2-3. どこまでもレベル上げ
結論から言うと、午前中のトラー攻略は大成功に終わった。
トラーは単独だけでなく、二匹組や三匹組で俺たちを襲ってきたが問題なく退けることが出来た。そして合計二十匹を狩って、イスズがレベル二十五、それ以外の全員がレベル二十六に上がることになった。
体のバランスも技の切れも何もかもがもうメチャクチャだったけれど、それについてはもう誰も何も言わない。獲物を持ち込んだ解体場のおっちゃんも、もう何も文句を言わない。
午後はそのままトラーの領域を奥に進み、大トラーやウワバミーを狩るか、それとも別の領域に行くかで少し議論になったが、同じような妖獣を狩り続けるのも面白くないということで、別領域に生息する妖獣ダチョーを狩ることに決まった。
ダチョーは走りまわるのが得意な鳥のような姿の大型妖獣で、鳥と違うところは鋭い牙が生えた大きな口を持っていることだ。走るときの最高速度はトラーよりも遅いらしいが、ずっと走り続けるだけの高い持久力、そして強い瞬発力を持っている。
トラーよりも肉が美味で、トラーのような毛皮は取れないけれど羽がそれなりの値段で売れるため、狩人から人気のある妖獣だ。ダチョーの領域はワラビイーやカンガルウーがいる所を越えたその先にある。まずは転移の魔法陣で移動だ。
魔法陣から出ると、そこは今までの領域とはまったく異なっていた。ここは本当に洞窟の中なのだろうか? 暗いのは同じなのだが、非常に広い空間が広がっていて、どこに壁があるのかわからない。天井からの薄明りに照らされているのだけれど、その天井も非常に高い。
地面はごろごろした岩が転がっているので、そこだけは今までの領域と同じだった。この広い場所で走り回る妖獣と戦うことになるのか。もしかしたらこれこそがレベル三十への壁、とても危険な場所なのかも知れない。
しかしそんな思いは全くの杞憂に終わった。ダチョーは基本的に直線的に走り回るだけの単純な動きで、縦横無尽に跳びまわると言うようなこともない。それに大きな群れを作っているわけでもなく、まとまりはないように見える。
背は高いが、細くて長い首はそれほど丈夫そうではなく、足も太くて頑丈そうなのは太ももだけだ。これってワニーほどではないけれど、どちらかというと狩りやすいんじゃなのか?
妖獣の首を狙って振った剣が逸れて頭に、そして胴体に当たるが、もうみんなそんなことには慣れっこになっているのか、全然気にしたそぶりは見せない。気にはしないと言っても空振りはさすがにまずいので、体の端の一点を狙うような攻撃は禁物だ。
数羽組で襲い掛かってくるダチョーを、ちゃっちゃと狩って、ちゃっちゃと袋に詰めて、ちゃっちゃと次に移動する、レベルを上げているというよりも、なにか稲の刈り入れのような農作業をしている気分だ。
そうして狩り進んでいると、キイチロウが声を上げた。
「あ、レベル三十になったわ。」
「おお、おめでとう。次行こうぜ。」
仲間の一人がレベル三十で魔法騎士になったというのに、喜びに沸くこともなく、祝福で騒ぎになることもなく、みんなが粛々と次の獲物へと移動していく。なんなの、この雰囲気。
結局、ダチョー二十八羽を狩って、俺とマコちゃんがレベル三十二、他のみんなはレベル三十一と、全員が魔法騎士になった。なってしまった。
そう、なってしまった、そういう感覚だ。
ダンジョンを出てさっさと獲物を解体場に渡すと、その微妙な雰囲気のまま学園へと戻ることになった。
ほとんど誰も何も離さずに歩いていたのだけれど、学園につくころになって、ユウジが力なくぼそぼそと語りだした。
「俺はこの学園で、五年間かけて、仲間と努力して、時には挫折して、友情をはぐくんで、そして魔法騎士になる、それが夢だったんだ……。」
「お、おう。」
うん、言いたいことはわかるぞ。俺もそれが小さいころからの夢だったし。
「それが何で、たった一週間で魔法騎士になってるんだよ? 豚魔法ってなんだ? エイタ、お前、何をやった!!」
「いや、俺に言われてもわからないというか……、十人全員の才能がずば抜けてたんじゃない?」
「そんなわけないだろぉぉぉおおおおおおっ!」
いや、痛い、首を絞めないで!
