エピローグ 聴いて! あたしのソプラノっ!(4)
「コンサート頑張ってっ!」
そう言って一歩踏み出した晃がビニール袋をスッと差し出すと、すぐに陽介と光輝がササッと晃の両側に付いた。
「姉ちゃんっ、これは俺たちからのプレゼントだっ!」
「ぷれぜんとだっ!」
「ぷれじぇんとだっ!」
えっ?
プレゼント?
ゆらゆらと揺れているビニール袋の中には、なにか円筒形のものが透けて見えている。
ゆっくりとそれを受け取って、そっとその中を覗いた。
「あ……」
すると、そこにあったのは、白いプラスチック鉢に植わった、ちっちゃなイチゴの株。
ハッとした。
「えっと……、晃、これ、イチゴ?」
「おうっ! でも、ただのイチゴじゃないっ!」
すぐに聖弥くんを見上げた。
聖弥くんが、とっても優しい瞳であたしを見下ろす。
「日向、分からないか? あのガラス混じりの土の中から、みんなで助け出したんだぞ?」
弟たちが声を張り上げる。
「お父さんのイチゴだっ! みんなで助け出した、本物だ!」
「ほんものだっ」
「ほんもにょだっ」
てっきり、あの嵐の夜にぜんぶダメになってしまったって思っていたのに。
思わず、袋ごとその鉢をグッと抱き寄せた。
嬉しい……。
「姉ちゃんが毎日、歌を聴かせて可愛がったイチゴだ。そう簡単に死んじまわないぜ。この株を増やして、また姉ちゃんの歌を毎日聴かせてやってくれ」
「やってくれ」
「やってきゅれ」
晃……、陽介……、光輝……、本当にありがとう。
そうお礼を言おうとした瞬間、今度は突然、聖弥くんがピョンとステージから飛び下りた。
弟たちの前に立って、それからゆっくりと振り返る。
え? なに?
「次は俺からだ。あのときのお返し」
あたしを見上げる聖弥くん。
聖弥くんを見下ろすあたし。
「えっと……、お返し?」
「うん。この前、日向のお母さんから聞いてな。日向が保育園のとき、教会の聖歌隊に花束を渡したって話。日向は覚えてるか?」
「え? えっと、うん」
「俺、思い出したんだ。あのときの、日向の笑顔」
なに?
どういうこと?
聖弥くんがちょっと真面目な顔をして、ポケットからなにかを取り出すと、一歩近づいてあたしにそれをすっと差し出した。
「花束をもらったとき、俺、日向の笑顔を見て、なんて可愛いんだって、そう思ったんだ」
え?
えええ?
もしかして、あのときの、あたしが花束を渡した聖歌隊の男の子って……。
「俺は、あのときからずっと、日向を捜していたのかもしれない。これは、あのときのお返しだ」
うそ。
信じられない。
あのときの男の子が、聖弥くんだったなんて……。
これ以上ないくらいの、聖弥くんの笑顔。
ハッと我に返って、彼が差し出したその手を見る。
その手のひらにあったのは、イチゴ色のフェルトが貼られた、小さな箱。
え? まさか……。
「また、俺の前に戻って来てくれて、本当に嬉しい」
まさか、まさか、まさか。




