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猪突猛進!豚魔法 ~デブでブサイクだけど、最強めざして突っ走ります!~  作者: 大沙かんな
前途洋洋!豚魔法編

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7. ダンジョン突入

 ダンジョンに入ってみると、入口付近はまるで自然洞窟のように岩がむき出しになっており、天井には尖った岩が無数にぶら下がっている。まるで大きな牙のようだ。大魔王を倒すため、左右に割けた大きな口から体の中に攻め込む、ついそんな想像をしてしまう。


 かなりの圧迫感と、何が起こるかわからない緊張感で、体が強張(こわば)ってくる。これはいけないな、深呼吸して少し落ち着こう、ブーヒッ、ブーヒッ、ブーヒッ、ふう。


 学園の初日は説明会と選択授業の提出だけで終了したので、俺はそのあとすぐ家に戻って着替え、さっそく一人でダンジョンにやって来たのだ。マコちゃんも誘ったのだが、後日しっかり準備してからにするらしい。彼女からは、今日は無茶をせず見学ぐらいに留めるように注意された。


 ボルボたちも誘ったのだけれど、学生寮に入る手続きがあるとかで断られた。ボルボは南、ユウジは西、キイチロウとスケヨシは東から、親元を離れて学園にやってきており、今日からは実家から遠く離れた寮生活になるのだそうだ。


 その中でもボルボは特に残念そうな顔というか、捨てられた犬のような顔をしていたので、この次は絶対一緒に行こうな!と固く約束しておいた。


 俺の腰には学園の練習場から借り受けた鋼の剣と短剣がぶら下がっている。ちゃんと申請すればこうして学園から持ち出して、ダンジョンに持ち込むことができるのだ。


 体は真新しい鎧で包まれている。この鎧はかなり軽くて動きやすく、防御力を大きく向上させる魔法がかかっているかなりの優れものだ。普通に買えばかなり高価なものなのだが、学園生ならばそんな高級鎧を格安で購入できる。


 いつも四六時中行っている魔力循環の魔力を変化させ、体中にその魔力を行きわたらせるようにする。これは自己強化という魔法の一種で、体力や敏捷性を向上させ、代謝をよくして怪我しにくくなる。


 両親ともに騎士で自己強化免許持ちだったので、一通り教えてもらったのだ。魔法なので町中で使う場合は当然ながら免許が必要で、まだまともに練習していないが、いつもの魔力循環と同じような物なので、練習がてら使っていこう。


 ダンジョンの入り口を振り返ると、巡回警備している神殿騎士のおっちゃんが笑顔で手を振っていた。入るときに「はじめてか、気を付けてな」と声をかけてくれた気のいいおっちゃんだ。こちらからも手を振り返す。さあ、ダンジョン攻略開始だ。



 ダンジョンの奥に進みつつ、腰の剣に手をやる。うわ、手汗が酷いな。自分でもかなり緊張しているのがわかる。もう一度深呼吸して落ち着こう。


 ダンジョンの入り口付近はかなり広い。それなりに多くの人がいるのだけれど、まばらにしか人がいないように錯覚するぐらいだ。足元には大きめの石がごろごろ転がっていてかなり歩きにくい。


 太陽の光が届かないような奥へと進んでいく。とても暗いが天井や壁がところどころ淡く光っており、何も見えないということはない。念のために提灯とろうそくは持ってきたが、使わなくても大丈夫そうだ。


 まるで鍾乳洞のように尖った岩が生えている場所を抜けて、さらに奥へと向かう。そろそろ妖獣がでてもおかしくない領域だ。今まで以上に集中力を上げて、妖獣が周囲を徘徊する気配をさぐろうとするが、いまのところまったく反応はない。当然だ、もとからそんな能力持ってないしな。


 まったく気配は感じていなかったが、偶然ふと見た方向に、キラキラ光る二つの点があるのが目に入った。なんだろうな、とぼーっとその二つの光点を眺める。なんか動いているな、なんだろう。


 全く危機感なく突っ立っていた俺は、唐突に何かがぶつかる衝撃を受けたのを感じた。なんだ、なんだ? あ、妖獣だ! 四つ足の妖獣の襲撃を受けたのだ。迎撃するどころか、剣を抜くことすらできなかったぜ。


 姿は良く見えないが、中型の犬ぐらいの大きさの四つ足の妖獣だ。おそらくシバーと呼ばれる妖獣だろう。俺は腰の剣を抜いて青眼に構えた。よし、来るなら来い、相手になってやる!


 妖獣シバーは俺に何度か体当たりをかましてきた。俺はそれに合わせて剣を振るが、まったく当たる気配はない。というかそもそも俺は、足元にいる妖獣に当てるような剣の振り方を今までしたことがない。こんな低いところをどうやって切ればいいんだ。


 下から斜め上に切り上げる逆袈裟斬りだって、実際に斬るところは低くても太ももの上半分あたりだ。ツルギのおっちゃんの剣術には膝下を狙う型もあるのだが、俺はまだそこまで至っていないので稽古していない。かなりまずいな、これは。


 相手の高さに合わせて、もっと低く構えるしかない。俺は足を大きめに開き、少し前傾ぎみになって腰を大きく落とした。相撲取りが四股を踏むときに似た態勢だ。足さばきが自由にできなくなるのでこちらから前には出られないが、反撃ならばなんとかなるかもしれない。


 来た!妖獣が飛び込んでくる。それに合わせて剣を横なぎに振る。

 

 ぽよよ~~んっ


 足も出なければ腰もついてこない、踏み込みがまったくなってない。そんな鋭さの欠片もないポヨヨン斬りでは妖獣には届かない。


 次こそはと、再度妖獣に向き合うように剣を構えなおす。来るぞ!