結界で反射させることで、何回も霧を取り込む機会が得られ、レベル上げの効率が高くなる。それは本当だ。ユウジには見えていないかもしれないけれど、反射する回数から見て効率は十倍には満たないはずだった。
仮に効率が十倍になっていたとしても、七日間の十倍の七十日間、およそ二ヶ月半で魔法騎士になれるだけの能力がみんなに備わっていたということだ。
つまり俺は悪くないっ!
レベルが上がるにつれてだんだん結界魔法の反射効率が上がっていって、最後のほうは反射する回数がめちゃくちゃ増えていたような気がしないでもないけれど、たぶん気のせいだ。
正座させられた上で、すべて白状させられました。
反射効率ほぼ百パーセントって言ったら、双子から「それ上級魔法」って突っ込まれた気がするが、多分気のせいだろう。
結界の反射効率が上がったのもあるけれど、結界の中に結界を張ることができるのを思い出して、中にどんどん新しい結界を張っては領域を小さくしていっていたんだよね。もう百倍以上になっていたんじゃない?
「まあ、これからも毎週楽しくレベル上げしようぜっ!」
にこやかに親指を立てたら、グーで殴られた。
上限を撤廃するような裏技を疑われたけれど、そんな技は本当に持っていない。もしかしたら結界で閉じ込めることが上限撤廃につながったのかもしれないけれど、そんなことは俺にもわからないのだ。
「レベル上げはともかく、少なくとも毎週一回は狩りに行きたいわね、主にお小遣い的な理由で。」
「それは俺も賛成だ。うちは仕送りも少ないしな。」
それでもみんな、一緒に狩りは続けてくれるようだ。
良かった、魔法騎士になったし学園やめるわ、とか言い出すやつがいなくて。
家に戻る途中、マコちゃんがぽつりと言った。
「魔法騎士になることが夢だったから、それがあっけなく叶って、夢がなくなっちゃったような、そんな感じがするんだと思う。」
「ああ、そうかも知れない。」
もっといろいろ苦労すると思っていたからねぇ。
「夢が叶ったはずなのに、何だか不思議な気持ちだね。」
「昔、約束した通りになったけど、何だか思っていたのと違う気がする。」
「そうだね。魔法騎士になれたのに、何が不満なんだろう、贅沢なのかなぁ。」
本当にその通りだ。何が不満なのか自分でもわからない。でも何かが不満なのだ。
あ、そうだ、一つ思いついたぞ。
「言い忘れてたけど、レベル三十到達、おめでとう! これでマコちゃんは立派な魔法騎士だ。」
ブサイクな顔で出来るだけにこやかな表情を作って、彼女に祝福を送る。
「ありがとう、エーたんも魔法騎士、おめでとう。」
「マコちゃん、ありがとう。」
マコちゃんは少し笑顔になった気がする。
家の前でマコちゃんと別れ、玄関をくぐって、レベルが三十二になったことを両親に報告すると、絶句されてしまった。息子が自分たちよりも上のレベルにあまりに早く到達してしまったので、びっくりしすぎて何も言えなくなってしまったようだ。
「お兄ちゃんおめでとう! さすがはお兄ちゃんだね!」
キサが能天気に祝福の声を送ってくれるので、頭を撫でながら魔力を循環してやる。うちの妹はそれだけでもうご機嫌なのだ。
「これからもレベル上げを続けるの?」
母さんが心配そうに尋ねてくる。
「いや、みんなで話たんだけど、違和感が大きくなってきたし、調整する時間が必要かなって。狩りは減らして、稽古の時間を増やす予定だよ。」
これ以上心配をかける必要もないので、これからの予定を伝えておく。
「魔法騎士ともなると父さんにはわからないけれど、違和感はとんでもなく大きいんだろうね。調整方法なんかはしっかり学園の先生に教えてもらうようにしなさい。何はともあれ、おめでとう!」
「ありがとう父さん。しっかり教わるようにするよ。」
今すぐではないけれど、実はちょっとやってみたいことがある、両親のレベル上げだ。時空間魔法を使いこなせるようになれば、一人二人なら安全にダンジョン奥地に運べるだろう。そして結界を使えば。
今はまだ言いだすべき時ではないな。その思い付きはもう少し心の中にしまっておこう。
現在のレベル
ホソカワ・エイタ Lv.32
ツルギ・マコト Lv.32
オニガワラ・ボルボ Lv.31
マツダ・ユウジ Lv.31
ホンダ・キイチロウ Lv.31
トヨダ・スケヨシ Lv.31
タカナシ・スバル Lv.31
ヤマナ・イスズ Lv.31
ヒノ・アキコ Lv.31
ヒノ・ハルコ Lv.31
突っ走りました!




