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15. 豚魔法の神髄をめざして

 野獣の群れから一時的に離れて、初級組の方に逃げ出した。アキコ&ハルコの双子が俺についてくる。まるで獲物を狙うの狼のようだ。


 初級組は各自で呪文を覚える訓練中だ。呪文の紙を裏返して、別の紙に書いたり、口に出したり、いろいろ工夫して覚えようとしているようだ。俺はまだまったく覚えていないので、何か悪いことをしているような気がしてくる。


 ミキ、エリカ、シノブの三人がこちらに気づいて声をかけてきた。


「あんなに自分で手をグサグサ刺して、大丈夫なの?」

「あれ、やらなきゃいけないんだよね。回復魔法覚える勇気が無くなって来たよ。」

「怖がられて引かれるかと思ってたんで、声かけてくれてうれしい。ありがとう!」

「確かにちょっと怖かったけど、そんなことでお礼言われることの方が引くよ~。」


 治ったから大丈夫だけど、正直言ってめちゃくちゃ痛かった。自分でやるのは勇気がいるかもしれないけど、初級組にも男子は何人かいるから、自分たちでやる必要はないと思う。


「初めてで魔法使えるとか、すごいの見ちゃって、ちょっと自信なくなってきたよ。」

「確かにエイタはかなりヘンテコな部類だと思うけど、三人だって国中の同い年の中の上位二十人のうちの一人なんだから、自信もっていいと思う。」


 アキコ、良いことを言った!


「それに私たちも二人で励まし合ってやって来たからそう思うんだけど、三人で同じ道を行くのは実は正解なんじゃないかと思ってる。」

「大正解?」


 野獣化してない女子と会話したことで、気分転換できたぜ。


「それじゃ休憩も出来たし、グサグサ刺されに戻るよ。三人も頑張って。」

「あれ? 刺されまくるのに気づいてたの?」

「大正解!」


 そりゃ気づくって。


 それにしても、なんでそんな殺人者みたいなイカレた目つきで睨んでくるのよ。



 中級魔法に進級したからといって、初級魔法を完全につかいこなせているというわけではない。もちろん初級魔法はしっかり発動できるのだが、習得したての場合は魔法の効果が安定しなことも多いのだ。


 どんな傷でも一発か二発ぐらいで治してしまうというのは、中級か上級の回復魔法の話で、初級の場合は何発も使って少しづつでも確実に治していくのが正しい方法だ。なので効果が安定しないままでも大きな問題があるわけではない。


 とはいえ、小さな傷ならいいが、大怪我ともなると治すのに時間はかかるし、実際に治しきれないことの方が多い。それに見た目では治っていても、体の中には傷が残ることも多くなり、それがのちほど重症を引き起こす危険性もある。


「えっと、良くわからないけど、俺が針を刺して怪我をして、それをみんなに治してもらって、感想を言えば良いかな?」


 うなづく中級進級者たち。んじゃ順番に行ってみますか。


 さっきはアキコだったから、次はハルコで。


 ぐさっ! なむなむなむ~


 怪我が瞬時に治っていく。しっかり回復魔法は発動しているようだ。


「どう?」

「ほぼ治ってる。細かいことを言うと、傷があったところにスジみたいな感じで、ちょこちょこ治ってないところが残ってる感じ。」


 なむなむなむ~ ハルコがもう一度、回復魔法を唱える。


「ちょっと命中してない感じかな、変化なし。」


 なむなむなむ~ 


「残ってるところに届いてる感じはする。でも治ってない。」


 なむなむなむ~ なむなむなむ~ 


 何度か繰り返すうちに、魔法が命中するようになり、最終的に完治できた。


「どう? 少しは参考になる?」

「ん~、わからない。」


 そうか~、わからないか。


「私もやらせてもらってよい? あ、私はオオマエ・ユミコ。双子と同じ神殿の修行者ね。」

「了解、どうぞ。」


 ぐさっ!

 なむなむなむ~


「あ、これ、違う!」


 違うのは命中とか、質とかじゃない。単純に量だ。


「ハルコの魔法が怪我に完全にピッタリ合わせている感じだとすると、ユミコの魔法はもっと大雑把で、量で圧倒する感じ、かな。」


 俺の説明でユミコは何かを感じ取ったようだけれど、ハルコには伝わっていないようだ。


「怪我が地面に掘られた穴で、回復魔法でそれを埋めるんだとすると、ハルコのは、穴と完全に同じ形の土を用意して埋める感じ。穴と土は完全に一致しないから、ところどころ隙間ができる。」


 ユミコの方を見て、続ける。


「ユミコのは、ハルコと比べて多めの土を用意して埋める感じ。一致しない分は押さえつけて無理やり埋めていくみたいな。」


 ユミコは少し考えてから思ったことを口にした。


「私が心の中で思っていることで似たようなものを挙げると、傷を癒す魔法が広がってしみ込んでいく感じかな?」


 ああ、そのほうが俺の感じにも近いかもしれない。


「そのイメージだけ抜いてって、できる?」

「他の部分にも影響するかもだけど、やってみましょ。」


 ぐさっ! なむなむなむ~


「うん、ハルコのよりも治ってないところが多く残ってる感じ。そのイメージがある分、隙間が埋まって完治できるのかも。」


 集中して何度かイメージを固めた後、ハルコが再挑戦する。

 

 ぐさっ! なむなむなむ~


「うん、ほぼ完治! 奥の奥の奥の方にちょっとだけ残ってる感じ。」


 もう一度だ。


 ぐさっ! なむなむなむ~


「よし、完治! さっきのちょっと残ってたのも一緒に治ってるよ、やったね!」


 他の人も順番に挑戦していく。そして良い結果を産む良いイメージをお互いで共有することで、進級者の全員が手の傷ならば一発で完治できるようになったのだ。


「これが豚魔法の神髄。」


 違います。いや、お願いだから違うと言って!?


 その後も、回復魔法だけでなく、浄化魔法や結界魔法のイメージの共有など、活発な意見交換が行われた。お互いが敵対する相手ではなく、競い合う仲間になっていく助けになったのであれば、手を刺しまくった甲斐があるというものだ。


 めちゃくちゃ痛かったけど。


 次回は中級神聖魔法、神殿での実習になるそうだ。



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