3-20. ヤギーの魔法
次の早朝練習は、イスズがスバルに引きずられるようにしてやって来たところから始まった。
「頭が痛いとか風邪気味とか、そんな子供の言い訳が通用するわけないじゃないの。」
「ここには神聖術の上位が三本も揃ってるからね。病気なら出てきたほうが早く治るもんね。」
イスズは正座させられながら俺の方を睨んでくるが、俺は何も悪いことはしてないと思うんだけど。
イスズの隣には、同じくユウジ、キイチロウ、スケヨシの男子三人組が正座させられている。反省している姿を見せるためだろうか、頭を丸刈りにしていて、もはやジャガイモの仮装にしか見えない。
ちなみに双子は中級から上級組に上がっている。どうやら二人の父親が、双子が力を持ちすぎて反抗するのを防ぐために、いろいろ画策していたらしいのだけれど、魔法騎士になってしまったし、父親本人が更迭されてしまったので、その制約がなくなったみたいだ。
「それじゃあ、強力魔法循環の刑だね!」
「エイタ、思いっきり痛いやつでいってみようか!」
あれだけ迷惑をかけたんだから、ここは甘んじて受けて欲しい。
「お、お手柔らかに……ぐわあああああああっ!」
「ま、まって、まだ心の準備が……ぐええええええええっ!」
「おかあちゃーん! ぶはああああああああっ!」
三人を始末して、最後はイスズだ。
「えええ! 私も!? 一回受けたよね? よね?」
「それとこれとは話が違うからね。諦めて?」
俺は取ってもいい笑顔でイスズ向けて親指を立てた。
「ま、待って、お嫁にいけなくなる、ぎゃおおおおおおおおっ!」
こうして悪は滅びた。
<四人ともよわよわだよね~。つまんない。>
ルードラ診断で弱よわな四人は、朝の練習が終わるまで気を失ったままだった。
そんな一幕もあったが、昨日の出来事の影響はやはり大きかった。俺を除く男子四人が、槍術や弓術をやめて時空術を選択しなおすことを決めたのである。
俺はすでに時空術を修めているので、将来的には男子全員が時空術持ちになる可能性も出てきたわけだ。一般的には時空術は難しい魔法だと言われているので、どうなるかは彼ら次第だけどね。
本人たちは瞬間移動のダンジョン内での有用性や、超加速での鍛錬時間の短縮を理由として挙げていたが、飛行魔法で可愛い女子と手をつないで空の散歩をしたい、というのが一番の理由じゃないかと踏んでいる。
双子も時空術を学びたいらしいのだけれど、神殿の『しきたり』で薙刀と弓を先に学ばないといけないそうだ。いろいろ面倒くさい組織だなぁ。
あと、時空術を学ぶなら、購買で『現代主要魔法便覧』を買っておくように。
午後のダンジョンは昨日の続きで妖獣ヤギーの討伐だ。ヤギーの本当の正体は解体所のおっちゃんにもわからなかったけれど、もうこの界隈ではヤギーということで決まってしまった。
だれも食べたことなんてないだろうし、肉を食べてみて「違う、騙された」なんて言い出すやつがいるはずもない。つまり違っていたところで何も問題はないのだ。
妖獣ヤギーを狩っていくが、さすがに今日は丁寧に進んで行く。実際、一人でも進んで行けたのだから、そう難しいことはない。
昨日もそれなりに狩ったはずだけれど、匂いにつられてきたのか妖獣の数も豊富だ。結局四十匹以上狩っただろうか、俺たちはレベル七十二に達していた。
「昨日と違って、やっぱり今日は調子がいいわね。」
「丁寧にしっかり狩ったほうが、レベルも売り上げもいい感じになるね。」
「先走ったら損か。」
「かなり痛い目も見るしな。」
「痛かったよなぁ。」
ここでやめてもいいけれど、まだ時間はある。さてどうしようか。
「反省してないわけじゃないけど、もうちょっと狩りたいかな。」
「そうね。時間いっぱいまで狩りましょうよ。」
俺たちはさらなる獲物を求めて先に進んだ。
進んだ先に、今までと違う黒い妖獣の姿があった。体形はヤギーにそっくりだが色が白ではなく黒なのだ。
「黒ヤギー?」
「新種かな。それとも色が違うだけかな。」
「レベル七十三、少し高めだね。」
ここまで倒してきたヤギーはレベル七十から七十一だった。それと比べたら確かにレベルも高い。特殊な妖獣の可能性もあるので警戒が必要だ。
「まずはご挨拶するわね。」
そう言い残すと、スバルの強弓から妖獣の眉間に向かって一本の矢が打ち出された。その矢は見事に命中……することなく、妖獣を通り過ぎて行った。
「え? 今のはなに?」
確かに当たるように見えた、というか当たったように見えたのだ。それなのに矢が妖獣を通過するように通り過ぎて行ったのだ。いったい何が起こったのか。
「警戒!」
ハルコの声で我に返る。黒ヤギーが頭を下げ、角をこちらに向けて襲い掛かってきているのだ。
狙われていたキイチロウはさっと体を左に避けて妖獣を迎え撃つ。しかしその剣が空を切っただけでなく、避けたはずの妖獣の角をまともに体に受けてしまった。
「うぐ、なんだこいつ?」
回復魔法を飛ばす。大丈夫、たぶん大きな怪我はしていないはずだ。
ユウジが踏み込んで斬撃を放ったが、それも全くの空振りに終わった。なんだこいつ、もしかして実体がないのか? いやそれならなぜキイチロウは攻撃を受けた?
