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1. 豚と真珠

「俺、魔法騎士学園に入って、将来は魔法騎士になるんだ。」

「エーたんも? 私も魔法騎士学園に入りたいって思ってるんだ。」


「マコちゃんのマネしんぼ!」

「マネしんぼじゃないもん! 前から思ってたもん!」


「それじゃ、僕と一緒に魔法騎士学園に入る?」

「うん、一緒に魔法騎士学園に入る!」


 どういう話の流れだったのか、今では良く覚えていない。でも何を約束したのかははっきり覚えている。


 魔法騎士学園への入学。


 それが俺と彼女との幼い日の約束だ。



 俺はホソカワ・エイタ、十三歳。かなりぽっちゃりした体形で、はっきり言えば『デブ』だ。『ブタ』ともいう。


 そして顔は丸く、個性にあふれている。簡単に言えば『ブサイク』だ。俺の顔は部品一つ一つは非常に良いものが揃っているのだが、福笑いチャレンジに失敗しているのだ。


 家のとなりの剣術道場に通っているが、正直なところ運動はあまり得意なほうではない。剣術の腕前もあまり良くない。刀の形に削った木の棒きれで素振りをするのだけれど、なんというかこう、自分でも何かギクシャクしている感じがする。


「エーたん、力入りすぎだよ。」


 そんな俺にちょっかいをかけてくる奴がいる。


 マコトだ。マコトは剣術道場の先生の娘で、俺と同じ年の幼馴染で、かなりの美少女だ。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んで、この数年でかなり女性らしい姿に成長した、と思う。


「邪魔しないでよ、マコちゃん。」

「邪魔じゃないもん、アドバイスだもんね!」


 おそらくマコトの指摘が正しいのだろう。彼女は俺よりもはるかに剣術が強いのだ。もっと幼い時ならどうだったか覚えていないが、最近彼女と試合をして勝てたためしがない。


 俺の稽古は週一回だけど、彼女は毎日なのだから、腕に違いが出てくるのも当然なのだけれど、子供というのはそういうことは気にしないものだ。


 俺は棒切れを足元に投げ捨てて、ドガァっとお尻を地面につけて座りこんだ。ちょっと休憩だ。


「あー、エーたん、またサボるしぃ。」

「サボってるんじゃないよ。これは力をたくわえているんだ。」

「サボりんぼー。」

「サボってないってば。」


 彼女は俺が投げ捨てた棒切れを拾い上げて、軽く素振りを始める。棒切れを振るたびに彼女のポニーテールが揺れる。


 俺の素振りがボヨヨ~ンって感じだとすると、彼女の素振りはビュッって感じだ。何がどうなのか、細かいことは良くわからないけど、感じとしてはそう。


「明日だね。いい結果が出てるといいな。」


 マコトが素振りを続けながら口にする。


「どうだろうなぁ。まあ、今更あせってもどうしようもないけどね。」


 幼い日の約束、明日その結果が出るのだ。



 俺とマコトが幼い日に約束した、魔法騎士学園への入学。それは俺たちだけではなく、多くの若者があこがれる夢だ。


 魔法騎士とは、レベル三十に到達した者たちに与えられる絶対強者の称号だ。魔法騎士学園はそんな魔法騎士を養成するための学校であり、魔法騎士になるための『最も正解に近い道』と言われている。


 魔法騎士学園の伝統と権威は、同じ王国内だけではなく近隣諸外国にも響き渡っており、多くの優秀な学生が国内からだけでなく、国外からも集まってくるのだ。


 レベルとはいったい何なのか、神々の祝福と恩恵だという者もいれば、生命の力そのものだという者もいる。魂の力、魔法の力、邪神の呪い、様々な説があり、その研究にたずさわる者も多いが、何が正解なのかはいまだ判明していない。


 しかしレベルは神話や伝説、おとぎ話のたぐいではない。この世に確実に存在する現実(リアリティ)そのものなのだ。そして事実として、レベルが高くなれば高くなるほど、戦う力は強くなるのだ。


 レベルは自分と同等かそれ以上の者を打ち倒した時に上昇する。そして高くなれば高くなるほど上昇しにくくなり、あるところで頭打ちになる。


 どこで頭打ちになるかは大きな個人差がある。レベル十の戦士級を越え、レベル二十の騎士級に到達出来る者は数少なく、さらにそれを越えてレベル三十の魔法騎士級に達することのできる者はきわめて珍しい。


 なぜ頭打ちになるのか、どうすれば突破できるのか。研究や仮説、経験則など、かなり真実味や確証性のありそうな方法から、ほとんど詐欺やペテンのような物まで、古今東西さまざまな説が飛び交っているが、決め手になるような『正解』はまだ見つかっていない。


 そういった中には、『どこまで成長できるのかは自分の心の声が教えてくれる』だの、『魂に刻まれた文字を読み解けば自ら成長限界は見て取れる』だの、眉唾な説もあった。


 誰も信じそうにないこれらの言葉がそれなりに知られているのは、最初の言葉がレベル四十を超えた前剣聖、2つ目の言葉が大賢者と呼ばれた初代魔法師団長の言葉だったからに違いない。


 なにが真実か。なにが正解か。


 自分の人生を賭けるに値するのはどの言葉か。


 確実な正解の存在しない中で、多くの若者たちがもっとも可能性が高いと考える道、それが魔法騎士学園への入学、そして学園での研鑽なのだ。


 十四歳になれば学園の入学試験を受験できる。


 俺と彼女の幼い日の約束、それが現実のものになるのか、それとも夢に終わるのか。


 入学試験の結果発表は明日だ。


 うわ、眠れない……。



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