3-33. やはり魔力こそが鍵だ!
翌日、ボルボが登校してきたのは午後の授業も終わり、個人練習の時間になってからだった。
「まったく酷い目にあった。」
自分から志願したくせに、酷い目にあったは無いと思うぞ。
「だが、はっきりとわかるぐらい魔力循環が楽に出来るようになったよ。ありがとうな、エイタ。」
「お、おうっ!」
かなり大きな魔力の塊がいくつか砕けて剥がれ落ちたからな。かなり魔力が流れやすくなっているはずだ。
「そんなに違うのか?」
「ああ。今まで力づくで魔力を流して自己強化していたが、それが軽くすっと流れるようになった。これなら必殺技ではなく普段から使っていけそうだ。」
いちいち気合を入れて魔力を流す必要がなくなるのはとても大きい。その上、魔力の流れが良くなれば、それに応じて自己強化の出力も上がっているはずだ。
「そんなに違うのか~、ああ~~、でもアレだよな、くそう、悩むぜ。」
「アレじゃなくて、アレの千倍だよ? 強くなる前に死んじゃうよ。」
ユウジとキイチロウがいつものように騒いでいるが、いつもなら一緒に騒いでいるはずのスケヨシが、今日は何か思いつめたような顔をして黙り込んでいる。
「よし、覚悟を決めた! エイタ、頼む。俺にも千倍を食らわせてくれ!」
「おい、スケヨシ、やめとけ! 死ぬぞ!」
だから死なないぐらい、ギリギリで手加減するってば。
「いや、はっきり言って、俺はこの中で一番弱い。強くなる手があるのに選り好みしている余裕があるなんて、ちょっと勘違いしてた。」
正直なところ、みんなそんなに強さは変わらないと思うし、スケヨシは充分に強いけどな。俺なんか大魔力で無理やり自己強化しまくっているだけで、それが無ければ箸にも棒にもかからないわけだし。
「明日のダンジョンはどうするんだよ!」
「すまないけど、俺は休む。」
まあそんなことはどうでもいい。やるか、やらないか、ただそれだけだ。
「やるか、スケヨシ?」
「おう、頼む。」
昨日はボルボが直立姿勢のままぶっ倒れたので、スケヨシには地面に座って貰い、背中側から両手を当てて魔力循環を行うことにした。
「ぐお~~~、ぐぬぬ、ぐわ~~~~っ!」
「まだ二倍ほどだ、頑張れ!」
「うぐぐっ…………」
超加速状態で数分なのだから、体感では数時間の過酷な修行になる。
スケヨシも途中で意識を失ってしまったが、ボルボですら気を失って丸一日何もできなくなったのだから、途中で倒れたとしても何も恥ずかしいことではない。
魔力循環を終え、彼に回復と浄化の魔法をかけていると、ユウジとスケヨシが気合を入れて自分の頬を叩いた。
「ああ、くそう、俺もやるぞ!」
「俺もだ!」
さすがに無理やりこれをするつもりは無かったけれど、自分からやりたいというのならば話は別だ。
俺はキイチロウ、そしてユウジにも、二人と同じように高出力の魔力循環を行った。最初はいろいろ叫んでいたけれど、どうせ数倍になったところで静かになるのだから何の問題もないよね。
<ざこ~、ざこ~、ざこばっかりだ! ぷんすかだよ!>
ルードラはもう少し遊べると思ったらしい。でもルードラと遊べるだけの能力を身に着けるのは、そう簡単なことじゃないからねぇ。
女子組の顔色を窺ってみると、いろいろ思うところがありそうだ。それでも女子組からの志願者は一人もなかった。やはり男子組の惨状を目の前で見てしまっては、自分から踏み出すことは出来ないのだろう。
「このまま放置するわけにもいかないし、寮の部屋に運んでやろうか。」
「そうだね、そうしよう。」
俺はボルボと手分けして、三人を寮の部屋まで運ぶことにした。男子寮は女人禁制なので女子の手を借りることはできない。男子が運び込む必要があるのだ。
「今日の練習はさすがにこれで終わりかな。」
「うむ、明日も無理だろう。俺は体が覚えているうちに魔力循環を鍛えることにする。」
昨日の後遺症でまだ本調子ではないのだろう。ボルボも去って、俺と女子組だけが練習場に残った。
今日はもうまともな練習はできそうにないし、明日も一日お休みになりそうだ。俺は女子組のみんなに断って、魔法練習場に移動することにした。
「エイタ、ちょっと待って。」
「いいけど? イスズも魔力循環に挑戦することにしたの?」
「いいえ。でも少し気になることがあるのよ。」
気になること? 何だろう?
「百倍とか千倍とか、そんな威力のものをマコトが耐えたって? そんなことあり得ないと思わない?」
いや、それはマコちゃんを馬鹿にしすぎじゃないのかな?
「マコトが耐えられないっていう話じゃないの。エイタ、マコトが苦しめることに、あなたが耐えられないでしょ?」
「いや、それは……」
イスズめ。何かに気づいたな?
