3-41. 死地からの帰還
俺は瞬間移動でみんなのところに戻ってきた。
「ふう、ただいま。」
「なんだエイタ、やっと戻ってきたのか。」
「ちょっと勝手しすぎだぞ?」
「獲物の血抜きまではやってあるから、解体所までの移動はお願いね。」
あれ? もしかして、誰も心配していなかった?
「いや、事故に巻き込まれて死にかけてたんだけど……」
「はいはい、いいから仕事しようね?」
<おてて無くなっちゃったのに、みんな冷たいね~。>
冷たいよね~。しくしく。
最初は肩から下が全部無くなって、まったく再生しなかったのだけれど、全力の回復魔法を掛けるたびに少しづつ伸びて、なんとか二の腕の半分くらいまでは復活してきた。
このまま指の先まで元通りになればいいんだけどね。あとで信頼できる上位の回復術師、学園や神殿にはそんな人はいないので、母さんにでも相談してみよう。
無の魔力がどんなものかしっかり見ることが出来たし、おそらく再現もできるはずだ。もしも腕が元通りにならなかったら、回復不能の攻撃を身に着けたってことになるわけだから、それはそれで問題ない。
いつものようにダンジョンから瞬間移動で外に出て、解体所に布を返却して割符を受け取った。いつもと違ったのは、片手だと目印の釘を打つのが面倒だったことぐらいだ。
「エーたん、腕は治したほうがいいんじゃない?」
「ああ、これ、無くなっちゃったんだ。」
「え?」
「腕、無くなっちゃった。」
「えええ~~! エーたん、それ、どういうこと?」
「だから、無くなっちゃったんだよね。」
俺の言葉が聞こえたのか、双子が上級回復魔法を掛けてくれたが、やっぱり腕は生えてこない。さっきからずっと魔力循環で回復魔法を掛け続けてコレだからねぇ。魔法一発ぐらいじゃ何も変わらない。
「なんで? まったく治らないじゃない……」
「前代未聞!」
だから早めに経験豊かな上級術師の意見が聞きたいのだ。
「何よこれ、なんで黙ってるのよ!」
「黙秘禁止!」
「いや、ほら、みんなまったく聞く気がないみたいだったし、腕が無いのは見ればわかるだろうし?」
元に戻るのか、それとも戻らないのか、それはわからないけれど、目途がつくまではみんなとダンジョンには行けないだろうね。まあ、起こってしまったことはどうしようもないのだ。
「誰も見てなかったみたいだけど、クロゲワギューを切ったときに、ヤツの瞬間移動に巻き込まれたんだよね。」
「クロゲワギューって、あの黒いウシーのこと?」
「うん、名前をつけてみた。」
実際には、クロゲワギューの魔法ではなく、ルーたんのママうえの魔法だったわけだが、そこは別にどっちでも良いだろう。
「で、飛ばされた先で魔法結界に捕まったんだ。結界の主が危ない相手でね、一瞬で左腕を持って行かれちゃった。腕じゃなかったら死んでたかな? 何とか相手を封じて、結界を解いて戻ってきたってわけ。」
妖獣の放流は続くだろうけど、ナンシー自身が暴れることはない。こちらから近づきさえしなければ何も危険はないだろう。
「怪しい気配の主か……。」
「黙って抜け出したと思ったら、勝手に一人でなんて冒険をしてるんだよ……」
いや、ちょっと待って! 俺の話、ちゃんと聞いていた?
