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4. 豚の剣

 約束のとおり、二人で一緒に魔法騎士学園に合格することができた。でもこれで終わりではない。しっかり鍛えて卒業して、次は二人で一緒に魔法騎士になるのだ。


 入学式まではまだ日がある。その間、ぼけーっとしていてもいいのだけれどね、マコちゃんが言うのだ。


「エーたん、ちょっと体をしぼらないと、学園の授業についていけなくて退学処分にされちゃうよ?」


 まだ入学していないのに退学処分は怖すぎる! なので、マコちゃんに従って、入学までは自主トレを行うことになった。


 剣術については今までマコちゃんの家のツルギ道場に毎週一回通ってきたのだが、全く上達する兆しはなかった。素振りは毎朝続けているんだけれど、それだけで上達するはずもない。俺にはそもそも剣術の才能がないように思える。


「エイタくんは見えているんだから、あとは稽古さえ続けて動けるようになれば絶対に強くなるよ!」なんてマコちゃんのお父さんの道場の先生、ツルギのおっちゃんは言うけれど、そんなにおだてられてもね。これ以上は空でも飛ばなきゃ登れないと思う。


 いつもより素振りするときより早い時間に起きだした。


「まずは準備運動として軽く走り込みからね!」


 走り出して数百メートルぐらいで、脳に酸素が足りなくなり、視野がどんどん狭くなってくる。『軽く』というのは何だったのか。


 こういうときは動く物に焦点を当てるのだ。揺れるポニーテールにしようと思ったのだがうまくいかない。疲れてどんどん頭が下がって、地面しか見えなくなってくる。何とか頭を上げないと。


 と、そこに揺れる丸い物が目に入ってきた。これだ、これしかない。マコちゃんの揺れる丸い物に全力で焦点を当て、それ以外の物には目もくれず、何も考えず、ひたすらついていく。


 息が苦しい。こんなときは呼吸法だ。呼吸を整えるのだ。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。ブヒブヒ。


 一生ぶんくらい走ったと思ったとき、マコちゃんはやっと足を止めた。


「つぎは素振りね、いつもやってるやつ!」


 二人で並んで木の棒切れで素振りする。


 並んで棒を振っているとよくわかるが、マコちゃんの素振りが「ビュッ!」だとすると、俺の素振りは「ぽよよ~~ん」って感じだ。すぐにどうにかなるわけでもないし、続けることに意義があると信じて、俺はそのまま「ぽよよ~~ん」を続ける。


「ビュッ!」 「ぽよよ~~ん」

「ビュッ!」 「ぽよよ~~ん」

「ビュッ!」 「ぽよよ~~ん」


 いつもより多めに素振りしたところで終了だ。


「朝の稽古はこのぐらいにしよっか。あとは道場で頑張ろうね!」

「うん、わかった。」


 いや、もうへとへとで、あとは今日一日寝ていたいんですが。ダメですよね。



 朝食の後は道場での稽古だ。


 マコちゃんもいるが、朝の稽古のように二人きりということはない。ちなみにキサも道場に通っていて、今日は一緒だ。


 いつも通りに素振りの稽古から始まる。二組に分かれて交代で、先生であるツルギのおっちゃんの号令に合わせて、並んで同時に素振りする。


「イチ、ニ、イチ、ニ、わきが甘い。イチ、ニ、イチ、ニ、それでいい。」


 悪いところがあればその場で指摘され、良ければ褒められるのだけれど、俺は当然指摘を受けるほうの常連だ。


 並ぶ順番は適当ではなくて、ツルギのおっちゃんが決める。前の方に並ぶのは上手いヤツらと決まっていて、上達すれば前に行けるし、ダメなら下げられてしまう。前のヤツを見て自分の悪いところを直せ、そういう意味らしい。当然ながら俺は後ろの方だ。


 交代だ、ぶひぃ~~、疲れた。交代したら壁のそばに並んで座って、次の組が素振りするのを見守る。他人が素振りしているのを見て、良いところや悪いところを自分の目で確認しろ、という意味らしい。

 

 お、キサは今日は後半組か。真剣に顔を真っ赤にしながら素振りしていのを見守る。可愛い姿に顔がゆるみそうになる、おっといけない、真面目そうな顔を作らないと。上手い人のを見て学ぶ時間なのかもしれないけれど、それよりも有意義な時間を過ごしたい。


 こうしてずっと眺めていることは今まであまりなかったけれど、キサの素振りは随分さまになってきている気がする。力を入れすぎていることもないし、流れも自然だ。というかこいつ、もしかしたら俺より上手いんじゃないか?


 何回か交代して素振りの稽古が終わったら、次は剣術の型の稽古だ。やり方は素振りとほとんど同じで、二組に分かれて交代で行う。ただし違うのは上手い人と下手な人で二人づつ、向かい合って行うところだ。


 お互い声をかけあってそれぞれで組を作る。やる気あふれるヤツは、上位の人にお願いしにいって組んでもらうわけだ。俺は特に上手いわけではないから頼まれることはないし、そこまでやる気があるわけでもないので、まあいつも適当に組んでいる。


「エイタは俺と組むぜ。今日はゆるんでるみたいだからな。」


 今日も適当に、と思っていたら声をかけられた。ゲェ、ヤスさんじゃんか。これは妹を眺めていたのがバレたかな。


 ヤスさんは師範代とか呼ばれていて、ツルギのおっちゃんがいない時に先生の代わりをすることがあるぐらいの腕前だ。仕方なく一礼して彼の前に並ぶ。朝稽古でつかれているというのに、今日はキツくなりそうだ。


 掛け声に合わせて、右から振り下ろす、それを避けるように足を動かす、左から振り下ろす、それを避けるように元の位置に戻る、振りかぶって振り下ろす、それを避けるように後ろに下がる。それが表。


 最初に避けるように動き、次に振り下ろす、つまり順番が反対になっていて、後から攻撃する裏。


 向かい合わせになった二人の一方が表、もう一方は裏。表と裏の一つ一つの動作は決まっていて、それを決められた順番に、全員で同時に行っていく。正しく型通りできれば危険はないのだけれど、当たらないように少し離れた距離で行うのだ。


 表と裏、両方が終わったら最初の型は終了だ。その次は二番目の型で同じことを交代で行う。それが終わったら三番目の型。俺はそこまでで終わりで、あとは見学することになる。見学している間に他人の型を見て覚えておけ、ということらしい。


 三番目の型が終わって、さああとは楽ちんだ、と思っていたら、四番目の型に入るように呼ばれた。うわぁ、マジかよ。仕方ないのでまたヤスさんの前に戻る。見学が遠のいたぜ。


 初めての型はとても緊張する。間違うと恥ずかしいだけじゃなくて、周囲の人にぶつかったりして危ないんだよね。あんまり酷いと外されて見学組に逆戻りだ。さすがにそれだけは避けたい。


 いろいろ指摘されはしたが、なんとか外されるのだけは回避して、四番目の型は終わった。これはつまり、今日は俺が四番目に上がる試験で、なんとか合格したって感じか。なんだかめちゃくちゃ疲れたよ。でもこれで今度こそ見学だ。


 五番目、六番目と型は進んでいく。型が進むにつれて動作はより複雑になっていく。そして人数も減っていく。最後の七番目の型になると、もう数人しか残ってない。六番目までは残っていたマコトも、ここで外れて見学組だ。


 マコトが五番目から六番目に上がったのは、まだついこの間の話なので、さすがにまだ七番目は無理だろう。


 こうして何とか一日が終わった。あとは毎日これを入学式まで続けるのだ。


 俺は生きて入学式を迎えることができるのだろうか。



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