16. 放課後の風景
放課後は自己強化を使っての素振りや走り込みを行う予定にしていたのだけれど、気が変わって魔法練習場を見て回ることにした。授業で行う初級魔法だけでなく上級生の上位の魔法が見学できれば、いろいろ面白いんじゃないかと思ったのだ。
おっとその前に、忘れないようにしないとね。
購買での割符の換金だ。別にすぐにお金が必要ということはないけれど、ダンジョンの売り上げがどのくらいになるのかも知っておきたい。ということで購買に向かう。
購買は学生食堂の横手に建てられた学舎よりも小さめの建物の中にある。購買に行くついでに食堂を覗いてみると、けっこうな人数が食事をしているのが見えた。軽く食べながらグループで打ち合わせをしているのかな。俺たちも多分こうやって放課後に集まることになっていくんだろう。
購買に到着し窓口で割符の換金してみると思ったよりも金額は大きかった。ダンジョンだけで何とか生活していけるぐらいはある。五人で頭割りすることになるけれど、ダンジョンに行く日数が増えるし午前中もいけるので、毎週同じくらいの収入が期待できるんじゃないだろうか。今後も何かと入用になると思うので、お小遣いが増えるのは正直ありがたいな。
この先のことを思いながら購買を出ようと思ったところ、ふと折り畳みの短剣が売られているのが目に入った。治療の練習で手を刺すのに便利かもしれないと思って購入しておく。ちょうど懐が温かくなったことでもあるしね。ついでだから、他の武器や防具などの値段も確認しておこうかな。
剣や槍が並んでいる所に移動して、いろいろ実物と値札を見比べてみる。結構安い物から高い物まで、価格は千差万別のようだ。安いとは言っても俺の小遣いでは簡単に買えないような値段がついている。これはしばらく学園から借りることになりそうだ。
弓のところには矢も並んでいた。そうか、弓の場合は矢が消耗品になるんだ。その消耗品の値段だが、思っていたよりも高い。これは練習するだけでお小遣いが消し飛んでしまうぞ。弓には手を出さないようにしよう。
防具のところも見ておこう。男子用はやっぱり使用中の物と同じ型のものが並んでいる。おお、男子用のビキニアーマーがあるぞ。男子用だとブーメランな海パン風になるのか。これだけで町を歩くのは俺には無理だ。
女子用は、なんだこれは、男子用の場所の数倍くらいの広さに、ところ狭しと色とりどりのビキニアーマーが並んでいた。防具の面積だけじゃなくて、それぞれいろいろデザインが異なっているみたいだ。値段も男子用より高めだ。
昨日は麻袋やちょうちんを家から持ち出したけれど、ああいったものも買う必要があるな。荷物を入れる大きめの背負い袋とか。購買の冷やかしを楽しんだ後、買ったばかりの短剣をポケットに入れ、俺は機嫌よく攻撃魔法の練習場のある場所へと向かったのだった。
魔法練習場といっても用途によっていろいろ違いがあるようで、学園の地図には攻撃魔法練習場は他の魔法練習場とはっきりと分けて書かれてある。
武技の練習場もそうだけど、魔法練習場の建物は一つや二つではない。多くの同じような形をした建物が並んでいるのだ。
攻撃魔法の練習場の建物は神聖魔法の時と似たような造りだったが、それよりもかなり背が高いようだ。窓がないことを除けば、普通の校舎の方が近い。建物と建物の間も少し広く空けてあるのは、事故や火事の対策なのだろうか。またなぜか大きな土手で区画が仕切られている。洪水対策か何かかな?
建物の中は区切られておらず、建物一つで練習場一つになっている。どおりでたくさんの建物があるはずだ。練習場の建物には窓がないので、外から中は覗けない。とりあえずどれかに入ってみよう。
建物の入り口に札がかかっているのを確認する。練習場に入る時は自分の名札を入口にかけ、出る時には外して持って帰ることになっている。入口の札を見れば、その練習場が使用中なのか空いているのかが、一目でわかるようになっているのだ。
適当に入った魔法練習場では、おそらく上級生だろう、ローブ姿の学生が横並びになって、少し離れた場所にある的に向かって火の玉の魔法を撃っているようだった。魔法はかなりの威力のようで、的を壊した後、その後ろの壁にぶつかって「ボッ!」という大きな音を立てている。なかなかの迫力だな。
何かの魔法が仕込まれているのだろうか、壊れた的は回収されて、しばらくしたら新しい的が出てくるみたいだ。それと壁にはおそらく結界魔法がかけてあるのだろう、魔法が当たっても何ともないように見える。結界を越えるようなことはないのかな? ああ、もしかしたらそれで区画が土手で区切られているのかもしれない。
しばらく眺めていたけど、みんなずっと火の玉魔法だね。魔力の形はそれぞれ微妙に違うけど、基本的には同じもののようだ。見るべきものは見たので、次の練習場を見てみよう。練習場を出る時に笑って手を振ってくれたので、こちらも手を振って返したんだけど、何かそういう挨拶みたいなものがあるんだろうか。
次に入った練習場では、先ほどの火の玉魔法以外に、土の塊を撃ち出す魔法を使っている女の人がいた。土の塊は火の玉よりも速くて、的を壊すというよりも打ち抜いているようだ。打ち抜くたびに「バシュッ!」という鋭い音を立てている。
そのあとも数棟の練習場を覗いてみたが、どこも練習で行われているのは火の玉か土の塊の魔法ばかりだった。他の魔法は別の場所でやっているのか、それともこの二つが便利で人気があるのか、どっちだろう。
軽く練習場を見て回るだけでいろいろな魔法を覚えられるのではないかと思っていたのだけれど、それはさすがに甘かったか。まあ攻撃の魔法を二つ見ることができたし、もう一棟だけ覗いて終わることにしようかな。空いているところにいって自分で試してみたいしね。
次の練習場に入ってみる。何の気なしに選んだ練習場だったけど、今までとは様相が全く違っていた。