それよりも、こいつ何か変な魔力を出しているように見えるぞ。これは何かの魔法?
「これはなにかの妖術だ!」
まだ何かはわからないが、とりあえず情報を共有するために声に出す。イスズの方をみたが思いつくことはないらしく、首を振っているだけだ。
アキコが薙刀を思いきり大きく左から右に薙いだ。その薙刀が当たるまえに妖獣から血が飛ぶのが見えた。
「斬る前に何かにぶつかった!」
これは、幻影術だ! おそらく幻影術で自分の姿を隠して、別の場所に姿を映しているのだ。
「これは幻影術だ。本体はおそらく見えている場所じゃないぞ!」
見えてはいるが見えない敵。これは厄介だぞ。
敵を目掛けて剣を振っても当たらない。それでは何もないところで剣を振ればいいかと言えば、当然そうはならない。
「前衛は防御優先で! イスズとエーたんは攻略方法を考えて!」
マコちゃんの指示が飛んでくる。
こちらの攻撃が当たらない以上、イスズの頭脳か、俺の目か、どちらかで攻略方法を見つける必要があるのだ。
アヤノ先生の授業で、炎の壁を出す魔法や、土の弾を周囲にばらまく魔法を覚えたが、まだ覚えただけで、こんな乱戦で使えるような練度にはなっていない。
幻影術がこんなに厄介だとは。
授業で覚えた魔法の中には、当然ながら幻影術もある。人を狙って掛けて、その頭の中で幻覚を見せる魔法、魔力で形と色を作って実際に物があるように見せかける魔法、俺が覚えているのはこの二種類だが、これはそのどちらでもない。
この妖獣の出す魔力は俺たちのところまで届いていないし、魔力が集まる場所、つまり魔法の場所は、妖獣の姿が見えている場所とは違って、俺たちと妖獣の間にあるのだ。
俺たちとの間、そう、俺たちとの間だ。しっかり見ると、妖獣の横ぐらいまでは魔力があるが後ろには魔力がない。ということは、後ろからなら幻影術の影響なしに攻撃出来るかも知れない。
「後ろに回り込め!」
俺の声を聞くや否やボルボが妖獣の後ろに移動し、その槍を妖獣に突き立て、勝負は決まった。
「カンチョーの女王に続いて、カンチョーの豚玉とは。」
いや、俺はカンチョーの指示はしていないぞ? ボルボの槍だって尻肉に当たっているし。
「穴をねらうべきだったか?」
何を言っているの! 解体所のおっちゃんに怒られるぞ!
なんとかクロヤギーを倒すことに成功し、俺がレベル七十四、みんなはレベル七十三まで上がった。
「前や横から狙うのは無理ってことね。」
「仕方ないことだけど、後ろからだと肉が傷むのがなぁ。」
「上からって手もあるよ?」
「上ってどうやって、あっ!」
そう、空を歩いて、上から斬ればいいのだ。
「私はまだ無理かな。上から攻撃できるのはエーたんだけじゃない?」
一度どうやってやるか見せて欲しいということで、次に出会った白いヤギーを相手にすることになった。レベルも低いから、倒して解体所に送るだけだ。
「じゃ、やってみるね。」
俺はダチョーで何度もやったのと同じように、超加速してシュピッとヤギーの上に瞬間移動して首をスパッ、血を抜いて獲物をシュパッと解体所に送った。
<スパッが違う! やりなおし!>
ああ、ダチョーの時は結界で切っていたかな? いいじゃない、どっちでも。
結界でそこら一帯をまとめてぶった切るっていう手でも倒せたとは思うけれど、やはり肉が傷んでしまうからね。
「なによ、今の……なんなのよ、それは!」
朝の素振りでさんざん見せていると思っていたのだけれど、実際に妖獣相手にやってみせるのとでは、随分印象が違っていたようだ。
「俺、いつから強くなったと勘違いしてたんだろう。」
「これが剣術超級か……。」
いや、剣術に超級の授業はないからね!
「エイタ、ちょっと聞きたいんだが。」
「えっと、何かな?」
「お前グループ組まない方が強いんじゃね?」
俺もその可能性は、もしかしたらちょっとだけあるような気がしているようなことがあるかも知れない……。まあ、深く考えちゃだめだよ!
現在のレベル
ホソカワ・エイタ Lv.74
ツルギ・マコト Lv.73
オニガワラ・ボルボ Lv.73
マツダ・ユウジ Lv.73
ホンダ・キイチロウ Lv.73
トヨダ・スケヨシ Lv.73
タカナシ・スバル Lv.73
ヤマナ・イスズ Lv.73
ヒノ・アキコ Lv.73
ヒノ・ハルコ Lv.73




