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12. お昼のひととき

 走り込みが終わった。みんなが膝をついたり座り込んだりしている中、ボルボだけが平気な顔をしている。いったいなんてやつだ。


 俺も自己強化魔法への集中が切れたせいか、一気に疲れが押し寄せてきていた。呼吸も苦しいぜ、ブヒッ、ブヒッ、ブヒッ。


「あなたも回復しておくわね。」

「やっぱり豚呼吸法!」


 級友たちに回復魔法をかけて回っていた双子が、そんな俺も癒してくれた。これは効くなぁ。素直にお礼を言っておく。この二人が今日一番頑張ったんじゃないかな。


「このあとは、しっかり飯を食うんだぞ。食べるのも修行だ。しっかり鍛えて痛めつけて、しっかり食って治す。この繰り返しが強靭な体を作るというのを忘れるな。では以上、解散!」


 ショウ先生は全員への最後の言葉のあと、回復魔法で復活した俺に近づき声をかけてきた。


「エイタ、お前は長時間安定して自己強化できているようだな。自己強化魔法の免許をくれてやるから、学園の外でもしっかり使って体になじませろ。いいな?」


 おお!初めての免許! 先生、ありがとうございます!


 剣を振るときなどに一瞬だけ強化する方法もあるが、魔力量が豊富な俺の場合はずっと魔法をかけ続けたほうが良いそうだ。魔法を使って運動すると体に負担をかけることになるで、体力強化の効率が非常に良くなるそうだ。


 四六時中使い続けて、いつでも自然に自己強化できるようになろう。



 昼食は、寮生はもちろん自宅からの通いであっても、学生食堂でとることになっている。学生食堂では日替わりの二種類の定食から選択できるようになっていて、どちらも栄養のバランスが良く考えられている。ショウ先生が言っていたように、学園では食べることも訓練のうちなのだ。


 昔は弁当も許可されていたそうだが、寮生に比べて自宅生の数が圧倒的に少なく、そのためグループなどの交流や意思疎通に問題が出る事例もあったため、学生食堂の利用が義務付けられることになったそうだ。


 定食は並盛りでもかなりの量があり、大盛りだとびっくりするような量になるそうだ。それだけ食べる必要があるくらい、授業での運動量が激しいという意味でもある。俺やボルボは間違いなく大盛りだな。


 俺たちはグループで食堂の行列に並んだ。四百人の生徒が並ぶのだから、かなりの長い列になっている。看板に書かれた今日のメニューを見ると、一番定食が焼き魚、二番が麺料理になっている。


 行列は思いのほか早く進んで俺たちの順番になった。俺は迷わず二番の大盛りを頼む。だって一番には大盛りがなかったし。ボルボを見ると一番を頼んでいる。当然だが大盛りではない。


「お前それ本気か? 大盛りじゃなくて足りるのか?」


 そう聞くと、「こいつ何言ってんだ?」みたいな表情を返された。


「偉いやつにはわからんかも知れんが、大盛りなんて飾りだ。飯はお代わり自由だぞ?」


 なんてことだ! 一番だと食べ放題ということじゃないか!


「み、みそ汁はお代わりできるから!」


 あまりの衝撃に、俺にはそう返事することしかできなかった。


 そんな俺の姿に、食堂のおばちゃんの天使のような声が聞こえてきた。


「二番でもご飯食べていいし、おかわり自由だよ?」


 学生食堂、ここが天国か!



 食堂には六人掛けの机が二つくっつけるような形で並んでいる。どうしても四人から六人のグループでまとまることが多いので、それも考慮されているのだろう。


 グループ全員が揃って食事が始まったところで、ユウジが話を切り出した。


「みんな、午後の選択は何に出るの? おれは最初は得意な剣術にしようかと思ってるけど。」

「俺も剣術だな。」

「俺も剣術に出るつもりだよ。」


 ユウジだけでなく、キイチロウとスケヨシも剣術からか。


「俺は槍術だ。剣術もせんたくしているけれど、授業途中でも上位への飛び級があるという話だし、俺は剣術はこれからだから、みんなと同じ授業にはならないからな。」


 ボルボも得意な槍術からか。


「私も槍からにしようと思ってるわ。」

「私は弓ね。」

「私たちは神聖魔法から。」


 眼鏡のイスズは槍で、双子は神聖魔法からね。やっぱりみんな得意なものから始めるのかな。


「私もみんなと同じで得意な物、剣からにするよ。エーたんも剣から?」

「いや俺は魔法からだな、神聖魔法にしようと思ってる。」

「あら、どうして? 剣が得意だと聞いていたと思ったんだけど。」


 イスズが理由を聞いてくる。みんな不思議そうだ。


「ああ、さっきの基礎体術で自己強化がかなり使えるようになったんで、動きのバランスがかなり変わった感じなんだ。剣の授業は調整してからの方が良いかなと思ってね。」

「ああ、そういうことか。手足の力加減が変わる感じなのか?」


 ボルボが興味深そうに聞いてくる。近い将来、自分も通る道になるのだから、情報収集は重要なのだ。


「自己強化で手だけ強くなるとか、足だけ強くなるとか、そういうこと?」


 魔力循環が出来ていたキイチロウにとっても大切な話なのだろう。詳しい情報を求めてくる。


「そういうのも出来ると思う。でも体全体を同じくらい強化しても、バランスが変わるんだ。」

「え? どういうこと?」

「足の力が増えると蹴りだした時に足がすべるようになるし、木刀がいつもより軽くなる。そういうのが集まって、なんかぎくしゃくするというか、違和感があるんだよね。」


 みんな何か考え込んでいる、というか自分の武器や型がどうなるかを頭の中で想像しているのだろうか。


「弓の場合だと、本当に微妙な感覚の違いで的を大きく外すことがあるから、かなり大事になりそうな気がするわ。」


 スバルも何か想像がついたようで、少し苦い顔だ。


「レベルもそうかも知れないわね。そこはどうなの?」


 イスズが俺に聞いてくる。


「多分それも影響してる。」


 自己強化だけの問題ではないと、素直に答えておく。


「体もまだ成長するのだし、そのたびごとに調整をくりかえしていく、それでいいと思うし、それしかないと思う。」


 マコちゃんは真剣な顔をしながら何かを決意したようだ。


 定食の味はかなり満足のいくものだった。量も満足、とはいかず、どんぶり飯とみそ汁を追加することになったけれど。お前どんだけ食うんだよ、なんて言われたが、それは腹八分目をモットーにしている俺に失礼だと言いたい。


 他のみんなも概ね満足していたようだが、ボルボだけは「やはり鮮度がいまひとつだな」なんてこぼしていた。毎日とれたての魚を食べていた海の男はやはり一味違うぜ。



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