2-13. 上級時空術のさらに上
登校して教室に向かう際、男女混合組のマサシとカズヒロの二人と一緒になった。
「おはよう。そっちも朝から頑張ってるみたいだね。」
「おうよ! 負けてられないからな。」
「絶対に追いついてやるぜ!」
しっかり早朝から鍛錬しているようだ。ちょっと汗のにおいが気になったので、浄化魔法をかけてやる。
「頑張るのは良いけれど、汗臭いと女の子に嫌われるぞ?」
「ええ? うそ? そんなに匂いしてた?」
「女子は匂いに敏感だから、気を付けないとね。」
「うわあ、マジか、……これ、定期的にお願いしていいかな?」
マサシがちょっと遠慮気味に聞いてきたけれど、そんなことぐらいは全然かまわないってば。女子三人組は近い将来に浄化が使えるようになるかもしれないけど、そんなことは女の子には頼みにくいしね。
「エイタがおしゃれに気を付けているとは思わなかったよ。」
俺はデキるデブだからな! というか、いつもマコちゃんに指摘されているからね。
午前の授業は座学だ。この国の歴史や地理、主な生産物、そして妖獣の分布や生態なども学ぶことになる。今の所はそれほど難しい内容ではないけれど、必修科目ではあるし期末には試験もあるので、しっかり勉強しておく必要はある。
俺はあまり成績の良い方ではないので、将来はイスズのお世話にならないといけないかも知れないなぁ。その時のために、いまのうちから彼女には貸しを作っておかないと。
そんなことを考えているうちに授業は終わっていた。しまった、まったく聞いていなかったぞ? まさかいきなり彼女に借りを作ることになってしまうとは。人生って難しい……。
午後の選択授業は、時空術の俺と、呪術のキイチロウとイスズを除いて、他の仲間たちは体術系の授業になる。
昨日も俺とアキコ、ハルコを除けば体術系の授業で、何しろ暴走したら死人が出かねないものだから、周りにかなり気を使わなくてはならなくて、というか何もできないうえに、先生からの嫌味もあって、精神的にかなりきつかったそうだ。
今日もそれが続くと思うとかなり気分が重いらしい。アキコとハルコもみんなの話を聞いて辟易としているようだ。
ちなみに明日は、ハゲジジイ先生が担任している妖術の俺とスバル、イスズを除いて、他の仲間は体術系だ。マコちゃんとボルボ、ユウジ、スケヨシの四人は三日間連続で体術系ってことになる。全くご愁傷さまという他ない。
まあ俺は剣術を選択してはいるものの、一度も出席していないので、この件にはあまり口出ししないでおこう。
時空術の選択授業は例の貸し切り魔法練習場で行われる。当然アヤノ先生が担当だ。この後に補講もあるので鎧に着替え、その上にローブを羽織ったうえで、先に練習場に入って準備していると、ガラッと扉を開けて先生が入ってきた。
一瞬あれ?と思ったけれど、そりゃあ屋根があるし飛んで入ってくるわけないか。
「さて、それじゃさっそく、呪文の試験に行ってみようか?」
「はい、お願いします。」
俺は覚えてきた呪文を順番に暗唱し始める。
なむなむなむ~ なむなむなむ~
うん、つっかえずに全部言えた。
「ん~、抑揚がおかしなところはあるけれど、言葉自体は合っているわね。」
「ああああ、それじゃあやり直しですか?」
「中級は合格。上級に進むことになるけれど、ここで提案があります。」
ん? なんだろう?
「上級合格として、時空術の授業は終了にする。これが一つ目の案。上級の授業を続けて、呪文をしっかり覚える。これが二つ目の案。」
「一つ目はわかりますが、二つ目はどういうことですか?」
今更、呪文で魔法を使ってどうするというのだろう?
