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18. 魔力循環の可能性

 治療の続きや、学園に事故の報告をするという先輩たちと別れ、俺は空いている練習場にやってきた。


 先輩たちの話をいろいろ思い出しながら考えると、お姉さんのやけどが酷かったのは、『消えない炎』だったからだ。『消えない炎』と『破裂する土』がぶつかって、『消えない炎』が爆散してしまった。これが『爆発する炎』や『貫通する土』だったら、こんな大きな事故にはなっていなかっただろう。


 俺は呪術のことはまだ全然わかっていないけれど、魔法の炎も土も、ただ飛んで行ってぶつかるだけでなく、ぶつかった時に色々な効果が出るのだそうだ。言われてみれば、的にあたって飛び散る炎もあれば、そのまま燃え続ける炎もあったような気がする。魔力の形が似ていたので全部同じ魔法かと思っていたけど、どういう違いがあったわけだ。


 覚えていた炎の魔法をいくつか使ってみる。どうやら『消えない炎』も『爆発する炎』も無事に覚えていたようだ。おそらくだけど『消えない炎』にも一ヶ所で燃え続けるとか、少し燃え広がるとかの違いがあるだろうし、『爆発する炎』にも範囲や威力の違いなどがあるのだろう。


 土の貫通と破裂も覚えていたようだ。それらの違いが呪文の違いなのか、心に思い浮かべるイメージの違いなのかは知らないが、呪術は呪術でいろいろ奥が深い。いろいろな魔法を見るだけで覚えられるのは、他には誰も持っていない、ものすごい強みだけれど、それで全てが解決するわけではないのだろう。



 呪術の確認は早々に切り上げ、家に帰るといつものように妹のキサに突撃された。


「お兄ちゃん、遅い!」


 そんなことを言ってプリプリ怒っているが、今日から学園だったんだから許して欲しいな。


 キサに魔力循環しながら、午前中の授業でやった弱い魔力とやらを思い出した。ちょっと試してみるか。


 すっと魔力量を下げるとすぐに気が付いたらしく、「もうお兄ちゃん、サボっちゃダメ!」などと言っている。


「ああ、やっぱりわかる? いつものと違ってどんな感じがする?」

「なんか水で薄めた感じ~? あんまり気持ち良くない!」


 ご不満なご様子なので、いつもよりちょっと強めで、回復魔法っぽい魔力も多めにしてサービスしてやる。もう少し強めでもいいというのでさらにつよくしてやると、気持ちよさそうな(とろ)けるような顔になった。


「ふわ~、極楽、極楽。」


 お前どこの婆さんだよ。


「そのぐらいにして、みんなそろそろ夕飯よ。」


 食卓に移動しようとしても、キサが抱きついたまま離れない。そのまま食卓まで運んでから、そこで引っぺがした。


「あにじゃ~、せっしょうでござる~。」


 お前どこのサムライだよ。


「ほら今日はハンバーグだよ、とってもおいしそうだよ?」


 ぐずぐず言っているキサをなだめて俺も食卓に着いた。


 

「それで、学園初日はどうだった?」

「いろいろあって濃い一日だったよ。良い仲間と出会えてグループを組んだりね。」


  父さんに促されて、ダンジョンのためのグループを組んだこと、自己強化魔法と初級神聖魔法の免許を貰ったこと、いきなり怪我人が出て救急治療を行ったことなどを語っていく。


「いきなり初級免許か。まあ、そうなるか。」


 キサは「もう免許?お兄ちゃんって天才?」なんて騒いでいるが、父さんには初日に免許を取ってくることがある程度予想できていたらしい。まあ、小さい時に事故でやらかしたことがあるからね。


「あと、魔力循環を弱くするのを教わった。あとで父さんに試させてもらってもいい?」

「ああ、構わないけれど、お手柔らかに頼むぞ。」


 キサを首にぶら下げながら、食事の後片付けを手伝う。母さんに事故対応の反省点なんかを聞こうと思っていたんだけど、出てきた言葉はなぜか全く別のものだった。


「回復魔法はなぜ痛くないんだろう。」

「ん?どういうこと?」


 あまりに突然の話だったので、母さんには意味が通じていないらしい。


「魔力を流すと痛いのに、回復魔法だと痛くない。回復魔法も魔力を流すのは同じなのに、なぜ痛くないのかってこと。」


 母さんは少し考えてから答えてくれた。


「お母さんは考えたことはないわね。そういうものだと思っていただけ。」


 ふむ、やっぱり変な質問だったか。


「ただ、そこに何かを感じたなら、大切なことがあるのかも知れない。時間はたっぷりあるんだから、いろいろ試してみてもいいかも知れないわね。」

「ありがとう、もう少し色々考えてみるよ。」

「どういたしまして。」


 よし、いろいろ試してみるか、父さんで!


「お父さんをあんまりいじめないでね?」


 釘を刺されてしまったか。



 風呂から上がったあと、父さんへの魔力循環を試させてもらおうとしたのだけれど、キサがバスタオルを体に巻いただけの姿で首にぶらさがって邪魔してくる。寝巻に着替えてくるように言ってもなかなか言うことを聞かない。ついには母さんに強制的に連行されてしまった。


 そんな二人を見送りながら、父さんの背中に手を当てる。魔力を父さんのものに合わせて、そこに回復魔法のような魔力をのせて、そして魔力は弱くゆっくり。丁寧に制御して流すように循環させる。


「どう? 大丈夫そう?」

「最初にちょっとピリッとしたけど、あとは大丈夫だ。」


 動かしはじめはどうしても勢いがついて速くなりがちなんだよね。


 大丈夫そうなので、徐々に魔力を強く、そして速くしていく。魔力を速くした分だけ変質しているので、それを回復魔法っぽい魔力と入れ替えるようにする。


「うぐっ?」


 おっと、強すぎたか。少し弱めて、そのまま循環を続ける。


「このぐらいかな?」

「ああ、ときどきピリっとするけど大丈夫だ。ポカポカして気持ちが良いというのがわかるな。」


 どうやら上手くいったか。これなら問題ないので、しばらく練習台にさせてくれるそうだ。


「お母さんもいいかしら?」


 なんと、母さんも参戦してきたぞ?


 母さんは父さんよりもだいぶ強めの魔力で問題なかった。もともと俺の魔力は母さん寄りのようで調整も楽だ。そのまま魔力循環を続けていると、母さんも同時に自分で魔力循環を始めた。


「え? 何?」

「同時にやれば負荷が二倍になって、魔力が二倍育つかと思って。」


 なんという! その考えはなかったよ。


「一緒にやってみてわかったけれど、一人でやるよりもかなり楽だわ。」

「そんな効果もあるんだね。」


 自分一人だとできないから、気づきもしなかった。


「この魔力はお母さんに合わせて調整しているのよね? 自分でも同じように調整できれば一人で循環させるときも楽できそう。」


 一緒に循環していると、俺の魔力と自分の魔力の違いが良くわかるそうだ。そしてすぐそばにお手本があるので、それに合わせて自分の魔力を調整できそうなのだとか。


 いやすでにかなり調整されている。母さんが自分で循環している魔力は、俺が循環する魔力にかなり近くなってきていることが俺にはわかる。


 自分の魔力を自在に変えることが呪文なしでの魔法につながる。母さんがやっていることは、その一歩目を踏み出したというのと同じことだ。


 魔力循環を使えば、呪文なしでの魔法を教えることが出来るかもしれない。神聖魔法はすぐには無理としても、自己強化魔法ならどうだろう?


 いけるんじゃないのか?



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