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13. はじめての神聖魔法

 午後からはみんなにも話した通り、神聖魔法の選択授業に出席だ。


 魔法練習場の建物は、教室のある校舎から少し離れた場所にある。指定された魔法練習場に向かっていると、なぜかアキコ&ハルコの双子も一緒のところに移動している模様。


「あれ? 二人は初級免許持ちでしょ? 中級からだと思ってたんだけど。」

「ああ、最初は必ず初級の授業に出て、合格しないといけないらしくって。面倒な話だよね。」

「お役所仕事?」


 最初の授業でいきなり初級と中級に合格して、次からは上級ということはあるらしいが、最初の初級は絶対に外せないんだとか。まあ学園側にもいろんな都合があるんだろう。


 魔法練習場は教室のある校舎を一階建てにしたような印象で、窓がひとつもない建物だった。同じような建物がいくつも並んでいる。一つの建物の中に複数の練習場があるみたいで、その中から指定された番号の魔法練習場を探す。


「えっと、への四番、への四番、ここだね。」


 魔法練習場に入ると、窓がないのは別にして、部屋の中は普通の教室のような造りだった。対面になるように机が並んでいるところが違うぐらいだ。天井からは灯りがぶら下がっていて部屋を照らしているので、中はそれほど暗くはない。


 魔法の授業なのでローブを着る。俺のローブはもちろん清純の白だ。周囲を見ると半分ほどが俺と同じように白いローブを着ている。双子も揃って白いローブだ。清純派が多いな、理由を聞いてみるか。


「なんか白を着る決まりごとでもあるの?」

「えっとね、中級になると神殿での研修があるんだけど、神殿では白いローブを着ないといけないんだよね。だから神殿関係者とか、それを知ってる人は白ローブを選んでいるんだと思う。」

「無駄なしきたり?」


 俺は適当に選んだ、いや、母さんに「赤はあかん、白にしろ」と言われたような気もするぞ。


「ええ~、知らなかった、買い直しになるの?」

「このオレンジ色の色合い、気に入ってたのになぁ。」

「どうしよう、お小遣いピンチだよ。」


 カラフルなローブを着た、どこかで見たことある女子が三人、あれ、そうだ、同じ甲組の子たちじゃないか。彼女たちは同じグループみんなで初級神聖魔法を選択しているのか。


 アキコが「神殿で借りられるから。買いなおさなくても大丈夫。」なんて言ってなぐさめている。


 同じグループで同じ授業を選択すると状況対応力で不利ということはわかっているけれど、同じ授業を選択することでお互い並んで切磋琢磨できる、それを優先したそうだ。うん、そういう考え方もあるよね。何が正解になるのかはわからないし、自分の考えを持つというのは立派だと思う。


 そういえば、クラスみんなで自己紹介というのはやってないな、と思い名前を名乗ると、彼女たちは「目立ってるから知ってるよ」と笑って、ミキ、エリカ、シノブと名前を教えてくれた。こうして同じクラスの女子に囲まれて授業を受けるのは、かなり楽しいかもしれない。いや、とても楽しい。


 ふと誰かの視線を感じてそちらを見ると、青いローブを着た目つきの悪い男子生徒がこちらを睨んでいる。どこかで見たことあったっけ? あったような無かったような。


「ああ、彼? 同じ甲組だよ。名前はたしか、ガイコツ? だっけ?」


 ガイコツってどんな名前やねん。ボルボよりもインパクトあるぞ。


「違うって、彼はたしかズイコツだよ。」

「ああ、そうだ、たしかミウラ・ズイコツ。」


 ズイコツもすごい名前だが、ガイコツよりははるかに普通の名前っぽい。


「剣術すごいから俺と組んだ方が得だとか、上から目線がすごい感じだったよね。」

「胸ばっかりガン見してくるしね。」

「あれはもう透視する勢いだよね。」


 俺も胸は凝視してしまう派なんですが。男子はほとんどそうだと思います!


「デブタは視線エロいし顔面崩壊してるけど、それなりに紳士だから問題ないよ。」


 アキコさん、顔面崩壊は酷いです、たしかに崩壊してるけど。してるけど!


「へえ、エロいんだ、エイタというよりエロタ?」


 ミキさん、エロタ言われるのは初めてです。たしかにエロいけど。エロいけど!


