2-21. ダンジョン再開 売り上げ編
一日を挟んで土曜日の午後、俺たちはまたダンジョンの前に集結し、準備体操を行っていた。ダンジョンでの狩りを行うのだ。
昨日は午前中の鍛錬の後、半日ゆっくり休んで、マコちゃんやキサと一緒にぼーっとしながら魔力循環して過ごした。俺としては気力体力ともに充実しているのだけれど、マコちゃんは少しお疲れ気味の様子だ。
今日は先週と同じく妖獣ダチョーを狩る計画をしている。ダチョーは身長が高いので、横薙ぎの剣ならば軌道が大きくぶれても当たることが多く、首や足が細いので、当たれば致命傷になりやすい。俺たちにとって狩りやすい妖獣なのだ。
今日のダンジョンはレベル上げが目的ではない。レベルは上げず、しっかり動きまわること、そして狩りの売り上げで懐を温めることが目的だ。それを再確認して、俺たちはダンジョンへと入っていった。
俺とマコちゃんはレベル三十二、他のメンバーはレベル三十一もあるのだ。これ以上はそうそうレベルが上がるものではない。
そして数時間後、俺たちは狩りを終えてダンジョンから出てくることになった。全員のレベルが三十三になっていた。
「おいエイタ、今日はレベル上げはしないって話だったよな?」
「うん、そういう話だったよね。」
「なんだか、全員のレベルが上がっているのは気のせいかしら?」
「うん、気のせいじゃないよね。」
「エイタ! なんでこんなことになってるのよっ!」
「うん、なんでだろうね。」
そんなこと俺に言われても……
さらに翌日のダンジョンで、スバルはレベル三十四、俺を含めた残り全員がレベル三十五まで上がった。なんでこんなことになったんだろう? お、俺のせいじゃないよ?
みんなジト目で俺のことを見て来るけど、俺は何もやってない、本当なんだ!
確かになぜか体調は良かった。みんながそうだった。アヤノ先生の謎運動、特に効果は感じていなかったんだけど、もしかしたら効果が出始めているのかも知れない。
昨日、少しレベルが上がったんだけど、特に違和感を感じることはなく、今朝の運動でも特に問題が発生することも無かったのだ。だから「もう少し踏み込んでみようぜ!」なんて軽く煽っただけなのだ。みんなだって乗り気だったくせに。
「エイタ、本当に何もやってないのか?」
先週と同じだよ? 敵を倒したら反射結界を張って、それを縮めていって、吸収されたら結界を解く、それだけだよ?
結界の操作も上手くなってきたので、ほぼ確実に霧の魔力を捕まえられるようになったし、完全反射できるようになったし、結界の範囲を縮めていくのもほぼ完ぺきになったから、百パーセントの確率でレベルが上がるようになったけど。
「やってないはずがないだろ! なんでレベル三十二の妖獣を倒して、レベル三十五まで上がるんだよ!」
妖獣を倒した後に出てくる謎の霧を二つまとめて結界で囲んでギュっってすると、食い合いをするのか知らないけれど、一つになってレベルが一つ上がるようなのだ。
そうやって生まれた謎の霧を二つまとめてギュってすると、さらにレベルが一つ上がる。レベル三十二の妖獣を四匹倒したら、レベル三十四の霧が一つできてしまうのだ。そしたらほら、レベル三十五まで上がるじゃないか!
「仕方ないだろ? やってみたら出来ちゃったんだから。」
「お前なぁ……、やる前に一声かけろよな。」
頼むから、そんなに頭痛が痛いみたいな顔はやめてくれないかなぁ。
「なんだか思った以上に動けるような気がするけど、これもエイタと関係があるの?」
いやほら、それはアヤノ先生の謎運動が……。
回復魔法って普通は他人に掛けるし、同じ要領で自分にも掛けられるんだけど、俺のやり方はちょっと違っていて、自分に掛ける時には魔力循環の応用でやってるんだよね。つまり自分で行う魔力循環と他人に掛ける神聖魔法は、根本は同じということだ。
それなら普通は魔力循環でやる自己強化を、神聖魔法のようなやり方で他人に掛けることだってできるんじゃないかと思ったのだ。つまり他人を強化する魔法、強化魔法だな。
魔力循環とは違い、魔法はずっと継続するわけではないため、強化の有効時間はまだまだ短い。だから魔法を連続して掛け続ける必要がある、そんなまだ完成とは言い難い練習中の技なのだ。
「黙ってそれを俺たちに掛けていたってこと?」
「いやほら、ほんのちょびっとだけだよ? みんな気持ちよさそうにしていたし!」
みんなのジト目が俺に集中する。いやあ、そんな目で見ないで!
「これは本当に本当。全力でやったら吹き飛ぶと思うし。本当に気持ち程度しかやってないよ。」
「ちょっと試してみるか?」
強化魔法なし、ほんのちょびっとの強化魔法、それより強めの強化魔法と、少しづつ変えながら追加で妖獣を狩ってみることになった。
「その、ほんのちょびっとってやつ、やけに調子が良くなるなぁ。」
「以前までと同じとは言わないけれど、うまく体が動かせる感じがするよね。」
「わからないけど、表面魔力とかいうのが強化されているのかな?」
やってみると、強化魔法なしでも妖獣と普通に戦えたのだが、ほんのちょびっとの強化魔法だと、動きが自分ではっきりわかるぐらい動きが良くなったのだ。強めの強化魔法でも動きは良くなっていそうだが、強化具合も大きくなるので相殺されてしまう感じだ。
「謎運動に効果があるのは、これではっきりしたね。」
「魔力循環も効いているように思うわ。」
「強化魔法のこともあるし、そうかも知れない。」
俺の強化魔法のせいもあったけれど、それなしでも以前より改善されていることがわかった。うん、やっぱり俺のせいじゃなかった!
ゲシッ!
痛い! 飛び蹴りはやめてっ!
「よし、思った通りに動けた! 少しづつだけど以前の動きが取り戻せているなら、少しづつレベルを上げた方がいいと思う。」
「いや、それはどうだろう。しっかり元に戻した方が良くないか?」
「神殿で襲われたのもあるし、レベルは出来るだけ上げたほう良くない?」
そんな話をしながらダンジョンを出て、町に戻る支度をする。
今週のダンジョン戦はこれで終了だ。レベルを上げるにしても、とどめておくにしても、それはまた来週の話になる。今から決めたとしてもその通りに出来るとは限らないし、どうしてもレベルを上げた方が良い、いや据え置いた方が良いと思えるような事案が起こるかも知れない。
今日は結論を出さず、その時の状況や体調を見てまた考えればいいということで落ち着いた。みんなの顔を見ていると、レベルを上げることになる気はするけどね。
俺たちは今日のダチョーの中から二羽をお返しとして、マコちゃんの道場に差し入れすることにした。解体場のおっちゃんに聞いてみると、費用はかかるが配達もしてくれるらしい。
ホソカワ・エイタ Lv.35
ツルギ・マコト Lv.35
オニガワラ・ボルボ Lv.35
マツダ・ユウジ Lv.35
ホンダ・キイチロウ Lv.35
トヨダ・スケヨシ Lv.35
タカナシ・スバル Lv.34
ヤマナ・イスズ Lv.35
ヒノ・アキコ Lv.35
ヒノ・ハルコ Lv.35
 