「マコトを苦しめずに魔力を鍛える方法がある。そうとしか考えられないわ。」
「言われてみればそうね。」
「どこかおかしいと思ってたのよ。何か特別な方法がある、そういうことか。」
「これは白状させないとね。」
「拷問執行!」
女子組四人が俺を囲んで詰め寄ってくる。
「ちょ、ちょっと待って!」
後ずさって逃げようとする俺に女子たちはにじり寄り、絶対に逃がそうとはしない構えだ。助けを求めようとマコちゃんの方を見たけれど、額に手を当てて俯いているだけだ。これはもしかしてダメなやつでは?
……俺を見かねたマコちゃんがすべてを白状してしまった。
…………。
「うーん、そんな技があったか……。」
「抱き合えば効率は十倍になるのね。」
「服を着ない方が効率はいいの?」
「妹によれば三倍以上は違うそうだ。」
「合わせて三十倍以上ね……なるほど。」
「破廉恥。」
いや、マコちゃんとは裸んぼではやってないから! 破廉恥じゃないから!
さすがに彼女たちも時間がかかりすぎて無理なのは分かってくれるだろうし、だからって効率を上げるために俺と裸で抱き合おうなんて考えないだろう。
マコちゃんの場合は魔力が固まりすぎていて、自分では何とも出来ない状態だったので、そうするより手は無かったかも知れない。でも他の仲間たちはそうじゃない。自分たちだけでも進んで行けるはずだ。
うん、大丈夫、逃げ切れる。問題ない!
「裸で抱き合えば三十倍以上。それなら威力を下げても超加速になるから、時間は短縮できるんじゃないかしら。」
イスズめ、また要らないことを……。
「効率自体が上がれば五倍や六倍の威力でも問題はないはずよね。それならこちらからも魔力循環できるし、相互循環なら魔力の成長は十倍以上だから……合わせれば千倍以上になるわね?」
千倍以上はどうか知らないけれど、確かにかなりの効率にはなるはずだ。マコちゃんに助けを求めようにも首を横に振っているし……これは詰んだか? いや、まだ終わってないはず!
しかし女子たちがニコニコしながら俺を取り囲んでくる。にげ、逃げられないっ!
「嫌がらなければ問題ないんでしょ? それじゃ、始めましょうか。」
「作戦開始!」
ちょっと待て、それは言葉の綾だってば。それにこんなところで!?
「ちょっと! ちょっと待って! みんな正気に戻って!」
「私たちは正気よ?」
「そろそろ覚悟を決めましょうね。」
「不言実行!」
こっち来ちゃだめだって。マコちゃんまでなんでこっちに来ているのっ。
イスズもスバルも、なんで俺の後ろに回り込んでいるの!
待って! ほんとに待って! だめ、パンツは許してっ!
「男の子でしょ? シャキっとしなさいっ! シャキっと!」
「根性不足!」
ダメ、ほんとにダメだから!
アッーーー!
「粉骨砕身!」
しくしく。
俺は周りから見えなくなる結界を張らされた上で、着ている物を瞬く間に剝ぎ取られ、無理やり地面の上に座らされた。
「エーたんはしばらく目を瞑っててね? 絶対に開けちゃだめだよ?」
そう言うなり、マコちゃんが俺の膝の上に乗ってくる。何かごそごそしだしたので、俺は慌てて目を固く閉じた。
後ろから抱きついて、両手で俺の目隠しをしているのはハルコだろうか。
「そっか。しっかり目隠しするんだね。それならアリか。」
「たしかにそれほど問題はなさそうね。」
スバルもイスズも何を言っているの! 問題はあるからっ! 大ありだからっ!
<魔力グングンってなるよ! 楽しいよ?>
ルードラも変なこと言うんじゃありませんっ!
痛い痛い、ハルコも目隠ししたフリしながら、俺の目を無理やり開けようとするのはやめて!
良く考えたら、マコちゃんはここで魔力循環する必要ないじゃないか。やめてぇ~。
……………………。
………………。
…………。
……ふう。
空には白い雲が浮かんでいる。
なんだかとてもすっきりとした気分だ。
気が付いた時には、俺は女子五人全員との魔力循環を終えていた。長い時間が過ぎたような気がしたけれど、終わってみれば一瞬のこと。それほどの時間は経っていなかったらしい。超加速って素晴らしい……
確かにいろいろ美味しかったと思われるかも知れないけれど、目を瞑っていたから何も見ていないし、誰が誰だったのかもわからない。まあ、スバルだけはすぐわかったけど。
げしっ! げしっ! げしっ!
痛い! 殴らないで!
そんな抜け殻のようになった俺とは対照的に、女子たちの顔はなぜかツヤツヤしていた。
「確かに今までと全然違うわね。」
「なんだかもう、つるっつるのすべっすべになった感じ。」
固まっていた魔力を包んで圧して崩したからね。
「これは毎日お願いしたいわ!」
毎日とかやめてください、いろいろ死んじゃいます。
まあ思うところはあるけれど、短時間で絶大な効果があったのだとしたら、これで良かったんだと思うことにして忘れよう……。
<お風呂じゃなくても、みんな裸んぼで魔力循環大合戦できそうだね! やったね! 楽しみだね!>
いや、やらないからね!
君たち、自分が何の扉を開けてしまったのか、わかっているのかね?