2-5. 魔法騎士になったので
俺たちが連れていかれた先は、職員室の隣にある職員会議室だった。
「失礼します。」
あいさつして扉をくぐるショウ先生に続いて、俺たちもあいさつしてから中に入る。
「ああ、みんな揃いましたか。お座りなさい。」
中にはおそらく偉いんじゃないかという風貌のオッサンが待っていた。勧められるまま全員が席につく。しかしこのオッサンどっかで見たことある気がするぞ。
思い出そうと頭をひねっていると、マコちゃんに小声で「学園長先生だよ」と教えてもらった。そういえば入学式で「青春はどうだ~」みたいなことを喋っていたオッサンに似ているな。いやそのオッサンその人か。
「まずはみなさん、魔法騎士への到達おめでとう。」
ありゃ、昨日の今日なのに、もう学園長先生にまで伝わっていたのか。そういえばこのオッサンも魔法騎士なんだな。俺と同じかそれ以上のレベルだ。それで見ただけでわかっちゃったのかな。
「私も正直びっくりしているし、いろいろ聞きたいこともあるのだけれど、必要なことから話します。」
学園長はそう話を切り出した。
「まずはレベルについて。魔法騎士が自分もふくめて魔法騎士のレベルを口にするのは、失礼なこととされています。相手が魔法騎士の時はレベルではなく、ただ魔法騎士と呼ぶようにしてください。」
魔法騎士となれば、レベル三十だろうが四十だろうが、レベルの上下によらず同格の存在になる。下手にレベルを数字で表すと、そこに明確な上下関係が生まれてしまう。それが非常に良くないのだそうだ。
「みなさんはもう魔法騎士です。よって未成年ではなく成人とみなされます。成人ですので武器携行の免許が与えられ、帯刀の義務を負うことになります。」
おお! 魔法騎士は大人扱いになるのか。
「帯刀ってなんですか?」
「大小の二本の刀を腰に差すってことだよ。」
キイチロウの質問に、学園長は丁寧に答えてくれる。
「自分の刀なんて持っていないでしょう? それは学園が貸与しますので安心してください。」
刀は四六時中持ち歩いている必要はないけれど、学園の制服姿、または鎧姿のときは身に着けている必要があるそうだ。具体的には学園への登下校や、ダンジョンに行く時だな。今日はまだ大丈夫だが、明日からはしっかり帯刀しなければならない。
「また三日後、学園がお休みになる日に、御領主様へのお披露目会があります。それには必ず出席してください。」
「あの、礼服が必要でしょうか?」
「いえ、学園の制服で構いませんよ。」
領主様へのお披露目って、なんだか大変な事になってきた気がするぞ。学園の制服で良いのは助かるな。
魔法騎士は特権階級でもある。別に所かまわず横柄に振る舞ったり、肩で風を切って歩いたりする必要はないし、それは魔法騎士であっても褒められた行為ではない。
しかし魔法騎士に対して不遜な言動を行う者、特にそれがレベル二十の騎士にも満たない場合には、たとえ切り殺したとしても罪には問われない。そして余程のことが無い限り、非難されることもないのだ。
それだけに魔法騎士には、正しく身を律していくことが求められる。
そうは言っても、それこそ犯罪者や盗賊相手でもないかぎり、殺さないほうが良いそうだ。たとえ切り刻んでも死んでなければ治療できるからね。
「さて、ここからは学園の授業のお話です。みなさん、あまりに急激にレベルが上がったので、いろいろ動きに不自由があってお困りでしょう。」
ああこれ、今一番聞きたい話だ。
「ですから基礎体術は他のみなさんと別かれて、別の授業を受けてもらいます。あなたがた向けの特別授業ですね。また午後の授業の後に補講を行いますので出席するようにしてください。」
「あの、基礎魔術は同じで良いのですか?」
「ええ、構いません。それでもしも問題があれば教えてください。」
その他、細かい連絡事項を受けた後、俺たちは解放された。早く教室に戻らないといけない。
ローブに着替えて教室に入ると、すでに基礎魔術の授業は始まっていた。
「話は聞いていますので、そのまま席について。先週の魔法陣を出してくださいね。」
言われた通りに魔法陣を出して、他の生徒たちの様子を覗う。男女混合組は五人ともうまく光らせているようだ。一方で男子五人組はかなり苦戦中だな。
そういえばレベルが大きく上がってからは、やっていなかったことを思い出した。うまく出来ればいいけれど。俺は自分の魔法陣を手に取った。
ピカッ!
「ぐわぁ! 目がぁ、目がぁぁっ!」
突然、後ろの席から閃光が走ったかと思ったら、スケヨシが叫び声を上げた。
え? 俺、まだ魔法陣に魔力流してないんだけど!?
後ろを振り返ると、目を押さえながら悶えるスケヨシの前に、茶色く焦げた魔法陣が落ちているのが見えた。
今日は自爆かよ……。
スケヨシを癒した後、二の舞にならないように注意して魔法陣に魔力を流す。よし成功だ。魔法陣は閃光をあげることはなく、明るく光り始めた。魔力を弱めて明るさを暗くしていく。次は魔力を強めて明るく。よし、制御もできるぞ。
マコちゃんはどうだろう。気になってみてみると、とても難しそうな顔をしているものの、しっかり光らせることに成功しているのがわかった。まだまだ明るさが安定していないし、練習を繰り返す必要があるのだろう。
グループの他のみんなも全員光らせることは出来ているようだ。ボルボは相変わらず点滅させていたけれど、光ってはいるのだし、合格できるだろう。
「え~っと、そちらの男子五人がまだ出来ていないようですね。先生がちょっとお手伝いしますから、前に出てきてくださいね?」
呼び出されて前に出る五人。
「それじゃあ一人づつ順番に、先生と両手をつないでください。」
熾烈な順番争いの結果、勝利した一人目の男子が先生と両手をつなぐ。ちょっと可愛い感じの若い女の先生と手をつなげたからなのか、何だかとても嬉しそうだ。
これこのあと強制的に魔力循環するんだよね? そんな顔をしている場合じゃないと思うけど、大丈夫なのかな?
「それじゃ行きますね、えいっ!」
「ぐええええええぇぇぇぇぇぇえええええっ!」
一人目は大きく痙攣を繰り返し、白眼を剥いて倒れた。
「はい、それでは次!」
残った四人は次の順番を譲り合っている。さっき一番手争いをしていたのは何だったのか。
先生は逃げようとする男子の群れから、問答無用で一人の首根っこを掴まえると、おりゃあっ!と魔力を流し込んだ。
「あばばばばばばばばっ!!」
手をつないで貰えるほうがまだマシだと悟ったのだろう、次の犠牲者からは素直に両手を差し出しているようだ。
完全に目を回して倒れ込んでいる五人を見下ろして、マコちゃんやユウジたち、魔力循環苦手組は「出来るようになって良かったなぁ」と胸をなでおろしていた。




