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20. 時空魔法の授業

 午後の選択授業は時空術だ。


 最初は妖術に出ようと思っていたのだけれど、明日スバルとイスズが妖術に出るというので、順番を入れ替えたのだ。進捗もあるからずっと同じ日に出られるとは限らないけれど、最初は知り合いがいる方がお互い心強い。


 時空術は魔法の中では難しい部類らしい。攻撃したり守ったりといった直接の戦闘に使えるようになるにはかなりの熟練が必要で、そこまでたどり着ける人はかなり少ないらしい。


 指定された野外の魔法練習場に行ってみると、そこにはまだ誰もいなかった。基礎体術のときのような広い練習場に俺一人。隅っこのほうにポツンと座って、他の人が来るのを待つ。


 まだ鐘が鳴っていないとはいえ、しばらく待っていても誰も来ない。これは練習場を間違えたかも知れない、と思ってかなり不安になっていた矢先、鐘の音とともに先生が空から降ってきた!


 いま間違いなく空飛んできたよね!


 絵本の魔法使いが被っているような赤い三角帽子をかぶった若い女性だ。ローブも赤い。背はイスズよりも低いかな? 背が低いせいか、それとも童顔だからなのか、若いというより幼い印象を受ける。ただ胸の豊かさはローブ姿でもすぐにわかるほどの迫力だ。なおホウキにはまたがっていない。


「時空術を教えるトキワ・アヤノです。あなたがホソカワ・エイタね? リョウコから聞いているわ。」


 リョウコ? ああ、神聖魔法の時の先生か。


「ホソカワ・エイタです。よろしくお願いします。あの、他に生徒はいないんですか?」

「ああ、明日なら他にもいるみたいだけど、今日はあなただけね。」

「明日にしたほうが良かったですかね。」


 俺一人のためにアヤノ先生の時間をとるのはちょっと心苦しい。


「ああ、どうせ誰も初級から上がれないだろうから、問題ないわよ? あなたには中級以上に上がってもらうから、今日の方が都合がいいわ。」


 時空魔法の初級合格者はいま学園には一人もいないらしい。あと、上がってもらうって、まだ始まってもいないのに!


「時空魔法には発動して終わりのものと、使っている間はずっと魔力を流す必要があるものとの、二種類があります。瞬間移動するのが前者、空を飛ぶのが後者ね。」


 アヤノ先生の説明によると、後者の魔法は魔力を継続的に使うことになるので、長時間つかいつづけないように気をつける必要があるらしい。


「それでは私が順番に魔法を使うので、しっかり良く見て、真似してついてきてね。」

「わかりました!」

「まずは、短距離の瞬間移動。場所を思い浮かべてから呪文を使います。」


 なむなむなむ~


 アヤノ先生が呪文を唱えると、目の前から一瞬で消えて、少し離れたところに現れた。手招きしているので急いで駆け寄ると、なぜかポカポカ叩かれた。


「真似してついてきてって言ったでしょ? 走ってきてどうするのよ。」

「ああ、そういう意味でしたか、ごめんなさい。」


 俺はアヤノ先生の説明通りにさっきまでいた場所を思い浮かべながら、見て覚えたように魔力を流す。


 だいぶ慣れてきたとはいえ、自己強化と回復の魔力循環をしながら、新しいことをするのはまだ難しそうだ。時空魔法を使うときは止めたほうが良いな。


 シュピッ!


 おお、先生が遠くに見えるぞ、成功か? 元の位置よりちょっと遠いか?


 先生のいる手前辺りを思い浮かべて……、


 シュピッ!


 今度はしっかりアヤノ先生の前に戻って来られた。目標の物があったほうがやりやすいな。


「次は長距離の瞬間移動。呪文は二つに分かれていて、場所を思い浮かべながら最初の呪文を唱えて、場所の移動を思い浮かべながら次の呪文を唱えます。」


 なむなむなむ~ なむなむなむ~

 シュパッ!


