3-35. 妖獣ウシーの領域
次の早朝、ユウジたちはまだ本調子には遠い感じだったが、それでも全員の顔が揃っていた。女子たちは昨日よりさらにツヤツヤ感が増している。
「確かにやる前より魔力が流れやすくなったかな。」
「毎日はさすがに無理だよね。一週間に一回が限度かなぁ。」
男子組はあの一発でかなり上達したようで、相互魔力循環が形になりつつあるようだ。
「女子組もアレやったの?」
「いや、昨日も普通に出てきていたし、やっていないだろう。」
「それにしては……上達が早くないか?」
女子組は男子組よりもさらにうまく相互魔力循環をこなしているように見えた。とはいえ男子組とは違って、もともとアキコとハルコは出来ていたのだから、そんなに驚くことでもない気がする。
「エイタ、お前何かやったのか?」
「俺に聞かれても……」
まあ、かなりヤったというか、ヤられたというか、どうせならヤリたかったというか。
「ユウジ、よせ。彼女たちは彼女たちで努力している、それだけのことだ。」
「でもなあ、ボルボ……、まあいいか、わかったよ。」
悪いな、俺には何も言えないんだ。まだ殺されたくないからな!
午前の個人練習が終わるころにはユウジたちの調子も戻ってきたようで、午後はいつものようにダンジョンに行くことになった。目的地は妖獣ウシーの領域だ。
「エイタ、天井を張りなおしたんだって?」
「うん、どうなってるのか、俺も楽しみなんだ。」
妖獣ウマー、または別の妖獣が出現するのか、それとも天井を作り直したところで何も変わらないのか。実際にこの目で見ないと結果はわからない。
準備体操の後、妖獣ヤギーの洞窟の出口あたりに瞬間移動する。この先は妖獣ウマーが駆けまわっていた平原だ。そしてその近くには妖獣ウシーの領域への入り口もある。
「ほう、元通り、ってわけでもないか。だいぶ雰囲気が変わったな。」
「見通しが悪くなってるね。」
ウマーが全力で走り回ることが出来ないよう、そこら中に障害物を作ったおかげで、元は遠くまで見通すことができる平原だったものが、荒野のような景観に変わっていた。
「これだと妖獣ウマーがいるのかどうか、ここからだと良くわからないわね。」
「それもそうだけど、そもそも一日で復活するものなのかしら。」
「妖獣のことって良くわからないよね。」
偵察に飛んでもいいのだけれど、今日の目的は妖獣ウマーではなく、あくまで妖獣ウシーだ。ウマーのことは後回しにして、ウシーのところに続く天井穴の方に移動することになった。
「天井に穴、そうか、こうなったか。」
「下まで階段で降りられるようになってるんだね。」
天井の一部を覆わないようにして、そこから壁沿いに箱型の結界を並べて階段状にしてある。こうしてみると結構な深さだ。
ウマーは今となっては格下なので大丈夫だろうけど、ウシーは同格から格上なので壊される可能性はある。まあ、急ぎなら飛べばいいし、壊されても作り直せば良いだけなので、あまり気にする必要はないだろう。
「天井が出来た分だけ、暗い感じになったね。」
「光を反射する結界で覆ったから、星空みたいな天井が隠れて見えなくなったからね。」
ウマーの草原よりは暗いものの、洞窟の他の領域と同程度には視界が確保できている。
「階段の幅がちょっと狭いかな。ここで戦いになったら危ないね。」
それは俺も思ったのだが、壊される可能性があるのでこれは仮階段なのだ。空中を歩けるようになれば問題ないし、もしかしたらこのままにするかも知れないけど。
階段の下の方は、やはり妖獣ウシーに何度か突撃をかまされたようで、結界が弱っていたり、壊されたりしていた。本当は天井用に柱を立てたかったんだけど、これがありそうだったからやめたのだ。柱に引っ張られて天井まで壊されたんじゃたまらないからね。
