2-27. 普通ではない朝
家に戻るとキサが起きてきたので、軽く魔力循環合戦をすることになった。二人揃ったルーシーが<マコちゃんを呼べ!>とうるさかったけれど、朝ご飯だから。今は無理だからね!
朝食の後、キサの頭を撫でてから学校に向かう。制服ではなく、鎧の上に白ローブ姿だ。マコちゃんも同じく鎧の上に青いローブ姿だった。切り合いになったら制服が傷むので、ローブにしたらしい。制服よりもローブのほうがかなり安いし、脱ぐのも簡単だからね。
教室でも、驚いたことに仲間たちだけでなく、男女混合組の五人もローブ姿だった。全員下に鎧を着こんでいるそうだ。こちらの寮生組の情報から急遽連絡を取り合って、そういうことにしたらしい。素晴らしい機動力だな。
男子五人組はというと……まだ来ていないようだ。何かをやらかしたのかも知れないな。そう思っているところに、ショウ先生に引きずられるようにしてやってきた。やっぱり何かをやらかしたのだろう、顔がボコボコに腫れている。
「ああ、こいつらに回復するのは禁止な。俺はもう一人の阿呆を連れて来るから、お前らはここでおとなしくしていろ、いいな?」
もう一人? そういえばボコボコ顔は四つしかないなぁ。寮生組が事情を尋ねているみたいだけれど、俺はあいつらの名前すら知らないので放置だ。どうせ変な集会に行こうとしたところを、ショウ先生に見つかってシバかれでもしたんだろう。
「そもそもお前らが悪いんだろうがっ!」
「お前らの問題に俺らが何の関係があるんだ?」
「女子を無理やり引きこんで独占して、無関係づらするなよ!」
なんだかおかしな雰囲気だぞ?
「何の話だか分からないけれど、無理やり引き込んだというのは人聞きが良くないなぁ。」
こいつらは俺に何か言いたいのだ。それなら俺が出てやろう。
「そもそもなんで顔がボコボコになってるの?」
「これもお前らのせいだろうが!」
「それはちょっと無理がない? 相手は魔法騎士だってことを考えて、冷静に話をしようね? 死ぬよ?」
「けっ、ちょっと痛いところをつかれたら、すぐに脅しかよ。」
「脅しじゃないよ。」
俺は剣を抜く。
「本気だよ? じゃ、死んで?」
俺が振った剣は、ボコ顔野郎の首元ぎりぎりで止まった。
「脅しにしてもいいよ? どっちにするか選んで。」
ボコ顔野郎はアワアワ言うだけで使いものにならなくなったので、別のボコ顔野郎を選ぶ。
「彼は話す気がないみたいだから、君に聞くね。ボコボコ顔になっているのはなぜ?」
「あ、ああ、謝ります、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「謝らなくていいから、落ち着いて理由を話してね?」
ボコ二号によれば、やはり変な集会に参加しようとしていたらしい。
この四人は参加するつもりが無かったのだが、もう一人から「甲組から参加することが大切なんだ、助けてくれ」と頼み込まれたので、仕方なしに参加しようとしていた。そこをシュウ先生に見つかってボコボコにされたそうだ。
もう一人? ああ、神聖術で見た記憶がある、たしかガイコツとか言うやつだっけか。
「で、それがなぜ俺たちのせいなのかな?」
「お、俺は、おま、おま、あなた方のせいだなんて思ってませんっ!」
「ああ、そこのそいつだけの話なのか。じゃあ後で彼に責任取ってもらおうね。」
俺は剣をしまう。
アワアワ言っていたボコ一号は土下座しながら「ごめんなさい」と連呼している。このまま放置でもいいけれど、ちょっとうるさいかな。
「特別に謝罪は受け入れてあげるから、静かにしててね。それと、次はないからね。」
俺はさらに別のボコボコ顔に声をかける。
「俺たちのせいだ、なんて話を、他の誰かから聞いたの?」
ボコ三号は、顔を引きつらせ、背筋をピンと伸ばした。
「いえ、はい、いいえ、」
「どっちだよ。」
「ここに来てないもう一人が、あなた方が女子生徒を独占して、俺たちのほうに近寄らせないようにしてるって……。」
