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3-25. 妖獣ウマーの最期

「そんなことより、大切な話があるよ。」

「そんなことって、エイタ、あなたねぇ……」


 俺たちのレベルは確かに大きく上がった。先週末の二倍ほどになった。


 でもそれよりも大切なことがあるのだ。


「あの妖獣の名前は、ウマーにしようと思うんだけど、どうかな?」


 あの妖獣の肉はきっと美味いはず、それなのに持って帰って来られなかった。この悔しい気持ちを込めて、妖獣ウマーと名付けたい!


 もしも反対する人がいたら、そう心から訴えるつもりだったんだけど、誰の反対もなかったので、妖獣の名前はあっさりとウマーに決まった。



「妖獣の名前なんかより、この後どうするかよね。」

「槍が折れた。今日はもう無理だな。」

「私は薙刀を置いてきちゃったわ。」

「私もよ、弓もだけど、矢がボロボロ。」


 いろいろ突然のことで、みんなそれぞれ装備を失っているようだ。しっかり確認してみると、武器だけでなく、背負い袋や腰袋に穴が空いたり、肩紐が切れたりと、修繕が必要なものが結構ある。


 俺の場合は旗を立てる時の杭が曲がったくらいで、大きな損害はなかった。杭なんて曲げなおせば問題なく使えるし。


 今日はもうこれで終わるしかないけれど、来週からどうするか。今日の続きで草原にいくのか、それとも別の場所の探索を始めるのか。それは確かに大きな問題だ。


「あれと戦うのは厳しくない?」

「レベルがめちゃくちゃ上がったから負けないと思うんだけど、どうかな?」


 あれじゃなくて、妖獣ウマーね。


「狩るなら狭い場所に追い込まないと厳しいと思う。」


 レベルが大きく上がったとはいえ、あの物量に対抗できるだろうか?


 妖獣ウマーは回復魔法を持ってはいるが殺すことは出来る。でも獲物として狩るのは困難だろう。


 何より問題なのは、やはりあの数だ。さっと近づいて首をすっぱり斬って殺すことは出来るだろう。でもその後どうなるか。倒した獲物は持ち帰る前に後続に踏みつぶされてしまう。


 そこが問題になると思うんだよね。


「別の道を探すのか……、それも面倒くさいな。」

「うまく迂回できないかな。」


 あそこにウマーの大群がいる以上、今の俺たちではあの草原のど真ん中を進むのは困難だろう。なんとかして回避したほうが良さそうだ。


「今日はもう解散なら、俺は一人であの現場を少し調査しに行っておきたいな。」

「一人で? エーたん、それは危ないよ!」

「別に狩りをしに行くわけじゃないし、危険だったらすぐに逃げるよ。」


 そのまま進むにしても、道を変えるにしても、一度は誰かが現場を確認しておく必要があるのだ。



 みんなに断りを入れてから一人で戻って軽く現場を観察してきたところ、いろいろなことがわかった。


 あの草原、俺の結界が下に伸ばせなかったのは、やはり地面の下に結界があったのが原因だったようだ。あそこには何者かが張った巨大な結界があって、そこに土砂が積もってあのような草原を形作っていたらしい。


 俺が瞬間結界で、その元からあった結界に大量の穴を開け、そして妖獣ウマーの大群がそれを無理やり吹き飛ばした結果、元からあった結界が破れて床が持たなくなり、崩壊したと思われた。


 元からあった結界の中には、妖獣ウマーよりもさらに格上の妖獣が何匹もいたようだけれど、それも俺の瞬間結界で切り裂かれてご臨終となっていたようだ。かなり深く埋めようとしたからね。


 俺たちはそんなところに落ちて、格上妖獣の霧の魔力を吸い取ったために、とんでもなくレベルが上がったのだろう。


 どちらにしても草原は完全に崩落して、全く見る影もないただの大穴になっていたのだった。



「進むも何も、草原が無くなって、穴になってた。」


 程度のよかったウマーを何匹か回収したけれど、今後も狩り続けられるかどうか、そもそもウマーが生き残れるかどうかすら誰にもわからない。何しろ縄張りが完全になくなってしまったのだ。幻の美味さである。


「エイタ、つまりあなたはダンジョンの床に穴を開けて、落ちた先の妖獣を踏みつぶして、それで私たちのレベルが上がった。そういうこと?」

「いや、スバル、それだとかなり語弊があるよ!」


 たしかにデブだけど、超格上の妖獣を踏みつぶすほど重たくないし!


 俺は何も悪いことはしていないはず、本当に偶然そうなっただけなのだ。


「で、穴の中なんだけど、同じような草原になってて、ウマーじゃない別の妖獣が数匹ごとに群れになっていたよ。レベルは百二十から上って感じ。」

「同格ぐらいってことか。」

「大きさは? 狩りやすそうだった?」


 大きさはウマーと同じくらいに巨大なうえ、ウマーよりもがっしりとしていて首も短く、頭の左右に角が生えていた。


「大きい妖獣だから、飛ばないと頭や首には届かないと思う。でも群れの単位は小さかったし、同格なら何とかなるんじゃないかな。」


 変な妖術を使うかも知れないが、そのあたりは実際に狩りに行ってからのお愉しみだ。


「それなら、来週はその妖獣の様子を見に行ってもいいかもね。」

「その妖獣には、ウシーって名付けたよ。」


 今回発見された超高級肉のウマー、そして超高級肉として名高いシカー。その二種類を合わせたぐらいの極上高級肉になって欲しいという願いを込めて、ウマーとの『ウ』とシカーの『シ』を合わせた、妖獣ウシーだ!


 妖獣ウマーと同じく、妖獣ウシーの命名も、あっけなく全員の合意を得ることができたのだった。



 今までもレベル上昇は早かったけれど、今回は今までにも例がないほど急激にレベルが上がることになってしまった。


 俺とマコちゃんは何も影響はないけれど、その影響で他のみんなはかなり体調を崩したようだ。「せっかく絶好調だったのに元に戻った」と嘆いていたけれど、俺のせいじゃないので睨むのはやめて欲しい。



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