表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/87

エピローグ  聴いて! あたしのソプラノっ!(4)

「コンサート頑張ってっ!」

 そう言って一歩踏み出した晃がビニール袋をスッと差し出すと、すぐに陽介と光輝がササッと晃の両側に付いた。

「姉ちゃんっ、これは俺たちからのプレゼントだっ!」

「ぷれぜんとだっ!」

「ぷれじぇんとだっ!」

 えっ?

 プレゼント?

 ゆらゆらと揺れているビニール袋の中には、なにか円筒形のものが透けて見えている。

 ゆっくりとそれを受け取って、そっとその中を覗いた。

「あ……」

 すると、そこにあったのは、白いプラスチック鉢に植わった、ちっちゃなイチゴの株。

 ハッとした。

「えっと……、晃、これ、イチゴ?」

「おうっ! でも、ただのイチゴじゃないっ!」

 すぐに聖弥くんを見上げた。

 聖弥くんが、とっても優しい瞳であたしを見下ろす。

「日向、分からないか? あのガラス混じりの土の中から、みんなで助け出したんだぞ?」

 弟たちが声を張り上げる。

「お父さんのイチゴだっ! みんなで助け出した、本物だ!」

「ほんものだっ」

「ほんもにょだっ」

 てっきり、あの嵐の夜にぜんぶダメになってしまったって思っていたのに。

 思わず、袋ごとその鉢をグッと抱き寄せた。

 嬉しい……。

「姉ちゃんが毎日、歌を聴かせて可愛がったイチゴだ。そう簡単に死んじまわないぜ。この株を増やして、また姉ちゃんの歌を毎日聴かせてやってくれ」

「やってくれ」

「やってきゅれ」  

 晃……、陽介……、光輝……、本当にありがとう。

 そうお礼を言おうとした瞬間、今度は突然、聖弥くんがピョンとステージから飛び下りた。

 弟たちの前に立って、それからゆっくりと振り返る。

 え? なに?

「次は俺からだ。あのときのお返し」

 あたしを見上げる聖弥くん。

 聖弥くんを見下ろすあたし。

「えっと……、お返し?」

「うん。この前、日向のお母さんから聞いてな。日向が保育園のとき、教会の聖歌隊に花束を渡したって話。日向は覚えてるか?」

「え? えっと、うん」

「俺、思い出したんだ。あのときの、日向の笑顔」

 なに?

 どういうこと?

 聖弥くんがちょっと真面目な顔をして、ポケットからなにかを取り出すと、一歩近づいてあたしにそれをすっと差し出した。

「花束をもらったとき、俺、日向の笑顔を見て、なんて可愛いんだって、そう思ったんだ」

 え?

 えええ?

 もしかして、あのときの、あたしが花束を渡した聖歌隊の男の子って……。

「俺は、あのときからずっと、日向を捜していたのかもしれない。これは、あのときのお返しだ」

 うそ。

 信じられない。

 あのときの男の子が、聖弥くんだったなんて……。

 これ以上ないくらいの、聖弥くんの笑顔。

 ハッと我に返って、彼が差し出したその手を見る。

 その手のひらにあったのは、イチゴ色のフェルトが貼られた、小さな箱。

 え? まさか……。

「また、俺の前に戻って来てくれて、本当に嬉しい」

 まさか、まさか、まさか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