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10. 基礎体術

 基礎魔術の授業の次は、基礎体術だ。


 戦闘技術系の実習に出る場合は制服から防具に着がえる必要がある。各々がローブを脱いでロッカーに放り込み、代わりに自分の鎧を取り出す。男女とも更衣室が用意されているが、全裸になるわけでもないので、男子はそのまま教室で着替えても問題ない。俺も昨日ダンジョンで使った鎧を取りだして着替え始めた。


 女子の鎧は色もあでやかで、それなりに種類があるらしいが、男子の鎧はほとんど同じ形で、色も黒がほとんどだ。革の服の上下に手袋と長靴、そして服の上に胸当てなどがついていたりする。素材自体もかなり高価で頑丈なものだが、それがさらに魔法で強化されているため、革なのに鋼鉄よりも強度ははるかに高いらしい。


 着替え終わったら、指定された屋外練習場へ移動だ。


「体術ってどんなことするんだろうな。」

「鎧着用だし殴り合いかもしれん。」

「いや、相撲みたいに組み合うか、柔術の寝技みたいなものじゃない?」

「女子と合同授業で組み合って寝技? なにその天国?」


 ちょっとやめて! 想像したら歩けなくなっちゃう!


 屋外練習場に着替え終わった甲組の生徒たちが集まってくる。全員が鎧姿なのでやはり威圧感が高い。男子たちの黒光りする真新しいレザーアーマー。そして女子たちの色鮮やかな鎧、いわゆるビキニアーマー。


 ダンジョンに出入りする大人の戦士や、学園の上級生たちが鎧姿で町中を歩いているのが日常風景なので、特に驚くことはないのだけれど、それでも同年代の女子たちのビキニアーマー姿はとても感慨深い。


 ゆっくりじっくりすみずみまで観察して、その素晴らしさを褒めたいところだが、怒られそうな気がするのでやめておこう。


 ポカリッ!


 マコちゃんに叩かれた。


「な、なぜに?」

「女性のファッションを褒めないのは紳士ではありません。」


 ショートカット眼鏡のイスズから指摘が入った。


 そっちに一度視線を向けると、あまりに素敵でたぶん目が離れなくなるだろうけど、覚悟を決めて、えい!


 あまりのすばらしさに時が止まった。


 ポカッ! ポカッ!


 また叩かれた、今度は二発も。


「じろじろ凝視するのは論外です。」


 ごめんなさい。


「マコちゃん、とっても似合ってる。」


 ポカッ! ポカッ! ポカッ!


 ちゃんと褒めたのに叩かれた。


「人前で褒めるなんて恥ずかしいに決まってます。もっとさりげなくなさい。」


 イスズさん、厳しいです……。


「しかし女子はみんなちゃんと自分が似合う鎧を選んで、しかもしっかり着こなせてるよね。」


 ちゃんと見てないけど、ごまかすように適当にことを口にする。


 眼鏡がキラッと光って、うなづくのが見えた。これで合格なのか? いい加減に言っただけなのに。


「俺たち男子は似合う似合わない以前に、鎧に着られてる感じだよな。」

「しっかり使い込んで体に馴染ませるのが重要ということか。」


 俺の適当な言葉に、ユウジとボルボがなかなか良いことを返してくる。

 

「自分に似合うのと言ったって、女子と違って男子は形は同じだし。女子のは色々あって色鮮やかなのが良いよな。」

「男子のは黒とこげ茶と灰色だけだもんなぁ。」


 キイチロウとスケヨシがそんなことを言っているけれど、三色から選べるにも関わらず黒ばっかりなわけだから、いくら色が増えてもみんな変わらず黒を選びそうな気がするぞ。女子が色鮮やかで良いと思うのには賛成だが。


 そんなたわいもない会話をしていると、少し離れたところからボソッとつぶやく声が耳に届いた。


「ビキニアーマー良いなぁ。僕も着てみたいな。」


 ひ、人それぞれだし、挑戦してみても良いと思うよ? 別に禁止はされてないはずだし。


「俺、ビキニアーマーになりたいなぁ。」


 それは男子みんな思っているかもしれないけど、口に出しちゃいけないことだぞ。



 鐘が鳴り、担任のショウ先生が何やら大きな箱を抱えて現れた。俺たちと同じ黒鎧姿だ。かなり年季が入っている。


「お前ら基礎魔術は受けたな? 基礎魔術がすべての魔法の前に行う基礎だとすると、基礎体術は剣でも弓でも同じ、すべての武技を行う前に行う基礎だ。わかったら少し広がれ。」


 話を聞くために先生の前に集まっていたが、集まらずに少し広がるようにと言われる。


「稽古を始める前に、まず準備体操を行う。稽古は体をほぐして温めてからのほうが、効率が上がるし怪我もしにくい。」


 自分に続くように真似をするように告げて、ショウ先生は一、二、三、四と掛け声をかけながら、腕やひざを曲げ伸ばしたり、腰や肩をひねったり、とびはねたりといった運動を順番に、掛け声に合わせて行っていく。俺たち生徒は見様見真似でそれに続く。


「しっかり覚えて稽古の前だけでなくダンジョンに潜るときも必ずやれよ。」


 ショウ先生が終わりと言いつつ手首と足首をほぐしはじめたので、俺たちも黙って同じようにする。

 

「次は柔軟体操だ。体格が会う者同士で二人組をつくれ。」


 俺と体格が合うのはボルボぐらいだろう。向こうも同じことを思っていて、すぐに二人組になった。


「こういう時にすぐに組めるのは良いな。」


 俺もそう思う。


 腕や足を引っ張り合ったり、上に乗ったり乗られたり、ツルギ道場でやってるやつもあるけど、やったことないのもある。マコちゃんもするだろうけど、あとでツルギのおっちゃんたちに伝えておこう。



「次は走り込みだ。稽古場の周囲をぐるぐる走るぞ。で、その前に、だ。」


 ショウ先生は持ってきた箱を空ける。いったい何を持ってきたのか、中に何が入っているのか気になっていたのだ。


 先生は短い二本の棒を箱から取り出すと片手に一本づつ持って、その場で走るときのように腕を振り始めた。


「走るときはこの棒を持って走れ。重さにはいろいろあるが、最初は軽いやつでいい。もっと負荷を上げたくなったら少しづつ重い物に上げていけ。」


 みんなが自分の分の棒を取りに集まっていると、先生の言葉が続いた。


「それは自分用の支給品になる。基礎体術のときは必ず持ってこい。なくさないように大切にしろよ。それより重い物は購買にあるから買うか、なんなら自作しても良い。」


 実戦で走るときは武器をもって走りまわることになる。実際の武器を持って走ると体の左右のバランスが崩れてしまって大怪我につながるので、武器の代わりに両手に同じ重さの短い棒をもつのだそうだ。鎧を着て走るのもそれと同じ意味だという。


「他に質問は?」

「男子と女子とで鎧の構造が違うのにも理由がありますか?」

「それはまず、女子はどうしても男子に比べて体力が劣るので、できる限り軽量の鎧が望ましいこと。また女子は激しく運動すると胸廻りが引っ張られて千切れるほどの痛みになる。その対策のためにこの形状になっていると聞いている。」


 なんと、ビキニアーマーにはちゃんとした理由があったのか。見た目だけで決めたのかと思っていたよ。


「他にないならいくぞ、全員駆け足! ちんたら走るなよ、気合入れていけ! 最後まで走り抜け、脱落した者はクラス落ちだ。明日からこの甲組に席はないぞ!」


 え? 今なんて?



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