「抜け出したんじゃなくて、戦闘中の事故だよ、事故。連絡しろって言われても、さすがに事故の瞬間に『飛ばされたんで、ちょっと行ってきます』って言うのは無理だと思うよ?」
俺の腕のこともあるけれど、みんなも武器や防具の補修が必要だ。少なくとも今週は、これ以上のダンジョン探索は無理だろう。来週以降のことはまた、その時に考えるしかない。
家に帰ると、俺の左腕が無いことが元で大騒ぎになった。うん、グループでもこういう反応を期待していたんだよね。
母さんの経験では、呪いや祟りを受けた場合や、古い怪我の場合には、回復魔法で再生できないことがあるらしい。そんな時は閉じた傷口を少しえぐって、新しい怪我にすれば治ることもあるそうだ。
精霊の女王ってことは神さまみたいなものだろう。ナンシー自身は何も気にしていない様子だったけれど、彼女も知らないうちに祟られたっていうのは、確かにありそうな話だ。
つまり対策は、少しだけ伸びた腕の先っちょを切ってから回復しまくる、ってことだね。
自分で切るのは難しいので、父さんやマコちゃんに手伝って貰って、毎日切っては生やすの繰り返しを行うことになった。少しづつは伸びているんだけど、完全に元に戻るには、それなりに時間がかかりそうだ。
変わらないこともあれば、大きく変わったこともある。
グループでのダンジョン探索やレベル上げはしばらくお休みすることにしたけれど、魔力循環ごっこや、早朝練習、魔法の個人練習、そして低レベル妖獣の狩りなどは、そのまま続けている。父さんや母さんのレベル上げも同様だ。
とは言え、ダンジョンに一人で狩りに行くのはマコちゃんに禁止されてしまった。
二人で手を繋いで、俺が飛び回ってマコちゃんが斬る、そんな感じだ。収入はマコちゃんと半々になったけれど、エチゴヤの若旦那の商売はそれ以上にうまくいっているようで、実収入はかなり増えている。最近では、ダチョーだけではなく、モアーも流し始めているのだ。
というか、エチゴヤは今では俺の店になっている。神殿の爺様に嫌われて商売あがったりになっていたところを俺が救ったのと、ダチョーの売り上げを放置して、回収せずに再投資していたことで、気づいたら店ごと俺のものになってしまったのだ。
デブタの名前もダチョー肉とともに、全国各地で有名になってきているらしい。
仲間たちとの関係は大きく変わった。まず、ユウジ、キイチロウ、スケヨシの三人がグループを抜けて、三人だけのグループを作ることになった。理由はよくわからないが、そもそもいつかは別れることになる相手だ。寂しいけれど、それが思ったよりも早かったというだけのことだよね。
ボルボや女子組も三人に誘われていたようだけど、全員が断ったらしい。
「ダンジョン奥地への移動手段もないのに、抜けてどうしようっていうんだか。」
「あの三人についていくぐらいなら、エイタの愛人にでもなったほうが何倍もマシよ。」
いや、スバルを愛人にしたいとか、そんなことは全く考えてないからね!
げしっ! げしっ!
な、なんで殴るの!
残りの六人とは、早朝練習のほかに、週末ごとに数回、一緒にダンジョンで低レベル妖獣の狩りを行っている。レベル上げはしないにしても、狩りをしないとお小遣いが足りなくなってしまうのだ。
ダチョーはだぶついているし、モアーは狩りにくいという印象が強い。そのため狩りの対象にしている低レベル妖獣はというと、ロバーやウマーといったところになっている。
そう、妖獣ウマーが復活したのだ。俺が張った結界の上を、五匹ぐらいの群れを作って元気に走り回っている。障害物を用意したのが効いていて疾走速度はそれほどでもないし、群れの規模も小さくなったので、とても狩りやすい妖獣になっている。味もウマー、売り上げもウマーで、とってもウマーなのだ。
時々ウシーも狩ってはいるけれど、角持ちはやはり危険だということで、まだ積極的に狩ることはしていない。
三人が抜けたこと以外にも残念なことがある。女子組が服を着たままでも超加速の共有ができるようになったのだ。心を無にすることなどしないで、あの素晴らしい感触を充分に堪能しておけばよかったと、後悔しても後の祭……
げしっ! げしっ!
だから叩かないで! 痛いってば。
全員の魔力循環の質が上がってきたので、ただの相互魔力循環を行うのではなく、マコちゃん、アキコ、ハルコの三人、入れ替わってイスズ、スバル、ボルボの三人と、交代での魔力循環大会になっている。左腕には常時、全力で回復魔法を掛け続けているので、今だと同時に相手を出来るのは三人が限度なのだ。
アキコとハルコはかなり腕を上げていて、今ではマコちゃんと互角の勝負をするようになってきている。もともと魔力自体はマコちゃんよりかなり強かったしね。この組み合わせはルードラもお気に入りだ。
イスズとスバルはまだあまり余裕がなく、ボルボはまだ完全に耐えられるまでに至っていない。とはいえ三人とも表面魔力の奥義には目覚めたし、この先の鍛錬次第でさらに伸びていくだろう。
腕が元に戻ったら何をしよう? これまで通りにレベルを上げるのも良いし、レベル上げよりもダンジョン内の探索に力を入れても良い。ここのダンジョンだけでなく、全国各地のダンジョンに挑戦するのも良いだろう。
ダンジョンだけではない。全国各地や世界中の秘境を訪ねてみるのも悪くない。
俺は生えかけの左ひじを見ながら、未来の冒険へと心を躍らせていた。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。これでこの物語はいったん終了です。
かなり無理なお願いかも知れませんが、もしも可能であれば評価や感想、批評をいただければありがたいと思います。
名作を書いた作者さんが良く言うじゃないですか、「キャラが勝手に動いて」って。それはこんな駄作でも同じで、キャラって作者の意図を無視して、勝手に動きまわるんだってことがわかりました。プロットではラスボスとの闘いってことになっていたんですが、作者の思いとは裏腹に、主人公もラスボスも、どちらも戦おうとしてくれなくて、なぜだか話し合いで終わってしまいました。
続きが書きたくなるかもしれないので、しばらくこのまま完結にしないでおこうかと思います。
それでは! またどこかでお会いできれば幸いです。