「いま貴方は上級の時空魔法を完全に使えるわね? その状態で呪文を唱えて魔法を発動しようとしてみれば、その魔力が間違っていることも、その違いがどこにあるかもわかるはずよね?」
「多分そうだと思います。」
それはそうだけど、それがどうしたというのだろう。
「その状態で違っている所を修正するように、心の中の状態とか、呪文の抑揚などを調整していけば、それなりに簡単に呪文を唱える魔法が使えるようになるはずよね?」
やってみないとわからないけれど、何も見えないよりは簡単に出来るかもしれない。でも、それがどうしたというのか。
「それが第一段階。それが出来れば次は、私が使えない時空魔法の呪文を唱えてみる。そして自分でその時の魔力を見て、こうなればいけそうだ、とか、これはダメだ、なんて想像しながら、呪文の唱え方を変えてみるの。」
「それで先生が使えない魔法が覚えられるかもってことですか?」
「そう、その通り。」
どうだろう、簡単には行かないだろうけど、やってみてもいいのかもしれない。
「今は基礎体術の鍛錬にそれなりの期間をかける必要があるでしょう? それなら時間のかかりそうな魔法練習に挑戦するのにちょうどいいんじゃないかしら?」
「つまり、先生と二人で新しい呪文に挑戦する感じですか?」
「そう、その通り。」
そう考えると、なんだか面白そうだな、やってみようか。
もう魔法騎士になるという目標は達成しているわけだし、あとの五年間に何をするのかも自由だ。それなら面白そうなことをやってみたほうがいい。
神聖魔法は神殿でちょっと揉めちゃって終わってしまったから、時空術でそれをやってみるのもいいだろう。
「呪文に慣れてきたら、見たことがある魔法から呪文を作るとか、変なことが出来るようになるかもしれないし、他の魔法熟練者との意見交換なんかもやりやすくなる。将来の役に立つと思うわよ?」
まあ上級合格はいつでもできるわけだから、寄り道もいいかもしれない。
「二つ目の方でお願いします!」
「了解。一緒に頑張りましょう。」
まずは先生の発音に合わせて、何度も呪文を唱える練習からだ。最初に覚える魔法に、おれは飛行魔法を選んだ。
なむなむなむ~
なむなむなむ~
何度も練習を続けた結果、発音はかなりよくなり、魔力も呪文なしの時のようにはいかないが、かなり似た感じに流れるようになってきた。
どこを変えれば魔力がどう変わるのか。それを意識しながら呪文の唱え方を変えてみる。なかなか難しいが、やってみると意外と面白いかもしれない。
先生は少し離れた場所に移動して、まだ使えない魔法の練習を始めたようだ。
二人して全く発動しない魔法の呪文をひたすら唱え続ける時間。おそらくだけれど、魔法を使える人達はみんな、これと同じような時間を何時間も過ごしてきたのだろう。
俺の呪文の発音の確認のためか、先生はたまに戻ってきては目をつぶって俺の呪文を聞いている。そして発音の違いを修正しては戻っていく。
それを何度も繰り返しているうちに、呪文がだんだん形になってきたのか、魔力の形も魔法の時とかなり似たものになってきた。まだ八割程度ってところかな。
呪文を唱えるのを止めて少し休憩を入れると、アヤノ先生がこちらにやって来た。一緒に休憩するようだ。
「今で魔力はどのくらいの完成度?」
「はっきりとしたことはわかりませんが、八割程度ってところですね。」
「呪文自体は、もう魔法が発動してもおかしくない感じなんだけど。それで八割ってことは、心の中で思っていることの影響力がそれだけ大きいってことね。」
アヤノ先生はしばらく目をつぶって考えているようだったが、ぱっちりと目を開けると「ちょっと見ていてね?」と声を掛けて呪文を唱えだした。
なむなむなむ~
俺の耳でもなんだかおかしく聞こえる呪文、しかしアヤノ先生は問題なく空に浮かび上がる。魔法の魔力は、いつもに比べて何だかぎこちなくていびつだ。
「魔力はどのくらいの完成度だった?」
地上に降りた先生は俺に聞いてきた。
「いつもより形が変で、九割ちょっとって感じです。」
「ふむふむ、そのぐらいの完成度があれば発動するってことか。やっぱり呪文より心が重要なようね。」
完璧に魔力を合わせろと言われると遠い道のりに見えたけれど、九割強でいいのならかなり楽な気がしてくる。最終的に魔法が発動することが目的で、何も変わらないのだけれど、気の持ちようは大きく変わるのだ。
その後も呪文を唱え続け、魔力の完成度がおおよそ九割程度にまで上がったところで、授業終了の鐘の音が聞こえてきた。
魔法の発動には至らなかったものの、かなりの手ごたえが掴めた気がする。




