白い肌――条件一致。あとは……!
「……あ、あのさ、ちょっと首、というか耳の裏……。」
「……は?」
はい、完全に不審者です。
「ち、ちがう! いやその、なんていうか、傷跡とかあったりしませんか?」
「え……。」
彼女――名前は水無瀬遥は、しばらく黙ってから、ぽつりと答えた。
「あるよ、昔火傷した。……何でそれを知ってるの?」
まじか。ビンゴだった。
「……変な話かもしれないけどさ。夢で見たんだ。君のこと。君じゃないかもしれないけど、君みたいな女の子が、昔……誰かと恋をしてて……。」
一言一言、慎重に伝える。変な奴だと思われたって仕方ない。だけど――
遥は、しばらく沈黙したあと、目を伏せて笑った。
「……実はね、私も最近、同じ夢見てるの。剣を持った男の人と、別れる夢。」
「え、マジで!?」
「うん。たぶん、その人が“レオン”で、私が“エステル”……なんで加瀬くんが知ってるのかは、わかんないけど。」
この時点で、俺は悟った。
水無瀬遥こそが、“夢に出てくる彼女”だ。
そして――
「ねえ、加瀬くん。もう一人、夢に出てくる人、いるんだよね?」
「え?」
「レオン。彼も……きっとこの学校にいるんだと思う。」
彼女の目が真剣だった。
俺は頷いた。
そうか。俺の仕事はここからだ。
悲恋に終わった恋を、今度こそ繋ぎ直すこと。
「よし……次は、そのレオンを見つけよう」
加瀬透、占い師の息子、無自覚恋の再生屋。
青春学園ロマンス、今世もリベンジ開始です。