 こちらを睨む視線がなんだか殺気を帯びてきたような気がする。


 一緒にきゃっきゃうふふしたいなら、こっちに来ればいいのに。


 他にも集まってきた一回生たちとお互い自己紹介する。この授業、圧倒的に女子が多いな。



 そうこうしていると、白いローブを着た若い女性がやってきた。


「初級神聖魔法の担当のミタ・リョウコです。よろしくね。」


 簡単なあいさつがおわると、なにやら呪文が書かれた紙を配り始めた。


「それじゃ、最初の呪文からいくから、紙に書かれた呪文を読みながら見ててね!」


 紙を配り終え、さっそく初級魔法を全部見せてくれるらしい。


「そうね、そこの大きいキミ、名前は?」

「ホソカワ・エイタです。」

「じゃ、エイタくん、こっちに来てくれるかな?」


 なんか呼ばれたぞ。素直にリョウコ先生の所に行く。


「神聖魔法は女の子が多いのよね。こうして男の子がいてくれると助かるわ。」

「何か力仕事みたいなのがあるんですか?」


 リョウコ先生は静かに首を左右に振った。特に力仕事とかではないそうだ。


「例えばだけど、女の子が傷つきそうなら、男の子は体を張って助けるのがカッコイイと思わない?」

「まあ、そう思いますけど。」


 いったい何の話なのだろうか。もしかして先生の恋人候補の面接とか? 違うと思うけど。


「うん合格! エイタくん良くわかっているじゃない、お姉さん嬉しいわ。」


 リョウコ先生は俺の手を取って、優しく包み込むように握った。やっぱり恋人候補ですか? ちょっと待ってください、俺、まだ心の準備が……


「ちょっとだけ我慢しててね、はい、痛くない~、痛くない~。」


 ぐさっ!


「痛っ!!」


 一体どこから取り出したのか。リョウコ先生は目打ちというか、千枚通しというか、デカい針みたいなものを、突然俺の手に突き刺した。


 あ、これって、もしかしなくても、回復魔法の練習台?


「はい、すぐ終わるから、我慢して良く見ててね~。なむなむなむ~♪」


 リョウコ先生が、デカい針を引き抜いて魔法をかけると、傷はすぐに見えなくなって、血もすぐに止まった。


「すごいな、これが回復魔法か。」


 痛みで集中しにくかったが、魔力の流れはかなりしっかり見えた。


 そのあとリョウコ先生は泥水に浄化魔法をかけてきれいな水にしたり、机に結界魔法をかけてから水をかけ、ぬれないところを見せたりしてくれた。


 回復魔法だけでなく、浄化魔法や結界魔法も、魔力の流れは完全に捉えることができた。


 よし、これならいけそうだ。



 リョウコ先生は俺にデカい針を手渡した。


「もう少し見学を続けますよ。もう魔法が使える人いますか~? 先生がやったのと同じように、みなさんに見せてあげてくださいね~。」


 アキコ&ハルコと、他に数人が前に出てくる。あ、これ、練習台継続?


 そんじゃ、やってみよう。



 俺はリョウコ先生から手渡されたデカい針を自分の手に突き刺した。


 ぐさっ!


「痛っ!!」

 

 すぐに抜いて、先ほどの魔力の流れを頭の中でイメージし、そして再現する。


 ドバドバ出そうだった血はすぐ止まり、同時に針の傷跡もきれいに消えてなくなる。よし、うまくいったぞ。


「よし、できまし、た?」


 顔を上げてみると、目を見開き、口をあんぐり開けたままになった、リョウコ先生や、双子、前に出てきていた生徒たちの驚きの表情が目に入った。


 口開けっ放しだけど、指突っ込んじゃダメかな? 飴ちゃんならアリ?


「あ、あ、あな、あなた! いったい何なのよ、これ何なのよ!」

「えっと、飴ちゃ、じゃない、回復魔法?」


 飴ちゃんのことを考えすぎて、つい口に出てしまったよ。


「一発成功? 呪文は? 言霊(ことだま)もなし? なんで? ねえ、なんで!」


 胸倉を掴まれて、首を強く前後に揺らされる。


 ぷるんぷるんっ


 俺の豊かなほっぺたが揺れる、揺れる、揺れまくるっ。


 リョウコ先生んがこっちの世界に帰ってくるまで、しばらく時間がかかった。



 その後、顔をひきつらせたリョウコ先生の横で浄化魔法や結界魔法も問題なく成功させ、双子や他の生徒たちの練習台もつつがなく終了させた。前に出てきた生徒は俺も含めて全員、初級魔法がしっかり発動できたようだ。初級合格と免許付与、次回からは中級と言い渡される。