 よしやってみよう。先生の手前を思い浮かべて、それから移動……、


 シュパッ!


 今度もうまくアヤノ先生の目の前だ。


「長距離の移動では、他の人と一緒に移動することもできますし、他の人だけとか、物だけを移動することもできます。手を触れる必要があるので注意してね。それじゃあ物でやってみましょうか。」


 アヤノ先生は胸元からハンカチを取り出し、呪文を唱え始める。

 

 なむなむなむ~ なむなむなむ~

 シュパッ!


 おお、ハンカチが消えたと思ったら、離れたところに現れた!


「ハンカチの所まで行って、魔法で先生の方に飛ばしてみて。」


 言われたとおりにハンカチまで走り、先生の場所を思い浮かべて……、


 シュパッ!


 よし、先生の前にハンカチが落ちているぞ。俺はアヤノ先生の前に走って、ではなく、瞬間移動で戻ってみた。


 シュピッ!


「うん、移動はこれでできたわね。次は超加速、後者の方の魔法です。周囲の時間だけがゆっくり流れるようなイメージで。」


 なむなむなむ~


 アヤノ先生は超高速で俺の周りを走り出した。でもその走り方を見ると力が入っているようには見えず、なんだかすごく変な感じがする。


 アヤノ先生は俺の前まで戻ってきたが、ちょっと疲れたようだ。回復魔法をかけておこう。


「ありがとう、じゃあ、やってみて。」


 見たとおりに加速の魔力を循環して走ってみる。


 ぽよん、ぽよん、ぽよん、


 ああ、なんだこれ、ゆっくり走るだけで風景がめちゃくちゃ速く流れるぞ。ゆっくりだから体には全然負担が無い。とても変な感じだ。


「最後は飛行魔法。見たまま、空を飛ぶ自分を想像してね。」


 なむなむなむ~


 おお、先生が空に浮かび上がった! 飛んでる!


 飛ぶところまでは良かったんだけど、降りてくる速度が速すぎて、アヤノ先生のスカートがめくれてしまった。くまさん!?


「見たわね?」

「いえ、何も見ていませんよ?」


 腰に手を当てて、下から見上げるように睨みつけてきたけど、余所(よそ)を向いてなんとかごまかした。ごまかせた、と思う、多分。


「じゃあ、飛んでみて。今は高く飛ばないように。」


 よし、魔力を合わせて、循環して……、


 おお、体が浮いたぞ? 高くはダメだというので横方向に移動してみよう。よしいける。逆方向に飛んで戻って、着地のためにアヤノ先生の前で魔力循環を止めた。


 ドシンッ!


「痛っ!」


 降りた、というより、落ちた?


 その衝撃でひっくり返って尻もちをついてしまった。


「魔力循環を突然止めると落下します。しっかり着地してから止めるようにね。」


 そりゃそうか。


「先生、これで終わりでしょうか?」

「時空魔法は他にもまだまだありますが、私は使えませんので授業では行いません。」

「え?」

「私は使えません。」

「……はい。」


 時空魔法は呪文が長く、一つ一つが特殊なうえに消費魔力が非常に大きいので、新しい魔法を覚えるのはとても大変で、練習するのも一苦労なのだそうだ。


「それじゃあ、反復練習してみようか!」


 アヤノ先生は胸元から色違いの三角形の旗を数本取り出した。


「練習場にこの旗を六角形に立ててきてね。」


 俺は言われた通り、瞬間移動を駆使して六本の旗を立てる。戻ってくると先ほどのハンカチを渡された。


「ハンカチを隣の旗に瞬間移動、その場所に短距離で飛んで拾う、つぎの旗にハンカチ、長距離で飛んで拾う、この繰り返しね。はい、いってらっしゃい。」

「わかりました!」


 まずはハンカチを飛ばす、シュパッ!

 短距離で飛ぶ、シュピッ!

