3. 魔法免許
父さんも母さんも、元々この町に住んでいたのではなく、別の地域から引っ越してきたそうだ。父さんは魔法騎士を数多く輩出する、その地域ではかなり名門の家の分家の分家のような家の出身、母さんはその町の神殿出身だそうだ。
出身地が離れている関係なのか、それとも関係ないのか、どちらにしてもこの町の他の人たちとはちょっと違った感覚を持っているようで、特に子供の教育方針では『剣術より魔法』という一風変わった意見の持ち主だ。
父さん本人は剣術メインで魔法はあまり得意ではないのだけれど、もしかしたらそれを後悔しているのだろうか、それとも母さんは神殿で魔法を上級まで鍛えて騎士になった人なので、そのあたりが関係しているのかもしれない。
魔力を鍛えるのは、年を取れば取るほど難しくなり、また効率も下がっていくと言われている。俺の魔力量が多いのは、はるか昔から魔法循環で魔力を鍛え続けていることが大きい。
はっきりしたことはわからないが、本能がそうさせたのか、俺の場合は物心つくころどころか、生まれたばかりの赤ん坊、いやもしかしたらそれより前の母さんのお腹に中にいたころから、それが魔力の鍛錬だと知らないうちから、魔力循環して遊んでいたようだ。
そのおかげなのか、俺は眠っている間でも何の苦労もなく魔力循環できる。ぼけーっとサボっている時にも魔力循環できる。というかしたくなくても自然に魔力循環してしまう。
俺にとってはそれぐらい普段のことなのだが、他の人たちにとっては魔力循環はとても厳しい修行になる。魔力を循環すると激しい痛みを伴うことが多く、大人でも泣き声をあげ、気を失ってしまうことすらあるのだ。
だから小さい時から鍛錬したほうが良いと思われていても、本当に子供の時から鍛錬している人は少ない。痛みに打ち勝って自分から鍛錬する子供はそう多くはないし、親が我が子を強制的に無理やり鍛錬させることも難しい。
俺がキサに行うように外から別の人が魔力を循環させるようにしても、自分で行うときと同じように激しい痛みを引き起こすのが普通なのだ。俺とキサの場合は例外中の例外と言ってよい。
俺は毎日二十四時間休まずにずっと魔力循環しているので、鍛錬の効率が下がってきた今でもグングン魔力量は増えているし、魔力操作の腕も上がっている。妹のキサも俺が外から魔力循環しているから、俺ほどではないにしても、かなり魔力が育っているはずだ。
今では魔力の質だけでなく、流す速度や量もあるていど自在に変えられる。それに体が完全に魔力に順応しているので、かなり集中する必要はあるけれど、他人の魔力の流れもそれなりの精度で読み取ることができるのだ。
実は他人の魔法をしっかり観察すれば、どういう魔力をどのように流しているのかがわかるのだ。まだ実際にちゃんとやってみたことはないけれど、おそらく簡単な魔法なら再現できると思う。
ちゃんとやってみたことはない、というのは、実は母さんが使う魔法を見て、見様見真似で再現してしまったことがあるのだ。もともと魔法重視だった両親はこの事故をかなり重く見ていたらしい。厳しく「ちゃんと学ぶまでは魔力循環しかしないこと」と言い聞かせてきたのだという。
実際の問題として、これは本当に危ないことで、もしも適当に使った魔法が暴走してしまったら大事故になってしまう。「きゃー、うちの子天才!」などと喜んでいる場合ではないのだ。
暴発のような事故だけではない。たとえば町中で火炎魔法をぶっ放すヤツがいたら危険極まりない、というわけで、町の中やその周辺での魔法の使用には領主、この町の場合は神殿発行の魔法免許が必要だったりする。
魔法だけでなく剣などの武器にも制限があって、免許なしだと騎士や魔法騎士でなければ携行不可、というかなり厳しいものだったりするので、刀剣は箱や袋に入れて持ち歩かないといけないのだ。
魔法や剣の免許は基本的に成人でなければ貰えないのだが、それにはいくつか例外がある。もっとも有名なのは魔法騎士学園の生徒になることだ。そしてもう一つ、神殿の修行者になるという方法もある。
魔法免許が無ければ一人では魔法を使うことはできず、魔法が使えなければ魔法を練習できないのだから、魔法免許はぜひとも必要なものだったりする。免許を取得するまでは、師匠につきっきりで教えてもらわないといけないので、裕福な家でなければ魔法練習は厳しいものがあるのだ。
母さんによれば、神殿修行は神殿の人になるのが前提で、回復魔法や浄化魔法、結界魔法など、神聖魔法が初級、中級、上級と、難易度に合わせて三段階で免許されるということだ。
まあ、俺の場合、勝手にそうなった物で学園に合格してしまったわけだ。父さんに指摘されるまでもなく、自分が優秀で将来約束されているなど、とてもそんなことは思えない。すごく努力した結果、不合格だった人に悪い気はするけれど、それはもう俺にはどうしようもないなぁ、とも思うのだった。
父さんが風呂から出てきたので交代で向かうと、「私も一緒に入る~」とキサがおまけでついてきた。そろそろ自分で頭が洗えるようになろうね。