「少し格上も出てくるから気をつけてね。」
「了解!」
階段の降り口あたりには妖獣はいなかったが、警戒の声だけは上げておく。このグループはみんな強いので、レベル十も上だと厳しいけれど、レベル五ぐらいならしっかり処理できる範囲だと思う。
妖獣ウシーはロバーやウマーよりもがっしりとした体格で、首は太く短い。そして頭の左右に太い角が生えているのが特徴だ。大きさはウマーと同じか、少しおおきいくらいだろうか。
「角ってことは、魔法があるかもな。」
「そうね、警戒していきましょう。」
角と言えばヤギーの幻影や貫通魔法の例がある。ただでさえ少し格上の相手との闘いになるのだ。もしも角に切断などの魔法がかかっていると、かなり危険だ。
「ここの地面だと結界は使えるのかしら?」
「岩がごろごろしてるけど、問題なさそうよ~。」
「それなら壁を作りながら進まない?」
「了解!」
ここは妖獣ウマーの広大な草原の下にあった空間だ。草原と荒野との違いはあるが、あの草原と同様に広大な空間が広がっている。もしもここで妖獣ウシーの大群に出会うと、危険なことになるのは間違いない。
俺が結界を張ってもいいのだけれど、ここはアキコとハルコの双子にお願いすることにした。俺の凸型結界を見てから、かなり研究と練習を重ねてきたらしい。
二人は息を合わせながら、十字型の結界を互い違いになるように建てていく。敵が前から来るとは限らないため、俺の丁字型に比べて十字型のほうが丈夫な壁が築けるそうだ。
「卍型最強。」
それは強いかも知れないけど、時間がかかりすぎるんじゃないかな。そこまでやるならロ型で良い気がするし。
最初は壁伝いに、そして次は荒野の中に切り込むようにして、十字結界の領域を広げていく。遠くに妖獣ウシーがいるのはわかっているが、一足飛びにそこに向かったりはしない。確実に一歩一歩、こちらの領土を広げながら進んで行くのだ。
そしてついに妖獣と接敵した。
「レベル百二十五、四匹!」
「了解!」
こちらに気づいた妖獣ウシーの一群が、唸り声を上げながら突進してきた。
「左、貰うわ!」
「頼んだ!」
ウシーの怒声に抗うようにして、スバルの強弓も唸りを上げた。
バシィッ!
弓から一直線に放たれた太矢は、見事に一番左を走っていたウシーの眉間を撃ち抜いた。
ブモォ~~~~ッ!
「角に魔力反応なし!」
「よっしゃ!」
これは角のある横からの攻撃を解禁する合図だ。
俺の声を受けて、突進してくる三匹のウシーの一番右をユウジが、そして左をマコちゃんが、すれ違うように躱してその首に斬撃を放つ。
そして最後の一匹の頭を、ボルボが正面から槍で貫いた。
格上を狩ったことで、みんなのレベルが上がっていく。
「こいつの突進力は桁外れだな。」
ボルボはウシーを一撃で屠ったものの、その突進力をまともに受けてしまい、かなり後ろまで下がってしまっていた。
「正面からの攻撃は危険ね。」
「一度横に躱して突進を止めてからだな。」
角は危険だが、首が短く頭を低く下げて突進してくる分だけ、ウマーに比べて刀が届きやすい。大群にすると危ないが、少数であれば格上であっても十分狩れる相手だ。
俺たちは警戒を続けながら、さらに十字結界の領域を広げていった。
現在のレベル
ホソカワ・エイタ Lv.126
ツルギ・マコト Lv.125
オニガワラ・ボルボ Lv.123
マツダ・ユウジ Lv.123
ホンダ・キイチロウ Lv.124
トヨダ・スケヨシ Lv.123
タカナシ・スバル Lv.123
ヤマナ・イスズ Lv.125
ヒノ・アキコ Lv.125
ヒノ・ハルコ Lv.124