おれは仲間の女子だけでなく、混合組の三人娘にも聞いてみたけれど、誰もなんのことかわからないようだ。
「女の子たちは、そんなことはないって言ってるみたいだけど?」
「ああ、はい、いいえ、あいつの勘違いか何かだと思いますっ!」
女子とグループが組みたかったってことだと思うけど、それならあの時に「向こうは十人組になったみたいだし、こっちも十人組にしよう!」って言っていれば、何も問題なしに組めたんじゃないかな。
それを言うとなんか可哀そうだから黙っておくけどね。
さらに最後の一人、ボコ顔四号に質問する。かれはさすがに少し落ち着きをとりもどしているようだ。
「ここに来てないソイツは、なんて言って君たちを呼び込んだの?」
「あなたたちが練習場を独占したり、先生を専属にしたりして、他の生徒たちを締め出そうとしているって言ってました。」
なんじゃそりゃ。
「このままだと他の生徒は満足な訓練ができなくて騎士にすらなれなくなるって。魔法騎士には下のものを助け導く義務があるのに、蹴落とそうとしている害悪だって……。」
魔法騎士にそんな義務があるなんて聞いたことないぞ? それって誰かに丸め込まれているんじゃないかな。たぶん阿呆教師どもだと思う。
別に無理に虐げようとも思わないけどね。
「たぶんだけど、それってとんでもない勘違いというか、誰かが悪意でもって広めている流言飛語の類だと思うよ。」
自分たちは練習場を専用で借りることは出来ないのに、あいつらだけずるい。もうすでに魔法騎士なんだから、まだそこに辿り着いていない俺たちに譲るべきだ。それをしないのは専横だ、許せない、その程度の考えなのだろう。
「俺たちが専用の練習場を使っているのは、俺たちのためじゃなくて、君たちみんなを守るためだからね?」
魔法騎士の力というものは物凄いもので、それをまだうまく扱えない俺たちは危険極まりない存在だ。だから俺たちを隔離するために専用の練習場を使い、結界は外に出られないように設定したうえでなければ、訓練してはいけないという制限を設けたのだ。
剣や槍の授業でも俺たちは全力を振るえなかった。全力で素振りすれば木刀は爆散し、レベル差があるからその欠片は鎧を貫通して、周囲の生徒たちを巻き込むことになる。大怪我で済めば良いけれど、それで即死しないとは限らない。
サボっている、などと文句を言われても、現実にはそういう制限を受けていたのだからどうしようもない。仕方なく授業の選択を解除したら、教師を舐めているなどという不当な言いがかりをつけられる始末だ。
そんなに死にたいのなら、別に殺してあげても良かったのだけどね。
そもそもあの学園長が、魔法騎士になりたての若造の我がままに唯々諾々と従ったり、ほいほいと設備を貸し出したりするはずがない。
そうしっかり説明してやる。
「それなそう教えてくれても良かったじゃないですか……。」
ボコ四号はまだ舐めたことを言っているなぁ。根本的にわかってなのかもしれない。
「無能教師たちには言っても通じなかったそうだけどね。それにそんな義理が俺たちにある? 名前も知らない人たちのために、魔法騎士が汗水たらすの? なんかおかしくない?」
「そ、それは……。」
「別に臣下の礼を取れなんて言わないよ? でもそれを尋ねるのは誰がやるべきことだったのかな? 一度しっかり考えてみたらいいと思うよ。」
魔法騎士とそうでないものとの間には、はっきりとした上下関係がある。それを受け入れないというのであれば、そんな世界をひっくり返すために、それこそ命を懸けて戦うしか道はないではないか。
その戦う力を手に入れるためには、騎士へ、そして魔法騎士へとレベルを上げるしかないではないか。
もう授業は始まっている時間のはずなのに先生はやって来ない。授業開始の鐘も鳴らない。やはり大きな問題が起こっているようだ。
そしてショウ先生も、もう一人の級友、ガイコツくんの姿もまだ見えない。




