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3-26. 奥義の会得

 月が明け、今日から五月だ。


 月初めの週は月曜日が二回あって、一週間が七日間ではなく八日間になる。一ヶ月が二十九日のときは八日間あるのは最初の週だけなのだけれど、一ヶ月が三十日のときは第三週も八日間に増える。


 ちなみに来月は六月だけれど、今年の六月は二回あって、一年が十三ヶ月になっている。なんでこんな面倒なことになっているのかわからないけれど、そうなっているのだから俺にはどうしようもない。



 早朝、練習のために学園に集まったところで、イスズが何かの紙を配り始めた。


「新しいレベルに合わせて計算しなおしてみたから、しっかり見ておいてね。」


 おお、イスズ理論の更新版か。


 なになに、いろいろあるけど、先週までの百八十倍の速さだとか、走れば数秒で王都まで行けるとか、数分で世界一周とか、もう頭の中で想像できるものを越えすぎていて、よくわからない……。


「なるほど、まったくわからん。」

「そうね、計算していて、私もまったくわからなかったわ。」


 なんと全否定の全肯定とは。


「エイタもイスズも難しく考えすぎなんだよ。」

「そうだ、キイチロウの言う通りだね。そこは簡単に考えればいいんだよ。」


 なにかうまく想像する方法があるのか?


「スケヨシ、どう考えればいいのか教えてくれ。」

「単純な話だよ。俺たちは先週、イスズ理論で百八十倍のうち、百倍くらいをこなせるようになった。」


 百倍だったかどうだか、今となってはわからないけど、そういうことにしておこう。


「残りの八十倍と新しい百八十倍、合わせて二百八十倍を新しい目標にすればいいってことだ。」

「いやそれ、計算がおかしくないか?」


 いすずが首を縦に振っている。うん、やっぱり間違っているよな。


「スケヨシ、八十倍と百八十倍、足したら二百六十倍だぞ。」


 あれ? いすずが首を横に振っている。計算を間違えたか?


「……新しい目標は三百二十倍ほどね。」

「ふっ、やはり俺のほうが正解に近かったようだな!」


 なん……だと? そんなはずは……


 イスズは肩をすくめていた。おかしい、何を間違ったというんだ。


 実際にはどれぐらい違うのか。マコちゃんと手をつないで一緒に空を走ってみると、それなりに速度は上げられそうだけれど、とてもじゃないが百八十倍には程遠い。


「せいぜい二倍か三倍ってとこかな。」

「むう、頑張るよ!」


 マコちゃんの顔にはやけに気合が入っている。これは負けず嫌いに火が付いか。


 王都まで数秒っていうのは超加速なしでの計算だけれど、超加速ありで空中を走ってその数字っていうのを目標にしてもいいかも知れない。



 空から降りて、謎運動を続けている仲間の様子を覗ってみる。


 昨日ダンジョンから帰る時には、みんなレベルの上がり過ぎで体調が良くないという話だったけれど、誰かが突然どこかに跳んで行ったり、急に結界にぶつかったりといったことは起こらず、それほど大きな問題はなさそうに見えた。


「みんな、そこまで酷い状態じゃないみたいだね。」

「そういうのじゃなくて、絶好調が戦う前に終わったというか……。」


 ユウジが言うには、久々の絶好調だったのに、何かをする前に無くなってしまったのが、精神的にかなりきつかったということみたいだ。


 ああ、そういうことか。まだ安定してなくて、好調と不調の波が大きいってことね。


 俺とマコちゃんはもう安定しているので、そもそも絶好調だと感じていなかった。だから何かを失った気もしていないし、なにも問題に感じていないってわけだ。


「それじゃあ長期休養して調整する必要なさそう?」

「今は要らないかな。そっちの方が良いのかも知れないけど。」


 他のみんなにも聞いてみたが、みんながみんな、休養よりは進む方を選ぶようだ。


 謎運動を見ているだけだと、みんなかなり調子良さそうに見えるんだけどね。


「あ!」

「ハルちゃん、どうしたの?」


 そう思って眺めていたんだけど、ハルコが声を上げると、急に謎運動をやめてしまった。やはり調子が悪いんだろうか。アキコもちょっと心配そうだ。


「見つけた。」

「何? 何が見つかったの?」

「奥義。」


 そう言うとハルコはちょんっと跳び上がって空中に停止した。


 ああ、表面魔力のことがわかったのか。


「ええ~、ハルちゃん! それどうやってるの!」

「アキちゃんにもあるよ、奥義。」


 ハルコが空中から手を伸ばし、アキコを引っ張りあげる。するとアキコもそのまま落ちることなく、空中に留まった。


「ああ! わかった、これね!」

「そう、奥義。」


 知らなかったけど、奥義ってそうやって見つけるものなのか。


「ハルコ! 私の奥義がどこかわかる? 見つけて!」

「ない。」

「えええええ~~~~! ない? ない? ないの!?」


 あまりの返事に、スバルが絶望のあまり倒れそうだ。


「今は見つからないって意味だよね?」

「うん。」

「ああ、そ、そういう意味か。死ぬかと思った。」


 みんなに詰め寄られていたけれど、ハルコは他の仲間たちの奥義もわからないらしく、見つけられたのはアキコの奥義だけだった。あくまで双子のアキコだからわかったってことのかも知れない。


「確かにこれって、一度出来るようになっちゃうと、今までなんで出来なかったのかわからないね。」


 そんなことを言いながら、アキコとハルコは空中を歩いている。マコちゃんはまだあまり高いところまで上がれないけれど、二人にはそういうことはなさそうだ。


「やっぱり魔力をしっかり鍛えることが奥義の近道なのかな?」

「たしかに魔力は関係してそうだね。」

「魔力重要。」


 アキコとハルコも同じ意見のようだ。


 それを聞いたみんなが、俺のほうに片手を伸ばそうと集まってくる。


 しかしそんな仲間たちよりも素早く、双子は空中を歩いて俺の前まで来ると、そこでしゃがんで手を伸ばしてきた。俺も二人の方に手を伸ばす。


「魔力循環しながら一緒に空を走るってことだよね?」

「その通り、再挑戦よ!」


 よし、その勝負、受けて立つ!


 確かに奥義を手に入れた今なら十分いけそうだ。俺は魔力を二人に合わせてしっかり調整し、超加速や飛行の魔法が発動する程度の強さで二人に流し込んだ。


「あばばばばばばばばっ!」

「ぐげげげげげげげげっ!」


<あははははは~。ざこ~ざこ~!>


 無理だった。


 レベルも倍の百二十を超えたことだし、行けると思っていたのだろうけれど、それとこれとは話が違うのだ。


 そしてそんな双子の無残な姿を見て、さっきまで集まろうとしていた仲間たちも一斉に後ずさりを始めた。


 でも逃がさない!


「ふはははははは~~、待て待て~~っ!」

<にがすな~~おいかけろ~~~!>


「く、来るな~、ぐえええええっ!」

「おがあぢゃ~~ん、ぶおおおおおおっ!」

「いやぁ、やめてぇ~~、ぎょえええええええっ!」


 全員が悪魔の餌食となったところで、今日の早朝練習は幕を閉じた。



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