8. グループ分け
翌朝、レベルが上がったこともあり、走る速さも距離も昨日までとはかなり違っていて、マコちゃんに驚かれた。黙っていようと思っていたんだけれど、当然全部白状させられることになった。
「本当にもう、一人でレベル三まで上げるなんて、無理しすぎだよ?」
「はい、すみませんでした。」
「もう本当なんだからね!」
プンスカ怒っているマコちゃんをなんとかなだめ、素振りを始める。いつもとは違い、腰をしっかり落として膝下を狙う横なぎの素振りだ。昨日の経験をもう少し形にしておきたい。
「それは五番目? いや六番目の方が近いかな。いったいどうしたの?」
当然のようにマコちゃんから指摘が入る。
俺はまだ四番目に上がったばかりで、膝下を攻撃する技を持っていないのだ。六番目まで進んでいるマコちゃんの目から見れば、何か変だと感じるのだろう。動きもぎこちないし。
「ダンジョンで出会った妖獣が四つ足で背が低くて。それと戦う型が必要だなと思ってね。五番目を思い出しながら、見様見真似でやってる。」
マコちゃんに妖獣シバーとの闘いについて説明する。マコちゃんはかなり真剣に話を聞いていた。しっかり股を割って腰を落として素振りする俺の姿から、何かを感じ取っているのだろう。
五番目以降には膝下を攻撃する技があるのは確かだが、その相手は人間を想定したものだ。体の小さい妖獣を相手にするためのものではない。シバーよりもさらに背が低く、地面を這うようなものもいるかもしれない。それに対抗する手段が必要なのだ。
「これは学園でもだけど、お父さんにも相談してみないといけないね。」
俺と同様に腰を落として右から、そして左からの横なぎを試しながら、マコちゃんは真剣な顔のまま考え込んでいるようだった。
防具を担いで学園に行くと、すぐにボルボと他三人が寄ってきた。
「ダンジョンはどうだった? レベルは上がった?」
俺は四人にマコちゃんに話したのと同じようなことを繰り返す。
「背が低い相手か。俺は銛で下にいる獲物を狙うのには慣れているけど、海じゃないから地面を叩きそうだな。」
地面を叩けば槍は痛んで使い物にならなくなってしまう。ボルボはどう対応するかを考えているようだ。
「うちの型にも膝下を狙うのがあるけど、ずっと腰を降ろしつづけるようなのはないから、稽古しておかないといけなさそうだ。」
「うちにもあるけど、まだやったことないなぁ。」
「俺もだ、やばい。」
そんな話をしていると、すぐ近くでマコちゃんと話をしていたショートカットの眼鏡女子が乗ってきた。この娘なんと、背は低いがマコちゃんに対抗できるほどの豊かなものを持っていらっしゃる。
「もしかしたらダンジョンでは、槍、薙刀が有利になるかも知れないわね。」
「細くて狭い通路のような場所もあるだろうから、長物が有利とは一概に言えないんじゃない?」
さらに髪を後ろで三つ編みにしている女子も参戦してきた。背は高めでスレンダーな、可愛いというより美しいとかカッコイイという感じの女の子だ。
三つ編み女子にマコちゃんが返事をする。
「みんなの得意、不得意の組み合わせが大切になりそうね。」
そうだね、確かにその通りだ。たとえば全員が剣だと、それがはまれば強いが、剣では難しい相手とぶつかれば何もできなくなってしまう。
「これ寮で先輩から聞いた話なんだけど、あ、俺はマツダ・ユウジね、剣技の特別合格。」
ユウジが言うには、これからダンジョンを攻略するのには、ある程度固定の五人程度のグループを作ることになるらしい。バランスもあるが、おおよそ男子前衛、女子後衛になることが多いのでそれを踏まえて、最初は男子五人、女子五人の大きめのグループを作り、それをその時の参加者を見て二つに割るのが良いそうだ。
「あら、それは良い考えかもしれないわね」
眼鏡女子が賛成のようだ。三つ編み女子もうなづいている。
「そういうことなら、私たちも参加して良いかな?」
マコちゃんの向こう側にいた女子二人も参加表明してきた。
あれ、同じ顔が並んでいる? 目をこすって見直しても、やはり同じ顔が並んでいる。
「私はヒノ・アキコ、こっちはハルコ、私たち、双子なんですよ。神殿で修行しているので二人とももう回復魔法が使えるし、お得ですよ。」
「特売牛肉。」
二人とも、巫女さんヘアといえばいいのか、長い髪を後ろで束ねている。それとマコちゃんが勝負にならないぐらいの驚くほど豊かな物をお持ちのご様子だ。ぎゅうにく……。
「これで五人づつ揃ったわね、私はタカナシ・スバル、弓術特別合格よ。」
スレンダー三つ編みさんは弓か。
「ヤマナ・イスズ、槍。一応だけど学科の特別合格だったわ。」
眼鏡さんは学科トップの才女だったのか。
マコちゃんや俺たちもそれぞれ自己紹介する。
「双子のアキコさんとハルコさん、弓のスバルさん、槍のイスズさんね。」
「ああエイタ、それだがな、同学年同志や下級生は呼び捨てにするのが学園の『しきたり』らしいぞ。」
「それ私も量の先輩に聞いたわ。厳しい先輩もいるらしくて、敬称をつけて呼んでると指導されるって。」
なんじゃそりゃ。
「面倒だし、敬称なしで良いよね。」
「俺も構わん。そこに断固反対するほどの信念はないな。」
「じゃあ、そういういう事でよろしくね!」
まあ、変な先輩に絡まれるのも面倒だし、みんなもそれでいいなら、別にいいか。
女子たちによれば、グループを組むとか組まないとかいうのとは別にして、見るからに目立つのが初日からつるみはじめたので、かなり気になっていたのだそうだ。
「先に謝るけど、見た目であなたはハズレだと思ったの。でもマコトが言うには魔力特別合格だそうだし、初日に単独でダンジョン突入して情報取ってくるなんて行動力と判断力もあるし。」
「いや、正直運動苦手なんで、足引っ張ると思うよ?」
「欠点なんて誰でもあるんだから、これから鍛えていけばいい話でしょ?」
なに、この眼鏡さん、めっちゃ漢前!
「それに私も運動はそれほど得意じゃないもの。お互い様よ。」
「まあ、一生このグループってわけじゃないし、うまくいかなければ組みなおせばいいんだしね。気楽にいこうよ。」
俺たちが男女五人づつのグループを組むのを横目で見て、他の男子たちがあわてて動き出していた。残るは男子七人、女子三人。このクラスは女子の方が少し人数が少ない。男子たちによる女子争奪戦の勃発である。
焦りに焦って強引に口説きにくる男子たちを避けて、女子三人が選んだのはぽわーんとした男子二人。残りの男子五人は男子だけのグループを組むことになってしまった。
このときはまだまったく気づいていなかったが、どうやらこれが男子生徒たちの恨みを買うことにつながっていくことになる。
それとユウジから後で聞いたんだけど、先輩たちの話によれば、最初に組んだグループというのはそうそう変更されないのだそうだ。たとえ組落ちしたとしても、能力や気心が知れている人の方が信頼感や安心感があるので、大きな問題でもない限り外されたりしないのだという。
さらに先輩たちの話によれば、女子と組みたいのはみんなそうだけど、だからと言って強引に寄っていくと避けられてしまう確率が高いので、男子五人グループと女子五人グループというように、女子のグループであるように見せかけて組むことで、すんなり男女同数のグループが作れるのだとか。
マツダ・ユウジ、剣術以外でも、かなりデキる男であった。