 

 ぽよよ~~んっ


 横一文字の一振り!


 態勢も踏み込みもまったくなっていなかったが、渾身のポヨヨン斬りの切っ先は、なんとかぎりぎり妖獣に届いた。


 ふうう、勝てたぁ。安堵で一気に力が抜けていく。やっぱりかなり無駄な力が入っていたようだ。


 しばらく放置してある程度血が抜けたところで、俺は倒した妖獣を大きな麻袋にしまうと、肩に担いで次の獲物を探してダンジョン内を移動することにした。しかしまあ何とか勝てたとはいえ、思い通りにはぜんぜんいかないね。



 そのままダンジョンの徘徊を続け、一撃必殺とはいかないものの、数匹の妖獣を倒すことに成功した。それにしてもかなり暗く視界が悪いのに、妖獣の姿はそれなりにはっきり見えるな。光っているわけではないのになぜだろうか。


 少し気になってよく観察してみると、その姿が俺の目に映っているわけではなく、妖獣の魔力が見えているのだとわかった。さらによく観察すると、妖獣の魔力を目で直接見ているわけじゃなく、俺の魔力が妖獣の魔力を感じ取っているようなのだ。今まで魔力が目で見えると思い込んでいたけれど、そうではなく魔力を感じ取って目で見ているような気になっていただけだったのだ。


 次の妖獣はポヨヨン斬り一発で仕留めた。なかなか冴えてきたね。体も心なしか軽くなった気がする。あ、これ、レベル上がってるわ。自分のレベルは目に見えるわけではないけれど、自分でははっきりそうだとわかる、なんてことを聞いていたけれど、確かにその通りだ。俺は俺のレベルがわかる。そう、俺はレベル一になっていた。


 そうとわかると余計に体が軽くなったように感じるのだから現金なものだ。さらに移動して妖獣シバーを狩っていく。腰を落とす構えにも慣れてきて、ポヨヨン斬りも絶好調だ。


 倒した後の妖獣を観察していると、体から魔力の渦のようなものが出てきて、それが周りに霧のように拡散していくのがわかる。その霧が俺のところまでやってくると、弾かれてどこかに消えていくのだ。


 さらに数匹倒すと、どこか波長が合ったのだろうか、その霧が俺の中に入ってくるのがわかった。うえええ、妖獣の魂みたいなのを吸い込んだ? と思って焦ったのだが、そのとき俺のレベルが上昇したことに気が付いた。この魔力の霧のようなものがレベル上げの素なのかもしれない。


 次の妖獣の霧が来た時、積極的に受け入れようと自分の魔力を色々操作してみる。だめだな、弾かれる。何度か試していると『がっちり噛みあった』感覚があった。そして霧は弾かれずに俺の中に取り込まれ、同時に俺のレベルが上がった。レベル上げの秘密のような物が分かったのかもしれない。


 今ので二つ目の大きな麻袋もいっぱいになってしまった。レベルも上がって三になったので、今日はこれで終わりにしようか。



 ダンジョンを出ると、入るときと同じ巡回警備のおっちゃんがいた。ちゃんとお礼を言っておこう。


「おかげさまで、無事に帰って来られました。」

「良かったな。次も気をつけろよ?」


 この時期にピカピカ新品の鎧できたので、俺のことはすぐ学園の新入生だとわかったらしい。それがグループを組むことなく一人だったので、気にかけてくれていたみたいだ。とても良い人だね。


 俺はたまたま一匹づつしか出会わなかったが、ダンジョン内ではときどき妖獣が溜まっていることがあって、十匹以上に襲われることもあるらしい。シバーといえども十匹を超えればかなりの脅威だな。


 俺は運が良かったのと、防具の性能に助けられただけなのだ。おっちゃんの言う通り、慢心しないようにしよう。


 おっちゃんによれば、狩った妖獣はダンジョン脇にある解体場に持ち込めば、買い取ってお金にしてくれるそうだ。言われた通りの場所に行ってみると、血まみれのエプロンをつけた筋骨隆々のオッサンがいたので、麻袋の中身を見せてみる。


「坊主、こりゃ大漁だな。良い小遣いになるぜ。」

「お手数をおかけしますが、お願いします。」


 数えてみると、シバーの死体は十六もあった。どうりで重たいはずだ。レベルが上がってなければ運べなかったかもしれない。


 エプロンのオッサンに礼を告げてから、割符をもらってその場を後にした。ここで現金でお金を貰うのではなく、町中にもどってからこの割符と引き換えでお金が貰えるのだとか。そりゃこんな場所にお金を置いていたら、襲ってくれと言っているようなものだからね。


 お金を支払ってもらう場所はいくつか選べるようだったので、その中から俺は魔法騎士学園の購買を選んでおいた。問題なければ翌日には受け取れるそうだ。


 すでに陽は少し傾いている。思っていたより疲れていたようだ。家に急ごう。


 帰り道、ダンジョン近くには貧民窟が広がっているのが見えた。彼らは町の外で、どうやって生計を立てているのだろうか。それがかなり気になった。



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