22. 早朝の走り込み
次の日の朝、約束していた走り込みのため、いつもより早い時間に家を出た。
マコちゃんと一緒に、重りを握りながら軽く走りながら学園に向かう。素振り用の木刀は学園で簡単に借りられるから置いていくことにした。
この早朝練習の準備に、昨日は買い出しの後で自己強化と回復の魔力循環をしながら回復魔法をかけるとか、それに加えてさらに走るとか、そういう練習をみっちり行った。時空魔法枠の練習場貸し切りなので、ちょっと申し訳ない。まあ少しは時空魔法も練習したけれど。
朝の学園は走っている人が多いと聞いていたけれど、まだ時間が早いのか人影はまばらだ。待ち合わせ場所につくと、すでにスバルとイスズは準備を整えて俺たちを待っていた。
「早速行きましょう!」
「その前に、まず準備体操よ?」
気合が入っているイスズを止めて例の準備体操を始めた。それが終わったら、あら、柔軟体操もやるのか。スバルがイスズと組んで柔軟体操を始めたので、俺とマコちゃんもそれにならう。
マコちゃんと手を握り合って引っ張りっこを始める。そういえばマコちゃんと手をつなぐのは久しぶりな気がするな。俺は太っているし手は柔らかい方だと思うけれど、マコちゃんの手の柔らかさは俺とは全然違う。
手を放して次の柔軟、俺が座ってマコちゃんに背中を押してもらう。押すのも難しいのだろう、マコちゃんは押すというよりも跨ってそのまま体重をかけてくる。お互い運動しやすいように薄着なので、マコちゃんの丸くて柔らかい感触が、暖かい体温と一緒に伝わってくるようだ。
俺は体が硬いほうじゃないんだけど、このまま続けていると柔軟どころか逆に硬くなってしまいそうで危なかったので、早々に交代した。今度は俺がマコちゃんの背中を押す番だ。
マコちゃんの背中はやっぱり柔らかい。それに薄着なので、その、いろいろと透けて見えてしまうんだよね。見えてしまっている物の感触がしっかり手に伝わってくる。大丈夫、まだ後ろだけだ。前からじゃない、耐えられる。
それに背中から押していると、汗のせいなのかとてもいい匂いがするんだよね。浄化で飛ばせば耐えられるか? いや俺が汗臭い女だと思ったように勘違いされるのは絶対ダメだ。ここは鋼の心で耐えるのだ。くんかくんか。
背中を押しながら、何の気なしにマコちゃんの魔力を感じ取ってみると、ちょっとびっくりするほど硬い。いやもうカチカチだ。体と反比例するような法則でもあるのかと思うぐらいにカチコチに固まっている。
「マコちゃん、魔力硬い?」
軽い気持ちでそう聞いてみると、マコちゃんはビクッと一瞬だけ震えた後、少し考え込んだ様子だ。
「エーたん、ちょっと相談があるんだ。放課後に時間もらえるかな?」
「うん、いいよ。待ち合わせしようか。」
何の話だろう、たぶんだけど魔力循環のことじゃないかな、と思った。
準備体操が終わるころには、学園内には少しづつ人が増えてきた印象だ。スバルの話では近いところにある屋外の練習場は人が多くなるそうなので、練習場は避けて学園内を走ることになった。
四人が揃って重りを手に取り走り始める。先頭は女子三人が入れ替わりながら走り、俺はイスズの後ろについて彼女を中心に回復魔法を配る係だ。最初はマコトが先頭を走る。昨日の朝よりちょっとだけゆっくりだけれど、かなり早い。容赦ないな。
俺は昨日の自主練習を思い出しながら、自己強化と回復の魔力循環を行いつつ、いつもと同じように丸く、でもいつもとは違う丸いぷりんぷりんを追いかけて走り始めた。
走りながら丸いぷりんぷりんを目掛けて回復魔法をかける。おお、いけた。これならいけるぞ!
ぷりんぷりんっ 回復!
ぷりんぷりんっ 回復!
ぷりんぷりんっ 回復!
だんだん楽しくなってきたぞ。
そうしてしばらく走ったあと、マコちゃんとスバルが先頭を交代した。マコちゃんが先頭から最後尾に移動するのに合わせて回復魔法をかける。よし、うまくいった。また丸いぷりんぷりんの回復に戻ろう。
ぷりんぷりんっ 回復!
ぷりんぷりんっ 回復!
ぷりんぷりんっ 回復!
次はスバルが先頭を外れてイスズが先頭になる順番だ。後ろにまわるスバルとすれ違うところで回復する。そして丸いぷりんぷりんの回復に復帰する。
ぷりんぷりんっ 回復!
ぷりんぷりんっ 回復!
ぷりんぷりんっ 回復!
思っていたよりも上手く回復し続けられそうだ。
先頭を交代しながら走っているうちに、だんだん全力疾走のような様相になってきた。これ昨日マコちゃんと走ったときより速いぞ。
走り終えたときには四人とも汗だくになっていた。特にイスズは汗でびしょ濡れで下着がはっきり透けて見える状態だ。これはまずい、俺は急いで浄化魔法で女の子たちの汗を消し飛ばす。そしてついでに回復だ。そのあとで自分にも忘れずに浄化をかけておく。
「これヤバいよ、ずっと全力疾走だったのに、なんともなかったよ!」
走り終わって開口一番、イスズが驚きの言葉を口にした。
「まったく疲れが残っていないのに、体はしっかり走り込んだのを覚えてる感じがする。ちょっと不思議な感覚だよね。」
そうそれだ。回復だけでなく自己強化もそうだけど、しっかり濃縮して鍛えたことが何となくわかるのだ。
「汗びっしょりだったのに乾いてるし。」
「ああ、それは俺が浄化をかけた。」
「ああ、そうなんだ、ありがとう。気が付かなかったよ。」
下手したら下着の下まで透けて見えそうな透けっぷりだったからねぇ。
「エイタの走ってるのを後ろから見てたら、イスズのお尻に穴が空きそうな勢いで凝視してたよね~。」
そ、そんなこと、はないよ、ないと思うよ、スバル!
「うん、すごく集中してるのが良くわかった。」
さすがマコちゃん、良くわかっている!
「だよね、ブラが透け透けになってるのに、まったく視線がそっちに行かなかったもの。」
「ええ~~、そんなに透けてた!?」
「透け透けの丸見え。」
「もう、えっちなんだから!」
なんで俺をポカポカ叩くの? 俺のせいじゃないってば!
この後は、イスズたちは水浴びをしたあとに魔力循環の練習をするということだったので、俺たちは走って家に戻って素振りをすることにした。いちいち木刀を借りるよりはその方が手っ取り早い。
魔力循環の話が出たからか、彼女たちと別れてから家に戻るまで、マコちゃんは黙り込んでしまっていた。
「大丈夫、俺は魔力循環だけは得意なんだ。」
木刀を取りに行くついでに、そう言って頭を撫でる。
「ありがとう、エーたん。放課後はお願いね。」
少し元気が出たのなら良いのだけれど。