 ハンカチを飛ばす、シュパッ!

 長距離で飛ぶ、シュパッ!

 

 シュパッ!

 シュピッ!

 シュパッ!

 シュパッ!


 慣れるにしたがって、ハンカチ背の高さぐらいに飛ばして、落ちてくる前に瞬間移動して拾うことができるようになってくる。


 シュパッ! シュピッ! シュパッ! シュパッ!

 シュパッ! シュピッ! シュパッ! シュパッ!


「はい、それまで。戻ってきて。」


 俺は瞬間移動でアヤノ先生の前まで戻る。


「次は超加速です。超加速して次の旗まで走る。また超加速して次の旗まで走る、この繰り返しね。はい、いってらっしゃい。」

「わかりました!」


 ぽわん、ぽわん、ぽわん、ぽわん、

 

 魔力循環するだけだから簡単だ。折角だから自己強化と回復も同時にやってみよう。お、いけるぞ。


 ぽわん、ぽわん、ぽわん、ぽわん、

 ぽわん、ぽわん、ぽわん、ぽわん、


「はい、それまで。戻ってきて。」


 俺は超加速してアヤノ先生の前までぽわんぽわん走って戻る。


「最後は飛行です。旗まで飛んで降りる、次の旗まで飛んで降りる、この繰り返しね。高く飛ぶのは禁止。はい、いってらっしゃい。」

「わかりました!」


 これも自己強化と回復を同時でいけそうだ。


 ひゅーん、ひゅーん、 ひゅーん、ひゅーん、

 ひゅーん、ひゅーん、 ひゅーん、ひゅーん、


「はい、それまで。戻ってきて。」


 みっちり練習したので、かなり使えるようになった気がする、

 

「終わる前に一つ。呪文を覚えなさい。」

「ええ? なんでですか!?」

「人と戦うことがあるからです。呪文なしで魔法が使えることは切り札になるので、あまり知られていないほうが有利でしょ?」

「もう回復魔法でいっぱい使っちゃってますけど。」

「回復魔法だけと思わせればいいでしょ。」


 そういう手もあるのか。


「呪文を発動させろなんて言わないわ。呪文を覚えて、人前で使うときは必ず凍えで唱えること。他の魔法も同じようにしなさい。今からでもいいから、できれば回復魔法の呪文も覚えなさい。」


 そう言うとアヤノ先生は胸元からニ枚の紙と、細い鎖のついた青い石を取り出して、俺に手渡してきた。


「この紙には呪文が書いてあるわ。こっちの紙は練習場の貸し切りの免許状ね。こっちの青い石は飛行魔法を途中で打ち切ったときに、ゆっくり下まで降ろしてくれる魔法の道具ね。あなたにあげるわ。」

「いいんですか? 高価な物に見えますけど?」

「私が作って購買に並べているんだけど、飛行魔法が使える人が出てこないから需要が無いのよね。いいから持っていなさい。これをつけている時は高く飛ぶことを許可します。」


 俺は渡された青い石を眺めた。涙滴型というんだろうか、丸いけれど先がちょっと尖ったような形をしている。その中央に、おそらくこれが魔法陣なのだろう、何かの模様が描かれている。


「それでは、ホソカワ・エイタ、中級合格おめでとう。次回からは上級です。呪文を覚えた段階で上級合格としますので、頑張ってくださいね。」


 先生はそう告げると俺の頭を撫で……ようとして手が届かなかったのか、飛行魔法で飛んで、なぜか撫でるんじゃなくて、ポカポカ叩いてきた。


「今日の授業はここまでです。お疲れさまでした。」

「ありがとうございました。」


「ああ、言い忘れていたけれど、上級になるまでは学園内でも一部を除いて情報を秘匿しますので、あなたもそのつもりでいてくださいね。」


 条件付きとは言え上級合格だ。でも仲間にも内緒にしないといけないのか。


 これは早く呪文を覚えないといけないな。



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