「魔法には魔力だけでなくて呪文が必要ですよ。最初は、先ほど配った紙の呪文を覚えて、唱えるところからはじめてね~。」


 俺、まだ呪文覚えてない……。


 なんだかむなしい思いをかみ殺しているようなリョウコ先生の声に、もうしわけない気持ちが湧いてくる。


 あと、ズイコツくんの殺気がすごいことになっている。そんなことよりまず呪文を覚えようね? 人のことは言えないけど。



 初心者のみんなに課題を渡し、ある程度の説明や指導を終えると、リョウコ先生は俺に向き直った。


「で、エイタくんだっけ? 本当に呪文を使う魔法の練習自体、初めてなのね?」

「は、はい。」


 先ほどの先生の説明によれば、魔法というのは普通、自分の中の魔力を引き出し、そこに呪文とそれに含まれる言葉で力を与えて、そうして初めて作用するものだそうだ。言葉を必要とするため、呪文なしでの魔法というのは極めて珍しい、というよりも、もはやおとぎ話の世界の話らしい。


 そのため、まず呪文を覚えて正しく唱えられるようにするのが、魔法を使うための第一歩になる。自分に合わせて呪文を改変したり、自分だけの呪文を作ったりすることはあるが、それは上級以上のかなりの熟練者の話なのだ。


 こうなって欲しい、という思いや願いを心の中で明確にしながら、自分の中の魔力を引き出すのが、次の一歩だ。実際に魔法が発動するのを何度も何度も見て、その様子を頭の中ではっきり思い描けるようになることが必要なのだ。


 心の中の思いがぼやけてしまうと魔法の効力は弱くなってしまうし、思いがまったく形になっていないと魔法は効果を現さずに霧散してしまう。心の中でまったく別のことを考えていると魔法は発動しないどころか、まったく違う効果が現れたり、逆の効果になったりしてしまうこともあるのだ。


「で、エイタくん、一体どうやったの?」


 回復魔法が逆の効果になって相手を傷つけたり、全然別の、例えば炎が噴きあがったりするようなことがあると、危険などというものではない。これは興味本位で質問しているのではない、とリョウコ先生は言う。


 状況によっては魔法の練習は続けられないし、それどころか俺は一生魔法を使うことを禁止される、そんなことになるかもしれないのだ。いい加減なことを言ってお茶を濁せるような状況ではない。


「えっと、良く見てと言われたので、魔法が出るときの魔力の形? というか流れ? を良く見てて……、それをそのまま再現したというか、そんな感じですかね。」


 あの時のことを思い出しながら、俺はできるだけ正確になるように答える。なんかもう、犯罪者にでもなった気分だ。同じく中級に上がることになった周りの生徒たちの「こいつ、なに言ってるんだ?」と言わんばかりの視線が突き刺さってくる。


「あなた、魔力の形が見えるの? じゃ、これは?」


 リョウコ先生が右手の人差し指を立てた。その先で魔力が動くのがわかる。よし、間違わないようにしっかり答えよう。


「ブヒ~ブヒ~ブヒ~?」

「ブヒ?」


 ハルコから、可愛い声で指摘が入った。


「ブヒ、じゃなくて、ブヒ~という感じ、かな。」


 違いをしっかりと答える。ちゃんと見えているアピールをしないとね。


「じゃ、これは?」


 リョウコ先生の指先の魔力が変わる。


「ブ~~ブ~~ブ~ブ~ブブブブッ、っていう感じ?」


「じゃ、これは?」

「ブヒヒヒ~ンッ、ブヒ~ン?」


「じゃ、これ!」

「ブ~~ヒッ、ブヒ~ヒ~~!」


 かなり悩んでいる様子のリョウコ先生。周りの生徒たちも硬直している。


 答えるたびに怪訝そうな表情を深めるリョウコ先生や周囲の様子に焦る俺。


「これ!」

「ブヒ~ブヒ~ブヒ~!」


 あれ、最初のやつに戻ったぞ?


「う~~~ん……。」 


 リョウコ先生は腕を組んで考え込んでしまう。


 そこにハルコのツッコミが入った。


「豚魔法?」


 いや、待って? ちゃうねん。



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