エピローグ 聴いて! あたしのソプラノっ!(3)
「日向ちゃん、もういつでもいいよ」
「ありがとうございまーすっ! お義父さんっ!」
「ううー、俺、娘が欲しかったんだ……。いいもんだなぁ、娘から『お父さん』って呼ばれるの」
うわ、聖弥くんのお父さん、顔が真っ赤。
「さぁ、ひなっ! お母さまを呼びなさいっ!」
「うんっ」
大きく息を吸って、二階のお母さんの病室へ向かって思いきり声を張り上げる。
「おかぁーさぁーんっ! もう、見ていいよぉー!」
あたしの声を聞いて、窓からひょこっとお母さんが顔を出した。
目をぱちぱちさせて、すっごくビックリしているみたい。
いつか、聖弥くんがお母さんから聞いたって言う、お母さんの夢。
『お母さんの夢は、合唱のステージで一生懸命歌う日向を、客席から応援することだってさ』
それを、どうしても叶えてあげたいって、聖弥くんが先週言い出して。
それに翔太も小夜ちゃんも手伝うって名乗りをあげて、ついには聖弥くんのお父さんまで。
「ひなのお母さまーっ、アタシたちがお母さまの夢を叶えますわーっ! さっ、コンサートを始めるわよっ! ジャガイモーズっ、拍手っ!」
応援用のメガホンで司会を始めた小夜ちゃん。
ワーッという声とともに、野球部員たちが叩く拍手がバチバチと辺りに響く。
うわ、一年生だけかと思ったら、上級生も来てるじゃない。
マネージャー小夜ちゃん、意外に人気なのかも。
「日向、行こう」
「うん」
聖弥くんがあたしの手を引いて、優しくステージへ上らせてくれた。
足元には、野球部のみんな。
右には、メガホンを持った小夜ちゃんと、その隣で心配そうに彼女を見ている翔太。
左には、我が家のアップライトピアノに向かう、聖弥くんのお父さん。
その向こうには、翔太のお父さんと、水城先生の姿も見える。
そして、すっと上げた視線の先には……、窓から見下ろす、満面の笑みのお母さん。
「お母さん、笑ってる。あー、でも聖弥くんのお母さん、やっぱり来てないね。何度も誘ったのに」
「ありがとな。気を遣ってくれて。しかし日向、よく平気で俺の母親に電話できるな」
「いろいろ話して分かったの。お母さん、たぶん、寂しいんだと思うよ? あ、今度ね? 小夜ちゃんちで、聖弥くんのお母さんと小夜ちゃんと一緒にジャム作りやるの。お母さんが教えて欲しいって」
「ふうん。あのとき食ったジャムがよほど美味かったんだろうな」
ちょっと苦笑いした聖弥くん。
大丈夫。
聖弥くんのお母さんも、あたしのお母さんと同じようにきっと元気になるから。
そうやってふたりでちょっとコソコソ話していると、突然、青空をつんざくような大音量のアニメ声が響き渡った。
「ひなっ! コンサートを始める前に、あんたへのサプライズよっ!」
「えっ?」
いや、サプライズって、普通は言わないもんじゃ……。
なんなんだって思いながら小夜ちゃんを見ると、小夜ちゃんがあたしの視線とは反対のほうをちょいちょいと指さした。
振り向くと見えたのは、列になって行進してくる我が最愛の弟たち。
さらに、なんだなんだと思いながら見ていると、三人はステージ下のジャガイモたちの前に並んで、ビシッとキヲツケした。
右から、晃、陽介、光輝。
晃の手には、なにやら白い手提げビニール袋がぶら下がっている。




