3-27. 魔力循環で謎体操
午前中の前半、一限目は基礎魔術の授業だ。
基礎魔術は魔力循環の実習、そして自己強化魔法の習得というのがその内容だ。
授業開始の鐘と同時に現れたミサキ先生を見て、レベルが二十六から二十七に上がっていることにすぐ気が付いた。仲間たちもみんな気が付いたようで親指を立てて迎えている。
授業の内容は最初の時と同様に、光る魔法陣を使って魔力を調整しながら流すのだけれど、魔力が強くなってくると俺と同じように焦がしてしまう者も出てくる。
焼いたり焦がしたりしたとき、最初はただで代わりの魔法陣を貰えたのだけれど、それは最初だけ。今は購買で新しい魔法陣を自分で買って来なければならない。俺も予備に十枚ほど買って持っているのだ。
今週からはルードラがいるからね。
ルードラと一緒に行動するようになってからずっと、激しい魔力循環ごっこを延々と続けているのだ。今も魔力循環ごっこの真っ最中、その魔力を一切洩らさずに、魔法陣にはごく少量の魔力だけを流さなければいけない。
<えーい、とう! これじゃだめか、それなら、えい!>
ルードラにそれを教えたのがまずかった。なんとしても俺が魔法陣に流す魔力を揺らそうと、あの手この手で仕掛けてくる。俺もいろいろやり返してはいるけれど、下手なことをすれば自爆してしまうので、どうしても防戦ばかりになってしまうのだ。
<よーし、これで勝負だ! とりゃ~とりゃ~~~!>
うおお! これはきついっ!
防御に失敗した俺は、ついに魔法陣に大量の魔力を流し込んでしまった。
ピカッ!
「ぬわっ! 目がぁ、目がぁっ!」
魔法陣から放たれた閃光は、やはりスケヨシの両目を直撃した。
「なんでいつもこうなるんだ……」
それは俺も知りたい。
スケヨシの目を治療しつつ周囲の状況を見てみると、仲間たちだけでなく、男女混合組も最初と比べると見違えるほど魔力循環が安定しているのがわかった。 みんなかなり個人練習しているのだろう。自己強化は非常に強力で有用な魔法なのでしっかりと鍛えたい、その思いの表れなんだろうね。
男子組はお察しだ。こいつらはやる気があるようには見えないな。五年あるからと高をくくっているのかも知れないけれど、魔力は日を追うごとに上がりにくく、鍛えにくくなっていくのだ。気が付いた時には手遅れになるかも知れない。
それだけじゃない。仲間内でしか言ってないけれど、魔力循環とレベル上昇には、何か深い関係があると俺は思っている。霧の魔力を捕らえる時、それに合わせた魔力で受けてやるとすんなりとレベルが上がるのだから、関係がないはずがない。
うちの両親とマコちゃんの両親の違いもあった。それに昨日、ウシーを踏みつぶした後、俺がレベル百二十六、マコちゃんと双子がレベル百二十四、そしてイスズとキイチロウがレベル百二十二、他の仲間がレベル百二十一か百二十と、見事に魔力循環の優劣に合わせてレベルに差が出来たのだ。
あの時は緊急だったので、謎の霧を丁寧に処理できなかった。その分だけ個人のレベルの上がりやすさが顕著に出たのではないかと考えられるのだ。
魔力循環はしっかりやっておかないと命取りになりかねない。領主のオッサンや神殿の偉い人は双子経由で知っているだろうけどね。もしかしたら学園長あたりも知らされているかも。
基礎魔術の授業が終わって、二限目の基礎体術のために、鎧に着替えて練習場に移動だ。
「あのエイタの試練の後だと、魔力循環がすらすら流れる感じになるんだよな。」
「悔しいがその通りだ。」
「だとしても、あれを受け続けるのは遠慮したいわね。」
へえ、アレって体感できるぐらい効果があるのか。
「そんな遠慮なんていらないのに。仲間じゃないか。」
それならばと、俺は手をワキワキさせながら近寄る。
「待て、今は待て。」
「はっはっは。そんな気兼ねしなくてもいいって。」
彼らを追い詰めようとしていると、後ろから声をかけられた。
「貴方たち、なに面白そうなことをしているの?」
アヤノ先生だ。
「いや、奥義の習得には魔力循環が必要みたいなので、ちょっと仲間たちの手助けをしようと思って。」
「奥義? ああ、表面魔力の制御ね。」
今朝、ハルコ、そしてアキコが奥義を習得したこと、そして相互魔力循環と奥義の習得には関連がありそうなことをアヤノ先生に説明する。
「ふむふむ、面白そうな話ね。その魔力循環、試しに私にもやってもらえるかしら?」
「はい、喜んで。それじゃあ行きますね?」
アヤノ先生の手を握って、魔力を合わせてみんなと同じくらいの量を流してみる。あら、あまり抵抗らしい抵抗がないよ。ちょっとねばつく感じだけれど、どんどん流れていく。
「へえ、ちょっとポカポカするかな。個人に合わせて魔力調整しているのね、あなた面白いことするわねぇ。」
「超加速と飛行の魔力も込めてますよ? この状態で空も飛べます。」
二人で軽く飛んで、同じ場所に戻って着地したところで終了だ。
「これなら嫌がる必要はないと思うのだけど、どういうことかしら?」
「みんなはまだ魔力に引っ掛かりがあるので、かなり痛いみたいです。」
「そういうことか……。」
そこで授業開始の鐘がなったため、その話はそこで終わりになった。
基礎体術の授業は相変わらず謎運動だ。双子は早々にアヤノ先生から合格を貰い、俺やマコちゃんと同じく練習場などの制限がなくなった。
「これで薙刀の授業に復帰できるね、ハルちゃん。」
「アキちゃん、弓も。」
神殿では薙刀と弓を習得しないといけないそうなので、二人はちょっとホッとした顔をしている。
俺とマコちゃんもみんなと同じように謎運動を行っていたのだけれど、超加速なしだとなんだか時間を無駄にしている気になってしまう。
「先生、手をつないで魔力循環しながらやってもいいですか?」
「へえ、面白そうじゃない。いいわよ。やってみて?」
先生の許可も得られたので、片手をつないで超加速しての謎運動を試してみる。早朝練習でやっている空の走り込みの延長のようなものだ。
身長差があるからか、マコちゃんは足場を出して少し体を浮かせているので、俺もそれにならって少し浮かせてみる。
マコちゃんは当然さらに体を浮かせなければならず、そしてまた俺はそれに合わせてもう少し浮かせて。そうやって繰り返し、マコちゃんの体はいつもの数倍ほど空に浮かんだ状態になった。
魔力循環しながら、奥義を使いながら、そして俺と合わせながらの謎運動なので、マコちゃんにはかなりの負荷がかかっているはずだ。俺の負荷も結構高い。
<おー! もっとぐるぐるー、どっかーんってやろう!>
ルードラが参戦してきた。
<えー、いつもより弱い~!>
いつもの魔力合戦ごっこと違って手をつないでいるだけなので、魔力の出力的にマコちゃんがかなり厳しい。
五分ほど続けたので少し休憩。五分と言っても百倍速なので、八次官ぶっ続けたのと同じくらいの負荷になっている。
「休憩したら、つなぐ手を変えてみようか。」
「ええ、それが良さそうね。」
出力が上がらなかったのが幸いしたのか、マコちゃんもなんとか耐えられたみたいだ。
「へえ、それはかなり良さそうね。」
アヤノ先生にも興味を持ってもらえたようだ。双子も真似し始めているし、これから先の謎体操は二人組ってことになっていくかも知れない。
男女混合になるかどうかは知らないけれど。